瀬川晶司四段関連情報

少し更新を休んでいたので瀬川晶司四段関連の話題がたまっています。まとめてどうぞ。

12日にプロ初対局

12日(月)に行われる竜王戦ランキング戦6組1回戦が瀬川晶司四段のプロとしての公式戦初対局となります。相手はNEC将棋部で同僚だったアマチュア清水上徹氏。棋譜・解説・関連記事などは下記のページでご覧になれます。

以前から感じていたのですが、ブログのURLが対局ごとに変わってしまうのはやめた方がいいと思います。RSSで手軽に読めるのがMovable Typeなどのブログツールを利用する利点の一つなのに、URLが変わってしまうのではそのつど登録し直さなければならないのでその利点が失われてしまっています。ブログそのものを別々にするのではなく、カテゴリを分けるだけにした方が後々まで便利なはずです。

ところで、ブログのあるURLのドメインshogi-live.netになったのですね。また新しいものが登場しました。様々なところからのリンクが残っているryuoh.jpを使うのが最も効果的と思うのですが。

また、当日午後7時からは将棋会館大盤解説会が行われるそうです。1回戦で大盤解説会というのはさすがの特別扱いですね。解説を担当するのはプロ編入試験第3局を戦った久保利明八段だそうです。

読売新聞の記事

12月2日付の西條耕一記者によるコラム。

今回はアマの夢を阻止しようかという敵役。「負けろ」という手紙が自宅に届き、「自分の勝負なのか、将棋連盟としての勝負なのか。勝つ意味は何か」と悩んだこともある。

「普通の勝負じゃない」と分かっていたが、上座に着き、駒を並べる指が震え、升目に入れるのがやっとだった。将棋を覚えてから初めての経験だった。

それでも初手を指し、報道陣が退室すると盤上に集中した。大駒が派手に飛び交う空中戦。終盤チャンスが訪れた。しかし、「プロ代表」という肩書は、手堅く見えて、結果的に甘い手を選ばせた。

「言い訳しても仕方ないが、自分のための将棋なら踏み込めた」

プロである以上は対局機会が増えるのは本来喜ぶべきことのはずですが、プロ編入試験の対局相手を務めることはある種の罰ゲームのような色合いを帯びていました。プロ対アマ、あるいはプロ対女流の対戦が始まったときもそれに近い緊張感があったのかもしれません。おそらくこれから何らかの形でプロ編入試験が制度化されると思いますが、そのようにして試験から物珍しさが消えていけば平常心で戦えるようになる日が来るのでしょう。

朝日新聞の記事

逆境を乗り越えた人を扱うコラム。次週に続きます。

ここで瀬川は決断の一手を指す。後手3二銀引。相手の攻めを引き込む強気の手だ。自ら千日手を打開したのだ。

奨励会の時なら迷わず千日手にして、結論を先延ばしにしていた。でも同じようにして負けていたら進歩はない。打開したのは、アマを経験して、積極的に指した方が結果がついてくるという思いがあったから」

瀬川はこう振り返る。

おそらく後手が打開しなかったら先手が打開していただろうと思いますが、そのように積極的な気持ちが勝利を呼び込んだということですね。

1月に瀬川四段の本が発売に

年明けの1月中旬に『棋士 瀬川晶司』−61年ぶりのプロ棋士編入試験に合格した男− という本が日本将棋連盟から発売されるそうです。(気が利かない副題ですが)

主な内容
瀬川晶司ロングインタビュー「将棋――かけがえのないもの」 (聞き手・大庭美夏)
藤井猛九段、深浦康市八段解説による「瀬川将棋の強み」 (構成・鈴木宏彦
◎「瀬川さんと私」(野月七段)
将棋世界誌連載の「六番勝負観戦記」全局
そのほか西條耕一、池崎和記遠藤正樹、渡辺健弥、NEC関係者の各氏、角建逸(将棋世界編集長)、木村明弘(連盟事務局)が執筆

時機を逃さずにこういう本を作ることは商売の上は大事なことですね。私は購入予定ですが、将棋世界の観戦記を収録するなら、銀河戦の好局集も付けてほしかったと感じます。

久間章生自民党総務会長との対談

メールで情報をいただきました。

12月1日付の記事。久間章生自民党総務会長と瀬川四段との対談の動画があります。

久間章生総務会長は今年4月に発足した「国会議員将棋連盟」の会長で、アマチュア名誉六段だそうです(久間氏の公式サイトのhttp://www.f-kyuma.com/には五段と書いてあります)。なかなかこういうところで話す機会はないですから、瀬川四段いつも以上に緊張している様子で、久間氏から「先生」と呼ばれることがさらに拍車をかけていたように見えました。

