女流棋士独立問題 2006年3月の「女流棋士会役員会便り」など

2006年3月の「女流棋士会役員会便り」

3月12日の女流棋士独立問題 2006年3月の米長邦雄永世棋聖の発言などで紹介した文章に続いて、大庭美夏女流2級が2006年3月30日付の「第9回女流棋士会役員会便り」の抜粋を公開しました。これは石橋幸緒女流四段が公開したごきげん・DE・ブログ あれから〜2006年3月8日13時 米長会長の発言。とセットになるものです。この2つの文書は、2月25日に開催された「女流棋士との親睦将棋会2007」の後に行われた「女流説明会」で配布されたそうです。公開が突発的に行われたわけではないことがわかります。

さて、2月25日の段階で文書が配布されていたということは、それまではこの内容を知らない女流棋士がいたということになるのでしょうか。文書を読んだ女流棋士がどのような考えを持ったのかが気になります。

この「役員会便り」は、2006年4月14日に行われた女流棋士会臨時総会を前にして、開催に至った経緯を女流棋士に説明しています。石橋女流四段が公開した部分に関する言及は以下のようになっています。

役員会はこれまで「女流棋士の地位の向上」「女流棋士の立場の確立」を目指し、将棋連盟、理事会に対し、数々の要望書を提出してまいりました。「女流棋士の貢献度に対して将棋連盟の評価が低い」という思いもありました。しかし、現在将棋連盟は財政的にとても厳しい状況で、将棋連盟本体のことで大変だということもあり、女流棋士のことをきちんと考えることができない、というのが現状のようです。また、将棋連盟の景気がどうであれ、女流棋士の立場を認められない(奨励会制度をクリア、もしくはそれと同等と理事会が認めたもの以外は正会員としない)、というのが将棋連盟の基本姿勢ということのようです。また、以前から「女流棋士会は独立したほうがよい」と米長会長からいわれ続けてきており、真意を改めて確かめたところ、やはり「独立をしたほうがいい」という返答でした。

間違ったことは書かれていませんが、米長邦雄永世棋聖の発言のごく一部しか伝えていないことがわかります。たしかに、あれはなかなか書けないだろうと思います。

女流棋界は長い期間にさまざまな過程を経て新法人設立にむけて動き出すことになったこと、そして、今まであまり準備委員会が情報を公開することができなかったのは、例えそれが事実であっても(あるからこそ)、将棋界全体のためにプラスにならないと考えたからであること、など、ご理解いただければ幸いです。

わたしたちは、皆様に応援していただきながら、みんなで自分たちの道を歩んでいきたい。願いはただそれだけです。簡単な道でないことはわかっています。でも、苦労してでも自由に可能性を試してみたいのです。

ファンの皆様の暖かい声が何よりの励みであり、後押しです。どうか、さらなるご声援ご協力をお願いいたします。

日本将棋連盟のトップがあのような考え方を持っているということになるとすると、女流棋士を目指す女子はいなくなってしまうでしょう。それだけをとっても、ここに至るまでそれを書けなかったのは理解できます。2月10日に紹介した中井広恵女流六段インタビューなどの中で、中井広恵女流六段が「子供に『女流棋士になるといいよ』と勧められるような待遇にしなければ」と話していたことが今さらながら思い出されます。

ところで、こうなるとその臨時総会での米長永世棋聖の発言がどんなものだったのか気がかりです。

米長邦雄永世棋聖の「さわやか日記」

石橋幸緒女流四段のごきげん・DE・ブログ あれから〜2006年3月8日13時 米長会長の発言。に対して、米長邦雄永世棋聖さわやか日記の中で書いています。

親の顔 投稿者:米長邦雄 投稿日: 3月13日(火)17時49分57秒

石橋幸緒君がどこかに私が誤解されるようなことを書いたようです。

本人に確認するのが私のやり方です。
「君が書いたのは本当か」
「はい」
「私が言ったことではなく、君が受け止めたままを書いたのだ。
実際、女流棋戦を増やすのは困難とは言ったが、君の書き方は間違い。現に私は(理事会は)ネット棋戦やきしろ杯、中戸杯等女流のために相当額を外から持ってきたではないか。『私はこのように受け止めました』と話し合いをすべきであろう」

相手にケンカを売る場合は石橋君のやり方で良いんでしょう。親の顔が見たい。
こういうやりとりもあるので私は忙しいんです。

「私は(理事会は)」というあたりにすでに苦しさが見えていますが、女流棋戦を増やしたので「そして今後、女流棋戦を増やすことはないとの事。自分達でスポンサーを探しなさい。」は誤解だということのようです(実際には、きしろ杯はその時点ですでに始まっていましたが)。

この書き方が不用意に見えるのは、これではそれ以外の部分は事実だと思われることです。もともと、その日に実際に会って話したところまでは事実として認められているので、あとはそこで何が話されていたがが争点となっているわけですが、石橋女流四段が公開した文書はその日のうちに書かれたものなので、記憶違いということはほとんどないと考えられます。すると、会話の内容を捏造しているのでなければ、あとは米長永世棋聖が「君の書き方は間違い」と書いたように同じ言葉でも解釈によって意味が違うという話になってきそうです。しかし、今回の文書は問題点だらけで、一箇所や二箇所の解釈が違う程度では収まらないでしょう。

例えば、米長永世棋聖が真っ先に否定すべきだったと思うのは、女流棋戦を縮小または廃止するというニュアンスの発言です。拡大提案ならともかくそのような提案を主催社が簡単に受け入れるとは思えず、米長永世棋聖(または日本将棋連盟理事会)が独断で進められるような事案ではないはずです。

米長永世棋聖の文章にはファンに向かって書いているという意識が私の感覚では感じられないところに常々不満を感じています。上の大庭美夏女流2級の文章ではファンに対する説明・呼びかけがありますし、女流棋士新法人設立準備委員会ブログ 声明でも「ファンやスポンサーの皆様のお気持ちにお応えするため」という言葉が入っていました。それに対して米長永世棋聖の文章からは、それを読んでいる不特定多数の人がいるという感覚が伝わってきません。今回で言えば、石橋女流四段とその関係者だけに伝わればいいと思っているように見えてしまいます。世界が違うとある種の断絶が生じることは避けがたいのかもしれませんが、それを少しでも埋めるような態度を見せてもらえたらもう少し違ってくるのではないかと思うのですけれども……。

ちょっとした感想

いろいろ書きましたが、「まぁ、男性棋界だって食べられなくなってきているので、これ以上女流棋士に関わることはイヤ!」という点に関してはそういう感情があるのかなとは思いました。この2年近く、日本将棋連盟は職員数を減らしたり将棋博物館を閉館したりして、支出の削減に努めてきました。米長永世棋聖としてみれば、その延長線上にそのような発言が出てきたということなのかもしれません。

名人戦問題の結果として普及協力金が5年間入ることになったかわりに、棋戦の契約金額の総額は減少しました。このままいくと次の対象は男性棋士という発想もあったのかもしれないと私は思っています。もともと日本将棋連盟の支出の多くは男性棋士の収入となっていますので、この最も大きい部門に手をつけずに支出の抑制を終わらせることはできないと考えるのは自然だろうと思います。

女流棋士という存在を格下げして支出を削減するという施策が極めて近視眼的であることはあえて指摘するまでもありませんが、その先のことをどこまで視野に入れてこういう話が出てきたのかは後からでもいいので知りたいと思っています。