持駒のない世界 (1)
将棋を語るとき必ず言及されるのが、将棋には持駒があるという特徴です。実際、チェスなど他の国の将棋には駒を取って再利用するというルールはなく、日本の将棋の独自性は持駒ルールに由来するのだという言説もよく見受けられます。「取った駒を再利用する日本の将棋は、戦争捕虜を殺してしまう西洋と異なり、相手を味方として使うことのできる日本文化に由来している。」だとか、「持駒という制度によって将棋は一つの局面における指し手の数が増え、チェスよりも複雑なゲームになった。」だとかという話はよくありがちです。
将棋の歴史を振り返ると、過去に持駒のない取り捨てルールで将棋が指されていたという説があります。
将棋博物館顧問の木村義徳九段は著書『持駒使用の謎―日本将棋の起源』の中で、「平安将棋」という将棋が指されていた時期があったとし、次のように記述しています。*1。
要するに、現行将棋から飛車角行を持駒不使用にすればこの平安将棋になる。
そこで、木村九段が実際にこのルールで指してみた局面が掲載されています。持駒が使えないのでだんだん駒数が減ってこのような局面になるわけですね。
後手の持駒:なし
9 8 7 6 5 4 3 2 1
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一
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・ ・ ・ ・ ・ ・v玉 ・ ・
三
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四
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五
歩 ・ ・ 金 ・ 歩 金 玉 歩
六
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七
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
八
香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香
九
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先手:木村義徳
先手の持駒:なし
ここでどう指せばいいのでしょうか。それについては後ほど説明しますが、木村九段が実際に指してみて「弱い人ならゲームとして立派に成立する。」と述べているとおり、そう簡単ではありません。持駒を使わない将棋も一つのゲームとして考える対象になりうるということです。
木村氏は実際に平安将棋をプレーしてみたところ、充分な真剣勝負ができ面白かったそうである。
長い前置きになりましたが、要するに持駒使用禁止ルールの変則将棋を指す動機付けをこじつけてみたということです。平安将棋と違って飛・角も含んだルールで指してみるとどうなるでしょうか。持駒禁止がどのような影響を与えるのか考察してみようと思います。
(持駒のない世界 (2) へ続く。)