駒の向きが変わる(4)

駒の向きを変えることができるルールの変則将棋について、念のため補足をしておきます。

この変則将棋において二歩の扱いをどうするのか疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。これについては、「敵味方を問わず二歩を生じるような局面を作る着手は禁手」と解釈するのが自然であるように思われます。したがって、歩の向きを変えて相手の二歩を誘うというような戦術は成立しません。敵の駒を動かせる変則将棋もいろいろ考えられていますが、二歩の解釈についてはどれも同様と思います。

次に、『シャーロック・ホームズのチェスミステリー』の「未解決の問題」の節から問題の部分の一部を引用します。

「この何世紀もの間に、チェスの規則は何回も変わったが、(この問題は)これからいう最後の変化が、関係するんだ」

「何が変わったの?」

「ポーンの昇格の規則だ。最後の変化が起きる前は、規則はこうなっていた。”ポーンは8段目のます目に到達したとき、ポーンとキングを除く任意の駒に変えられる。”しかし古い規則は、”ポーンが同じ色の駒に変わる”と断っていない」

「違う色の駒にしたいなんて、いったい誰が思うのかね?」私はいつものように実務家の立場から尋ねた。

「さあ、知らないね。だけどそれは問題じゃない。しかしチェスのようなゲームの規則は、絶対的に明確で、一義的でなけりゃいけない、とぼくは思う。違う色の駒に変えたいことなど、確かに不自然ではあるけれど、それが一度起こって、それで規則が修正されることになった。トーナメント戦の最中に、白がポーンを黒のナイトに昇格させて勝ったんだ」

ご存じのように、将棋の対局規則は「絶対的に明確で、一義的」では全くありません。そのあたりには欧米と日本の文化の違いもある、というのが武者野六段も伝えたいことなのだと思います。

それはともかく、この話が事実なのかどうかというのは、これを読んだだけでは判断はつきません。ルール変更があったとしても、かなり古い話かもしれませんね。チェスの規則は実際にはもっと頻繁に修正が加えられていますから、ポーン昇格の規則の変化が「最後の変化」ということはありません。

それから、チェスとプロモーションに出てくる局面は実戦で出てきそうな感じのしない局面です。もし他に駒がないならa8のルークを取っても普通に勝ちですし、他に駒があるのなら白キングがa5まで出て来るというのはあまりないことのように思います。ルール変更が事実でもこの局面はスマリヤンの創作という可能性もありそうです。