女流棋士独立問題 最近の動き

更新の間が空いてしまいました。4月11日から21日までの動きをまとめます。

記者ブログで中井広恵女流六段を応援(4月11日)

日刊スポーツの北海道本社所属の本郷昌幸記者のブログ記事です。

私は40年以上にわたって将棋ファンであったし、今でも将棋番組は欠かさず見ている。女流棋士を応援する気持ちも人一倍強いと思っている。願わくは女流棋士が誰1人、その活躍の場を失うことなく、待遇も改善される方向に収束されんことを。今は物言わぬ男性棋士たちの声が、硬直化した連盟を動かすことを信じている。

このような文章を読むと、筆者の強い気持ちを感じます。本郷記者が最近書いた将棋関係の記事は次のようなものがあります。

様々な記事削除(4月11日ほか)

石橋幸緒女流四段の「ごきげん・DE・ブログ」で3月11日に公開された文書「あれから〜2006年3月8日13時 米長会長の発言。」(http://blog.goo.ne.jp/typhoongirl/e/bf588d464f233d5547ce98e80113aea0)が、4月11日に削除されました。公開からちょうど1カ月でしたが、それ以外に何か意味があるのかどうか特に言及はありません。

削除前は300以上のコメントが付いていました。その中には有益なものもあったと思われますので、もったいなかったとは思いますが、大量のコメントの扱いも大変だったのだろうとも思います。ただ、これとセットで公開された原点に返っては原状通り公開されていて、こちらだけ読んだ人は何のことかわからなくなるのではないかという心配はあります。

そして、はっきりした日付はわかりませんが、それと相前後して女流棋士新法人設立準備委員会ブログのいくつかの記事が削除されました。私が確認したのは次の記事です。

  • 「新法人基本理念(案)」(1月17日)
  • 「読売新聞2007年2月14日朝刊掲載記事についての見解」(2月19日)
  • 「「理事会の見解」文書について」(2月22日)
  • 「要請書」(3月10日)
  • 「(再)要請書」(3月13日)

この削除に関するアナウンスはどこにもないように見えます。このように選択的に記事を削除する行為は憶測を呼ぶので、きちんと説明した方が良かったのではないかと思います。

それから、4月10日の女流棋士独立問題 週刊将棋上でコメント ほかで紹介した松本博文ブログの記事にあった写真は4月12日頃に削除されました。

特にマル秘文書というわけではなかったのでしょうけども、何か事情があったようです。ただし、4月17日に更新された記事で「女流棋士総則第14章」の条文が掲げられています。

女流棋士総則第14章 賞罰

  1. 女流棋士が次の項に該当する場合は、理事会の審議により連盟は表彰を行うことがある。
    • 将棋普及に顕著な功績があった場合
    • 棋戦や催事創設等に貢献した場合
    • 社会的に功労があり、連盟の名誉となる場合
  2. 女流棋士が次の項に該当する場合は、理事会の審査により連盟は懲戒を行う。程度により除名、資格停止、戒告、注意とする。
    • 連盟に対し、不正行為をした場合
    • 禁固以上の刑に処せられた場合
    • 故意に会則を犯した場合
    • 正当な理由なく、依頼された仕事に欠席・遅刻・早退を繰り返す場合
    • 連盟に損害および不名誉となる行為のあった場合
    • 連盟の秩序を乱し、女流棋士として不適格と認められた場合

男性棋士と違って、女流棋士は理事会審査による除名がありうるんですね。

さらに、六文銭で書かれた古河彩子女流二段の文章が読めなくなっています。こうなったのは、ブログ将棋道に移行することになった4月14日ごろのことだと思います。読めなくなったのは次の文書です。

  • 2006.12.1の臨時総会を終えて(2006年12月5日)(ファイルは残っていますが、リンクは切れているように見えます。)
  • 女流棋士について(1)」(2007年3月18日)(原文では丸付き数字)
  • 女流棋士について(2)」(2007年3月25日)(同上)
  • 「1回目の臨時総会」(2007年4月1日)
  • 「先行独立らしい・・・」(2007年4月8日)

読めなくなった文書の内容で、あとで書くとされていた部分がかなりあったので、それをこれから書いたときに前後の文脈がわからなくなって困るのではないかと思いました。ブログ移行に伴って消えたのだとすれば、あとから補完されるのではないかと期待しているのですけれども。

