日本経済新聞の記事

なかなか紹介の時間が取れませんでしたが、日本経済新聞の7月23日付夕刊に「将棋連盟 経営改革へ新手」という見出しで瀬川晶司氏のプロ編入試験に関連した記事が出ています。筆者は文化部の神谷浩司記者。様々な数字も充実しており、日本将棋連盟の置かれた状況がよくまとめられています。

皆様もご存じのように、瀬川氏のプロ編入試験第1局は400以上の席が埋まるなど大きな注目を集めました。この記事の冒頭では、このような新しいイベントにより新たなスポンサーを開拓することに成功した様子が書かれています。

第一局では紀伊国屋書店の協賛を得て、ホール使用量などを二割程度安くしてもらった。編入試験全体の協賛企業になったのはNEC。瀬川氏がNECの関連会社社員であることから実現した。

NECは協賛金(金額は非公開)を出す代わりに、インターネット中継の権利を得た。インターネット接続サービス「BIGLOBE」でブログ(日記風の簡易ホームページ)を特設、対局中に棋譜や指し手の解説などを文章で伝えた。動画の関連サイトを含めると十八日だけで百万近いページビューがあった。

このように話題を盛り上げることで、日本将棋連盟の出版部門にてこ入れを図りたいというわけです。

将棋連盟はプロ棋士を正会員とする社団法人で、二〇〇四年度の収入は二十八億八千万円だった。主な収入源は新聞社などから入る棋戦契約金で、同年度で十七億六千万円。ここからタイトル保持者への賞金や現役で約百五十人いる棋士への対局料を支払っている。

このような収入の中でも特に立て直しが必要とされているのが出版事業なのです。

この記事の右手には「日本将棋連盟の収益事業収支」と題するグラフがあります。ここ10年間の「収益事業の収入」および「収益事業当期損益」が描かれています*1。数字を見ると、「収入」は七冠フィーバーのあった1995年度には10億5000万円まで伸びていましたが、それをピークに下降線をたどり、2004年度にはおよそ6億円まで落ち込んでいます。「当期損益」は同じく1995年度の約2000万円をピークに増減を繰り返していますが、1997年か1998年度に当期赤字に転落してからは一度も黒字転換することなく、2004年度には赤字が4000万円以上にまで拡大しています。

この収入減少の一因は、機関誌の「将棋世界」の不振にあると言います。

収益事業の中では、出版部門の柱である機関誌「将棋世界」(月刊)の売り上げが減少。実売部数は十年前、約八万部あったとされるが、現在は半分以下とみられる。

このように赤字削減を迫られる中で、未来を考えての戦略も考えられ始めています。

中長期的経営戦略の立案に向けた動きも出始めた。五月に米長会長の諮問機関「経営諮問委員会」を設けたのに続き、七月七日には棋士有志が勉強会を開催。大手企業で経営戦略の立案などを手掛ける竹中健一氏(37)を講師に招いた。

竹中氏は棋士養成機関である奨励会に在籍していたことがあり、親しい棋士に依頼され、連盟の財務諸表を分析した。団塊世代向けの普及戦略が重要などと提言。米長会長ら理事を含め約三十人の棋士が耳を傾けた。

日本将棋連盟の理事は全員が棋士ということに象徴されるように、プロ棋士は運営に関して外部に意見を求めずにやってきました。このように自分たちだけで決めたいという意識が改革を遅らせたと、この記事では指摘されています。現状を顧みるに「改革は待ったなし」というのが正しい認識なのでしょう。

11月11日追記

ここで紹介した記事が下記ページで読めることに気付きました(グラフはありません)。公開されたのは8月16日頃のようです。

*1:「収益事業」とは、公益法人が(非営利ではなく)一般の事業と競合する形で行っている事業を指します。日本将棋連盟の場合、出版事業による収入・将棋会館売店での売り上げなどがこれに相当します。