「女流棋士 分裂の危機」など

毎日新聞の記事(3月15日付)

毎日新聞の3月15日付朝刊にこの問題に関する記事が出ました。

準備委は2月に入り、新法人設立に向けた寄付金の募集を始めたが、理事会は「了承していない」と反発。さらに「相当数が連盟への残留を希望している」として、一定の理解を示していた態度を硬化させた。

理事会は女流棋士に対し、3月7日付で「連盟に残留した場合、対局の権利を保証する」「新法人へ移籍した場合、対局の権利は協議により決まる」などと記した文書を送付。22日までに残留届か移籍届を提出することを求めた。

準備委は9日、「女流棋士の分裂を前提にし、それを固定化させるもの」として文書の撤回を要求。文書中に「女流棋戦の主催者との間で『連盟を外した契約は考えられない』と確認した」とある部分については、複数社の担当者が「そんな話は決まっていない」と理事会に抗議した。

寄付について日本将棋連盟理事会が「了承していない」となっていますが、女流棋士新法人設立準備委員会ブログ 読売新聞2007年2月14日朝刊掲載記事についての見解では「正式に同理事会のご了解を頂いております」となっており、日本将棋連盟理事会はこの文書に正式なコメントを出していません。両者の行き違いが深刻になったのが見えたきっかけは、私の見ていた限りでは1月17日に日本将棋連盟理事会から女流棋士全員に対して送付された「お知らせ」だったと思っていました。

引用した最後の段落では、女流棋士新法人設立準備委員会ブログ (再)要請書の主張が肯定される形で書かれています。この件に関して、日本将棋連盟理事会は公式に反応を示していません。

毎日新聞社は女流棋戦を主催していませんが、毎日コミュニケーションズが販売の週刊将棋はレディースオープントーナメントを主催しているので、関係があるといえばあるのかもしれません。

「独立派」と「残留派」が記者会見(3月16日)

3月16日に「残留派」の女流棋士13名が出席した記者会見がありました。出席者として名前が出ているのは、今のところ、斎田晴子倉敷藤花、谷川治恵女流四段、古河彩子女流二段です。読売新聞の記事によると、3月7日に日本将棋連盟が送付した文書(回答期限は3月22日)に対してその13名はすでに残留と回答しているようで、すでに後戻りできない感じです。時事通信の記事によると、谷川治恵女流四段は残留を希望する女流棋士が「『わたしたちを含めて20人以上いると思う』と述べた」そうですので、残留希望者がどう転んでも過半数に届かないことは明確なようです。50名を越える人の考えが一致することは通常は考えにくいので、最終的には女流棋士会総会で投票を行って決めるのだと思いますが、そうなると女流棋士会の意志決定としては「独立」ということになるわけで、今回の13名は脱会してでも残留するということなのでしょう。個人的には「独立」に3分の2以上の賛成があるならまとまって独立だろうと思っていたのですが、微妙なところですね。少なくともどうしても残留を希望する人を止める権限が女流棋士会にないのは確かです。

ともあれ、これまで「残留派」の女流棋士の声はほとんど表に出てこなかったので、こうした機会は貴重と言えます。記事に書ききれなかった部分のやりとりも知りたいところです。

これに対し、残留希望組は独立問題が持ち上がって以来初めて会合を開き、「女流全員の意思統一ができておらず、連盟との関係も冷え切ったままでは独立に賛成できない」として、初めて公式に残留を表明した。斎田晴子倉敷藤花や谷川治恵・前女流棋士会長ら13人が参加。斎田さんは「12月には賛成しましたが、そのときは独立できるかどうかを見極めるための案だと思って賛成した。当初の円満な独立を目指すという目標も、いまは円満とはいえなくなっている」との考えを表明した。

会見した谷川治恵女流四段は「独立に反対なのではなく、連盟と対立するような進め方に懸念を感じる。白紙に戻してほしい」と、新法人設立準備委員会に対する不信感をあらわにした。

独立に反対ではないという話ですが、すでに残留と回答してしまったということはもう妥協は考えていないということになるのではないかと思います。このタイミングで独立できなかったら、たぶんもう無理だろうと私は思うのですけども……。独立した後の運営にどの程度成算があるかの見積もりは人によって異なるでしょうし、それを考えた上で移るのと残るのとを比較して自分にとって後者の方が得になると判断することは有り得るかなと思います。ただ、残留したときにその後にどの程度成算があるのかという点はどうかのかと疑問を感じる部分もあります。16日に初めて会合を持ったということですから、残留を希望する女流棋士もそのあたりはまだ詰め切れていないのではないでしょうか。

2月25日に女流棋士に配布されたとされるごきげん・DE・ブログ あれから〜2006年3月8日13時 米長会長の発言。の内容がすべて事実だとすれば残留は考えにくいので、残留を希望する女流棋士はその文書の一部または全部は事実でないと判断しているのだと思われますが、当時どのような話があったかだけでなく、現在の日本将棋連盟理事会が女流棋士についてどう考えているのかを確認することも重要です。