女流棋士新法人、5月下旬から6月上旬に設立へ(4月12日・13日)

4月12日に女流棋士新法人設立準備委員会が記者会見を開きました。

日本将棋連盟からの独立を目指す女流棋士の新法人設立準備委員会は12日、東京都内で記者会見し、「新法人の設立時期は5月下旬〜6月上旬の予定」と発表した。

会見には10人の女流棋士が出席。準備委員長の中井広恵女流六段は「新法人への参加人数はまだ確定していない。都合で会見に来られなかった人もおり、連盟に残留届を出した人の中にも参加希望者はいると思う」と語った。

また、これを受けて独立する女流棋士も棋戦に参加できるという見通しが日本将棋連盟理事会側から示されています。

これを受け、将棋連盟の中原誠副会長は同日、「新法人参加者も引き続き女流棋戦に参加できる」と言明。女流棋戦の契約についても「スポンサーが希望すれば、新法人を含めた3者契約で構わない」と話した。

この件については、サンケイスポーツが最も詳細に報じています。

昨年12月の女流棋士会の臨時総会で独立方針が決まった。だがその後はゴタゴタ続き。独立支援を約束したはずの連盟理事会が2月ごろから態度を急変させ、全女流棋士に「独立か残留か」の意思を問う文書を送付。連盟残留希望の女流棋士が増え分裂状態に陥った。

独立派だった女流トップの矢内理絵子女流名人(27)は3月に設立準備委員を辞任。ある独立派女流棋士が、米長会長が女流棋士会の解散を促すような発言をしたとブログ上で“暴露”し、後に記述が削除されるなど、独立問題は「騒動」に発展していった。

現時点で新法人に参加するのは女流棋士の約3割の17人程度とみられる。会見には中井女流六段のほか、蛸島彰子▽藤森奈津子石橋幸緒北尾まどか▽島井咲緒里▽中倉宏美▽寺下紀子▽多田佳子▽大庭美夏−の各棋士が出席した。

この10人は確実に新法人に参加するのか?と問われると、中井女流六段は「たぶんそうだと…」と苦笑い。「残留希望になった人が1人増え、2人増えという状況だったので、私も疑心暗鬼になっている」。思わず本音がこぼれた。

また、次のような話も出ています。

連盟理事会が態度を硬化させた原因としては、今年1月に理事会が女流棋士に「女流の中に男女差別の不満を公言するものがいる」との文書を送付。これに女流棋士側の弁護士から猛烈な抗議を受けたことが背景にあるといわれている。

また、設立準備委が2月に総額1億円を目標にした寄付金の募集を始めたことに、理事会が遺憾の意を表明。両者の溝が深まったという。

1月の文書の内容や、寄付に関して日本将棋連盟理事会が遺憾の意を表明していたという話は初めて出てきたように思います。

なお、上で記者会見に出席した女流棋士10名の氏名が記載されていますが、それに加えて中倉彰子女流初段が中倉宏美女流初段と一緒に新法人に参加することを表明しています。

記者会見翌日の4月13日にはブログで概要が発表されました。

法人の形態は、「最初は中間法人の形をとり、その後公益法人取得を目指す」となっています。

中間法人とは2002年4月に施行された中間法人法に基づく法人で、公益法人制度改革に伴い2008年に施行が予定されている関連法施行後は一般社団法人に移行することになっています。一般社団法人から公益社団法人に移行するためには、一定の要件を満たして審査を通過することが必要ですので、それを目標としてまずは基盤を整えるということのようです。

理事会は定数5名のうち外部・有識者等を2名含める予定だそうです。どういう人が引き受けてくれるかという問題はあるのですが、必要な変化だと思います。

地方紙の記事(4月14日から16日)

共同通信から地方紙に配信された解説記事だと思います。

昨年12月、女流棋士会は賛成多数で独立する方針を決め、連盟理事会も支援を約束した。しかし、1月30日、新法人設立準備委員会(委員長=中井広恵女流六段)が理事会に総額1億円の寄付金募集を報告してから明らかに連盟側の態度が急変した。準備委は「理事会の了承を得た」として2月1日から募集を始めたが、理事会は「報告を聞いただけ。了解はしていない」と強く反発した。