内容は、この話題を知らない人でも一応わかるような形で淡々と進んでいました。

この対談がどのような経緯で実現したのかはよくわかりませんでした。こういうことがあると米長邦雄永世棋聖から告知があるのが通例なのですが、今回はなかったと思います。

週刊将棋インタビュー

遅い話題ですが、週刊将棋11月30日号に瀬川四段のインタビューが中央見開きで掲載されています。奨励会を退会したところからプロになるまでの経過を順を追って話しており、ある程度事情を知っている人にとっては最も読み応えのあるインタビューになっていると思います。一つ印象に残ったのが次の部分。

――サラリーマン時代、奨励会の夢を見ることはありましたか。

三段リーグの夢はよく見ましたね。
 早くいかなきゃ遅刻してしまう…
 あっでも、もう辞めているからいいんだ…
 これを勝っていれば四段なのに…
という感じで。やはり三段時代の4年間が印象に残っているようです。」

それだけ三段リーグは特別なものなのでしょうね。落ちた人はもちろん、通った人もそういう夢を見ることがあるのかもしれません。そして、アマになって奨励会員とアマチュアの違いを感じたそうです。

――アマ大会に参加して、プロにはない特有の熱気を感じなかったですか。

「そうそう、それはあった。強く感じたのは神奈川大学時代に出場した団体戦なんですけど、その熱気がすごいんですよ。レギュラーじゃない人も必死にチームを応援したりしている。まさに団体戦。自分は将棋はあくまで個人競技と思っていたし、自分が勝手チームが負ける、またその逆も釈然としないタイプだったから、『こういう世界もあるんだな』と驚きました」

――アマの方は本当に純粋ですね。

「正直言って、奨励会時代はそういうアマの純粋さを“煙たい”と思ったこともありました。奨励会時代はむしろ、距離を置きたい部分もあるくらいで。まあ、それがプロとアマの違いなのかもしれませんが。でも自分がアマ大会に浸るうちに、そういう純粋さが心地よくなってきたんです。

あと、みなさん将棋界のことを実に真剣に考えておられるんです。例えば、最近大会の参加者が減少しているな、とか。私が奨励会時代に考えていたことは、とにかく自分が強くなる、あるいは勝つことだけで将棋界のことはまったく考えていなかった。極端な話、アマの方は将棋がなくなっても生活していけるけど、プロは途端に窮する。本当はプロが真剣に考えなければいけないことを、アマが一生懸命考えている。考えさせられましたね」

奨励会に入る子どもたちで将棋界を良くしようとか、将棋人口を増やそうなどと考えている子はいないと思います。自分が強くなることだけを考えているのが普通ですし、その時期にはそうでなければ強くなれないでしょう。それは奨励会試験の主要な要素が対局試験であることからもわかります。

しかし、将棋界ではプロ棋士とは社団法人日本将棋連盟の会員のことであり、会員というのは連盟の「将棋道の普及」という目的に賛成してそのために活動する人のはずなんですよね。それなのに、三段リーグではひたすら将棋の対局結果だけが求められている。ここに将棋界の矛盾があります。本当に普及活動に専念しているのは、指導棋士だったり、指導普及員だったりと会員ではない人たちなわけですから。

プロが自分の実力向上しか考えないとしても、それはある意味では普通です。ほかの競技でも選手が普及に協力するのは当然としても、自ら先頭に立って普及に務めることはあまりありません。強くなることと普及を進めることを全ての人に両立させるのはなかなか難しいと言えます。

奨励会に入る子どもたちはプロ棋士になって将棋だけで食べていける生活を目指しているのですが、実際には普及のことを考えなければいけない現実があるということをどの時点で認識してもらうのか。大きな課題だと思います。

将棋世界でプロ編入試験第5局の自戦記

12月3日発売の将棋世界2006年1月号で、瀬川四段のプロ編入試験第5局の自戦記が掲載されています。この将棋では△3五飛という新手から激しい流れが生まれました。そのような手ですから当然研究範囲だったのだろうと思っていたのですが、実際にはその場で考えた手だったそうです。▲4三角は軽視していたそうで、自ら「不用意な一手だった」と評しています。その前後の瀬川四段の心境は臨場感がありました。

ただ、その先の手順解説などは分量が少なく、よくわからない部分もありました。ページ数もそれほど多くありませんし、検討時間もなかったのでしょう。

そのほかに、試験官を務めた中原誠永世十段の評と、「合格に寄せて」と題して縁のある人や将棋界トップの棋士などのコメントが掲載されています。深浦康市八段の「これからが大変」というのは大方の感想だと思いますが、羽生善治四冠の「瀬川さんが実力を発揮できれば、C2に上がるのはそれほど難しくはないのではないかと感じています」というコメントが目を引きます。