将棋大賞最優秀棋士賞は森内俊之竜王

谷川浩司の△7七銀成

2003年度将棋大賞の選考が本日行われ、注目されていた最優秀棋士賞は森内俊之竜王が初受賞しました。各賞は次の通り。選考の模様は来月発売の将棋世界6月号に掲載されます。

最優秀棋士
森内俊之竜王(王将) (羽生善治名人から竜王・王将を奪取。名人位は失ったもののA級順位戦9戦全勝で奪還に臨む。)
殊勲賞
久保利明八段(NHK杯戦決勝で羽生善治名人を下して優勝。A級順位戦はかろうじて残留。)
敢闘賞
渡辺明五段(王座戦羽生善治名人に挑戦。五番勝負はフルセットで敗れたものの、あと一歩のところまで追いつめる。)
技能賞
深浦康市朝日オープン選手権者(朝日オープン選手権を獲得。順位戦でA級に昇級。)
新人賞
田村康介五段(新人王戦優勝。)
最優秀女流棋士
清水市代女流名人・女流王位女流王位防衛。女流名人位を中井広恵女流二冠から奪還。)
女流棋士
中井広恵女流王将倉敷藤花女流王将位・倉敷藤花位を防衛したものの、女流名人位は失冠。)
最多対局賞
森内俊之竜王(64局)
最多勝利賞
森内俊之竜王(46勝)
勝率第一位賞
深浦康市朝日オープン選手権者(7割6分1厘)
連勝賞
山崎隆之五段(22連勝)
升田幸三
谷川浩司王位(A級順位戦島朗八段戦の△7七銀成の妙手。)
升田幸三賞特別賞
立石勝己氏(立石流四間飛車
東京将棋記者会賞
二上達也九段(日本将棋連盟会長退任、相談役就任。)

各賞はプロ棋士に与えられるのが原則ですが、今回は特別に「升田幸三賞特別賞」として立石流四間飛車で有名なアマチュアの立石勝己氏が表彰されました。角交換して軽くさばいていく四間飛車は、中村修八段や小林健二九段によってプロの対局でも採用され、居飛車の持久戦策に苦しんでいた振り飛車党に光明をもたらしました。最近は居飛車の対策が進んでプロで見かけることは少なくなりましたけれども、その多大な功績を傷つけるものではありません。

居飛車穴熊を例に出すまでもなく、将棋の新戦法でアマチュア起源のものは実際には多数あります。将棋の発展に寄与するアマチュアの役割は、今後ますますクローズアップされてくることでしょう。

升田幸三賞は谷川浩司王位の受賞となりました。これまで新戦法が受賞対象となってきたこの賞ですが、3月20日にお伝えしたとおり、賞の性格が少し変化することになりました。

受賞対象となったのは下の局面での妙手です。

後手:谷川浩司 王位
後手の持駒:歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香
・v飛 ・ ・ ・v銀v金 ・ ・
・ ・v歩v歩v歩v歩 ・ ・v歩
・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 馬 ・
歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・
・v銀 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ 歩 歩v馬 銀v歩 歩
・ 銀 金 ・ ・ ・ 飛 ・ ・
香 桂 ・ ・ 玉 金 ・ 桂 香
                                                        • +
先手:島朗 八段 先手の持駒:歩四  手数=53 ▲8八銀 まで 後手番

角換わりからの乱戦で、先手が後手の棒銀に押されながらも何とか耐えようとしているところ、△7七銀成 が妙手でした。以下、▲同桂 △3八馬 ▲同金 △8九飛 ▲7九銀 に△8八飛上成 が光速の寄せを体現した一着です。銀が逃げたところに空成りするのはやりにくい手ですが、これで見事に寄っています。

後手:谷川浩司 王位
後手の持駒:歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香
・ ・ ・ ・ ・v銀v金 ・ ・
・ ・v歩v歩v歩v歩 ・ ・v歩
・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 馬 ・
歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・
・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ 桂 歩 歩 ・ 銀v歩 歩
・v龍 金 ・ ・ ・ 金 ・ ・
香v飛 銀 ・ 玉 ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手:島朗 八段 先手の持駒:角 銀 歩四  手数=60 △8八飛上成 まで

ただ、受賞に水を差すわけではないのですが、これが谷川王位の数々の妙手の中でどのくらいかというと、個人的にはそれほど衝撃的でもない気がするんですね。有名な△7七桂などに比べると谷川王位しか指せないというほどではないのではないかと、この棋譜をはじめて見たときは感じました。昨年度他に何かあったかというと、特に思いつかないので受賞は妥当だとは思うのですけれども。

過去の戦法に受賞資格があるのなら、過去の妙手にも受賞資格があってもいいような気もしますが、そういう規定ではないんでしょうね。