もともと女流棋士会に独立を勧めたのは米長会長だ。連盟は慢性的な財政赤字を抱えており、女流棋界の運営にかかる経費の削減がその主な理由だった。それがなぜ一転したのか。1億円という数字は破格の金額だったようだ。

これはあくまでも目標の数字なのだが、理事会側は「1億円の寄付を独自に募った。同一パイの取り合いになる恐れがある」と女流棋士に文書で通告した。事実、準備委の弁護士は「1億円を提示してから対応が変わってきたような気がする」と話している。理事会に危機感と不安が生じたのは容易に想像できる。

上のサンスポの記事にもあったように、寄付以前にも微妙な空気があったように思います。しかし、寄付が一つの契機であったのも確かなのでしょう。上の記述にある理事会の反発がいつのことだったのか気になります。「同一パイの取り合い」という表現が文書中に出てきていたというのは初めて知りました。

なお、米長邦雄永世棋聖は4月21日更新の米長邦雄の家で、「全国の地方紙に一部誤解を招きかねない記事が載っていたようです」と書いており、この記事のことを指していると思われます。名人戦問題のときにも似たようななことがありましたが、どの記事のどの部分に問題があるのかを具体的に指摘しなければ読んでいる人にはわかりません。結局、そのまま訂正が出なければ記事が出たという事実だけが残ることになります。もし本当に記事に誤解があるのであれば、それをきちんと指摘しておくことが読者のためにも必要なことです。

さて、4月16日には次のようなコラムが出ました。

おそらく、上の共同通信記事を下敷きにしているのでしょう。なかなか手厳しいことが書かれています。

もともと女流棋士会に独立を勧めたのは連盟の米長邦雄会長だった。何も女流棋士の立場を理解したうえでのことではない。慢性的な赤字を抱えた連盟の財政を考え、女流棋界の運営にかかる経費削減が主な理由だった。言葉は悪いが捨て駒にしようとしたのだ▲

連盟はその後、新法人設立準備委員会が総額一億円の寄付金集めに乗り出したことを知って態度を急変させる。同じパイの奪い合いになる不安を抱いたようだ。金にまつわる連盟の迷走ぶりはいわばお家芸。昨年の名人戦主催をめぐる騒動で実証済みだ▲

お家芸」というのは悲しいことですが、反論が困難になってしまっている状況です。迷走しなくても解決できるタイミングはたくさんあったと思うのですが、今となってはここから挽回するしかありません。

週刊将棋の記事

4月16日発売の週刊将棋4月18日号に女流棋士独立に関する記事が掲載されています。4月12日の記者会見の質疑応答のほかに、日本将棋連盟専務理事の西村一義九段、および、週刊将棋を販売する毎日コミュニケーションズ社長室のコメントが掲載されています。

質疑応答では次のようなやりとりがあったそうです。

Q 連盟との関係は?

「会見前に非公式ながら米長会長と話しましたが、友好的な関係を保つ、対局も女流棋士全員でできるとの言葉をいただきました」

Q 新法人設立までの手順は?

「設立総会におけるメンバーの確定、定款作成・事業計画・収支計画承認→法人設立登記申請という流れになります」

Q 寄付金は?

「新法人設立に必要な基金(300万円)は集まっています。全員で独立する当初の趣旨と違うという方には返金の手続きをとっておりますが、現時点でその旨のご要求はまだありません」

上記の300万円とは、中間法人設立の際の最低基金額を表しているようです。当初の寄付金総額目標の1億円は困難と思っていましたが、この言い方だと500万円も行っていない感じでしょうか。日本将棋連盟の協力が得られなかったので仕方ないといえば仕方ないのですが。

西村一義九段はコメントの中で次のように話しています。

ただ新法人に移られた方でも、対局の権利は保証されています。中原副会長が12日のレディースオープンの表彰式で発言した『独立される方も残留される方も女流棋士には変わりない』が将棋連盟の姿勢です

こういう姿勢があれば、今後にも期待が持てると思います。

毎日コミュニケーションズ社長室は次のようにコメントしています。

レディースオープン・トーナメントは、次回(第21回)以降も全女流棋士が参加できる棋戦として継続したいと考えています。今後、日本将棋連盟女流棋士新法人、毎日コミュニケーションズ三者契約を全体に交渉を進めたいと考えています。

