棋譜と著作権についていくつか

下記のページで私は棋譜著作権に関する話題について書いてきました。現在、将棋に関して書く時間をとることは難しい状況ですが、これに関しては少しずつながら継続的に調べています。

上記ページにはアクセスできないことがときどきあるようなので、その場合は下記をご覧下さい。同内容です。

私自身の理解が不足していることもあってわかりにくい書き方になっています。書いていた当時は、こんなことを書いても読んでくれる人がどれだけいるのかと思っていましたが、その後、参照されることがそれなりにあることがわかってきたので、ここで手短に私の意見をまとめておこうかと思います。その上で、私が最近知った項目について記しておきます。

棋譜著作権に関する現状および私見

囲碁や将棋の棋譜に著作物性があるかどうか、言い換えると、棋譜著作権法2条1項1号にある著作物の定義の要件をみたすのか否か。これが、ここで扱う疑問です。

現状では肯定・否定双方の見解が存在し、どちらとも決められないのが現状であると考えます。強いてどちらかといえば、著作物性なしという意見を私個人は支持しますが、日本の著作権法で著作物性を主張することも不可能ではないというのが私の見方です。棋譜の著作物性は、そのくらい微妙な問題を含んでいると思います。

著作物性を支持する見解としてしばしば引用されるのが加戸守行『著作権法逐条講義』です。著作権法10条1項は著作物の例示をしていますが、そのいずれにも当てはまらない著作物が存在するという文脈で、棋譜がそれに該当するとされています。ただし、棋譜が著作物である理由については何も議論されていません。一方で、渋谷達紀『知的財産法講義II 第2版 著作権法・意匠法』は、この見解を直接批判し、棋譜は著作物でないと結論づけています。このように、現在は対立する見解が併存しており、どちらが有力説とも言えないと私は見ています。

以下は、これから書こうと思っている項目です。いずれも調査不足なので、ここで簡潔に示すにとどめます。

田村氏の見解

mixi棋譜の著作物性について議論している方々がいて、そのうちの一人が今月上旬に北海道大学教授の田村善之氏にメールで質問したという話があります。将棋 | 将棋の棋譜に著作権は存在するかがその書き込みらしいのですが、私はまだmixiの方を見ていません。

これによると、「棋譜は創作的表現ではないので,著作物にならない」という結論になっており、棋譜の著作物性について否定的な見解を示しています。

田村氏は知的財産法を専門とする著名な法学者であり、著書『著作権法概説(第2版)』は以前から定評のある解説書です。著作権法を学ぼうとした方で読んだことのある方も多いのではないかと思います。そういうこともあって、田村氏に質問したのか他と想像しました。これが実際に田村氏が書いた見解かを確かめる必要がありますが、文章を読んだ限りでは法律家っぽい書き方ような印象を持ちました。

チェス界のおける棋譜の取り扱いの歴史

チェスや日本以外の囲碁では、著作権が存在しないような形で棋譜が自由にやりとりされていることはよく知られています。この背景には何らかの判例があるのか、それとも単に慣習として確立したやり方なのかが私にはわからない点でした。この疑問を解くには英語などの文献を調査する必要がありますが、あまり何もしていなかったところ、takodoriさんから一つのページをご教示いただきました。ありがとうございます。

チェスの歴史に詳しいライターのEdward Winter氏が、チェスの棋譜著作権について、過去の豊富な事例を集めています。まだざっと目を通しただけですが、賞金の付く国際大会が開催されるようになった19世紀半ば以降、棋譜から得られる収益を巡って様々な主張をする人たちが現れたことが見て取れます。ただ、その根拠となる法律的議論がどうなっていたのかは、私にはまだよくわかっていません。

レンツ氏の著作

長いこと気付いていなかったのですが、青山学院大学教授のレンツ カール・フリードリッヒ(Karl-Friedrich Lenz)氏が2004年7月に囲碁棋譜の著作物性について論考を発表していました。

上記のPDFファイルは、主に囲碁の解説ですが、後半の164-210ページで囲碁棋譜の著作物性について議論しています。主に日本の著作権法に基づいた議論ですが、ドイツおよび米国の著作権法の議論もあるようです。問題は、これがドイツ語で書いてあることです。私は翻訳サイトのお世話になりながら少しずつ読んでいるのですが、法律用語などはどの程度正確に伝わっているか心もとないので、きちんと理解はできていないような気がします。ただ、ページ数からもわかるように、非常に広範かつ丁寧に議論されています。(何しろ、参考文献に私の書いたものが含まれているくらいです。)棋譜の著作物性を議論するにあたり、現状でこれ以上の解説はないのではないかと思います。

読んだ限りでは、レンツ氏は早急に結論を出すことに慎重な姿勢ですが、自身ののブログに英語で書かれた内容が主張の要約になっているのではないかと思います。

Japanese copyright law seems to protect game records, and Japanese media companies respect this copyright protection. However, since the law doesn't seem to be very clear right now, I would object to applying penal provisions of the Japanese copyright law to infringements, for example unauthorized re-broadcasting of Go games over the Internet.

棋譜の著作物性にどちらかといえば肯定的ですが、条文が明確に認めているとも読めないので、著作権侵害で処罰するといったことには反対というように私は読みました。

それから、氏のブログでは、2003年4月に青山学院大学学長(当時)の半田正夫氏とこの問題について議論したという記述があります。英語なのでニュアンスがわかりにくいのですが、現状ではよくわからないということでしょうか。

Wiki掲示板などでの議論

特に囲碁では、日本とそれ以外で棋譜の扱いが実質的に異なることもあり、海外でも棋譜の著作物性について議論になることがあるようです。下に二つの例を挙げますが、私はまだきちんと読んでいません。