米長邦雄永世棋聖は「残りたい人の権利尊重のため、今回女流棋士の意思確認をした次第です」と書いていますが、その「権利」の中身として出てきているのは現在のところ女流棋戦で対局をする権利だけです。そのほかの「交通費は自腹」*1とか「女流棋士会の解散」*2とか「女流棋士室の撤退」*3とかいう話がどうなっているのか不明です。そういった点を確認して文書の形できちんと残した上でそれを公表することが最低条件として必要だと思います。それは残留する女流棋士にとって重要なだけでなく、そうでないと今後女流棋士になりたいと考える女性がいなくなってしまうのではないかと恐れます。

日本将棋連盟理事会が2月21日に発表した女流棋士独立に関連して日本将棋連盟の制度について述べられていますが、これは要するに日本将棋連盟女流棋士の地位向上とか女性の将棋ファンを増やす取り組みはこれまでほとんどなかったしこれからも行うつもりはないという意思表示だと私は受け止めています。分裂してでも残留しようとする女流棋士は、現状から改善していくためにそういう態度を見せている日本将棋連盟理事会を説得にかかる責務を負っていると私は考えます。もし女流棋士の価値は皆こんなものだと自分自身で考えているのであれば好きにしてくださいということになるのですが。

一方で、独立を進める女流棋士新法人設立準備委員会も16日に記者会見を開きました。

準備委の説明会には女流棋士26人の他、男性棋士16人も参加。終了後、会見した準備委員長の中井広恵女流六段は「あくまで全員で新法人に移りたい、と説明した。反対の人たちとも粘り強く話し合っていきたい」と語った。

この日、独立を目指す集団は第3回設立準備委員会を開き、新たに企画委員会を設置した。準備委員会には関西勢も含めて27人が出席。記者会見した中井広恵委員長は「今の段階で分裂しての独立は考えたくない。あくまでも女流がまとまって連盟に祝福されて独立したい」と述べた。が、現実には再三にわたる連盟との話し合いを拒否され、局面打開に苦心しているのが実情。

女流棋士の人数が少し異なりますが、出席者は残留派の2倍程度ということです。ところで、日本将棋連盟理事会は女流棋士新法人設立準備委員会より各界への寄付の要請に関する理事会の立場についての中で話し合いの機会を設けるよう要請していたのですが、それはどうなったのでしょうか。文書が撤回されたのか、すでに目的が達成されたのかわかりませんが、この件に限らず日本将棋連盟理事会の発表の少なさが目立っていると思います。

神崎健二七段の提言

3月14日に神崎健二七段が次のようなことを書いています。

会長・女流棋士棋士

みんなで今から1〜2か月間ほど、ネットでの個人としての日記やブログを休むべきだと思う。

休む必要のない人が圧倒的大多数ではあるが、どの表現がおかしいとか、これがおかしいとか言い合うことになるのならば、みんなで休みませんか?不適切な表現で書いて、その書いたことに責任を持てない人は特に長期間休みませんか?

具体的にどの表現がだめだったということは書いていないのですが、文脈を見るとごきげん・DE・ブログ あれから〜2006年3月8日13時 米長会長の発言。と米長永世棋聖によるそれに関連した一連の文章が直接のきっかけとなったことは明らかでしょう。「会長」という二文字を含ませるためにこのように遠回しな表現になったのかと推測しています。

今回のような争いが起きるような組織はあまり信用されなくなることが想像され、直接関わっていない男性棋士の立場では迷惑でしかないことから、やるなら裏でやってほしいということかなと思いました。ただ、石橋女流四段の公開したものはすでに女流棋士の説明会では配布されたものをそのまま書き写しただけなので、表現方法という面でもし問われるとしたら説明会に配布したことがどうだったのかという観点からになるのでしょう。配布したのは個人でというわけではないようですので、今回の提言の趣旨からは外れそうに思っています。

「個人としての」という表現からわかるように公式文書は対象としないものとしているわけですが、そのためには日本将棋連盟理事会の公式発表不足をなんとかしてからでないと良くないと思います。この問題に関して日本将棋連盟理事会はこれまで3回しか公式発表を行っていません。しかも、内容があると言えるのはそのうち2度目のものだけです。私はむしろそうした状況が改善してほしいと思います。不適切な表現が良くないことは言うまでもありませんが、適切な情報の発表も同様に重要であり、あえて長期間書くのを控えることは弊害の方が大きいと私は思います。神崎七段が書くところの「圧倒的大多数」にあてはまる問題のない女流棋士棋士の方は何かしら書き続けてほしいと希望します(個人的なウェブログ・日記を書く義務が生じることはどんな場合でもありませんので、他の状況が許せばということです)。神崎七段ももちろんその1人です。

*1:その分を対局料に上乗せして、男性棋士でも同じことをするという話なら理解はできるのですが、棋士はむしろ地方に住んだ方が普及には好都合だと思うのであまり賛成はできません。

*2:親睦会とかファンクラブとかの試みをなくしてしまうのは問題だと思うのですが。

*3:2004年11月19日に紹介した女流棋士の居場所の話を思い出します。