現在のレディースオープントーナメントの主催は週刊将棋となっているのですが、2006年にはこれを毎日コミュニケーションズ主催に格上げするという計画があったという話があります。それは名人戦問題のあおりで立ち消えになってしまったのですが、この話がもう一度出てこないかと期待しています。今回のコメントの主体が週刊将棋編集長ではなくて、毎コミ社長室だったのがその兆候と見るのは気が早すぎるかもしれませんけども。

いずれにしても、女流棋士新法人が棋戦契約に加わることができるという表明がスポンサー側からあったのはこれが初めてだと思います。

女流棋士の問題から「将棋界の今後」へ(4月17日)

3月24日の女流棋士独立問題 「独立か残留か」回答期限を延期などの中で紹介したWEB2.0(っていうんですか?)ITベンチャーの社長のブログで、長文考察が公開されました。

コンピュータ関係では同意できない部分が若干あるのですが、大筋でとても同感できる内容です。とにかく読んでいただきたいと思います。こういう考察が出てくるうちは将棋界は大丈夫だろうと感じました。

ところで、このページをご覧になっている方の中で、「べつやくれい」の認知度がどのくらいあるのか見当が付きません。説明はしませんが「べつやくメソッド」に関するリンクだけを張っておきます。

「経済界」に中井広恵女流六段のインタビュー記事

4月17日発売の「経済界」 2007年5月8日号の表紙に中井広恵女流六段が起用され、さらに「将棋連盟と女流は車の両輪。ファンの獲得に邁進します」として、インタビュー記事が掲載されたそうです。私は未読です。

この雑誌の表紙に棋士が起用されるのは、「経済界」 2005年12月20日号米長邦雄永世棋聖以来です。

「理事会は一番の被害者」(4月18日)

さわやか日記の2007年4月18日(水)17時57分56秒付で次のようなことが書かれています。

夕方からは電話だけでも30本でしょうか。
水曜日には女流問題はひとつの結論が出ます。女流同士の話し合いに、理事会は巻き込まれているという実情を両陣営に認識してもらう必要があります。理事会は一番の被害者である。
これを逆に理事会の女流への介入などという悪口を言っている人がいます。その対応策を早々に打ってしまうための電話です。

どんな問題であれ、自分は被害者であると声高に主張することによって同情してもらえるためのハードルは、現状では相当に高くなっていると思います。らしくないと感じました。

矢内理絵子女流名人表彰式(4月19日)

4月19日に矢内理絵子女流名人の表彰式が行われ、その中で関係者のスピーチがありました。

冒頭、報知新聞社の小松崎和夫社長が「現在、女流棋界は駒音以外の雑音が聞こえるが、女流棋戦の草分けである女流名人戦は、今後も継続することをお約束する」と挨拶。出席の女流棋士は安堵の胸を撫で下ろしたことだろう。

続いて米長将棋連盟会長の挨拶。「矢内女流名人は、最良の道を選択した。この後、藤森奈津子女流棋士会長が表彰状を渡すだろうが、これが最後の女流棋士会長の仕事になる。“情けは人の為ならず”という言葉がある。人に情けをかけておけば、いずれ良いことが帰ってくるということです。しかし“泣いて馬しょくを斬る”ということもある」

一字一句その通りというわけではないと思うのでニュアンスが違っていた可能性はありますが、だいたいこのような内容の発言があったようです。「駒音以外の雑音」というのは言い得て妙だと感じました。米長邦雄永世棋聖はそれを体現して見せた格好ですが、何か無難な発言をしないという決めごとみたいなものがあるのだろうかと思いました。

新法人の名称を公募(4月21日)

4月21日に新法人の名称の公募が始まりました。応募締め切りは5月7日です。なお、抽選で「新法人参加者寄せ書き色紙(1名様)など豪華賞品」が当たるそうです。「など」が気になります。

ところで、今回の募集では個人情報の取り扱いに関する注意事項が書かれています。細かい話になりますけれども、「名称を決定するため」に個人情報を使うというと、同じ名称でも誰が提案したかで結果が変わるという意味になりそうですがそうなのでしょうか。細かいことが気になってしまいます。