名人戦契約問題についていろいろ(37)

12日に、日本将棋連盟棋士会が行われました。

記者会見では日本将棋連盟副会長の中原誠永世十段が話したそうです。その中で毎日と朝日が揃って取り上げたのが次の発言。

棋士会終了後、記者会見した中原副会長は「8月1日の臨時総会での表決方法はまだ固まっていない。それは理事会の判断で決めること」と発言。「毎日新聞社が単独主催を希望した場合は、毎日案に対する表決を行う」とした5月26日の棋士総会決定とは異なる見解を示した。

発言の趣旨がよくわからないのですが、「表決方法」というのは投票を無記名で行うかどうかというような話ではないのでしょうか。そうだとしてそれをその場で話す意味もわかりませんが。5月26日の棋士総会で決まった「毎日新聞社が単独主催案を希望された場合は、同社が提示した条件で契約するかどうかを棋士の表決によって決定いたします」という表現からすると、毎日新聞社の今回の提案を受諾することについて可否を選択する以外のやり方を私は思いつきません。

共同通信の記事では次のように出ています。

毎日同様に主催を希望している朝日新聞社に対し、11日に経過を報告した中原誠副会長は「(朝日の)提示内容が変わる可能性もある」と若干の変更を示唆した。

この記事によると、変更があるとしても「若干」だということなのでしょうか。この点については、毎日新聞社はすでに11日朝刊の記事の中で次のように牽制しています。(下記引用中の「同日」とは5月26日のこと)

連盟の米長邦雄会長は同日の会見で「朝日新聞社の契約案の数字が変わることはない」と明言しており、本社が単独主催案を提示したあと、朝日新聞社の追加提案はないことになっている。

読売新聞の記事では次のような発言が紹介されています。

その中で、毎日案が可決されれば、7年間で見ると朝日新聞社の提案より同連盟が両社から受け取る金額の合計が増えるという点について、中原誠・同連盟副会長は「朝日は5年契約なので基本的に異なる。朝日が朝日オープン選手権の契約金額を減らさないなど仮定の話が多く、理解できない」と話した。

毎日新聞の記事では「7年間で見ると朝日新聞社の提案より同連盟が両社から受け取る金額の合計が増えるという点」には触れられていませんので、計算上そうなるという話は毎日新聞社としては関知するところでないというのが基本的な立場なのでしょう。それはそれとして上記発言は、名人戦毎日新聞社主催のまま継続した場合に朝日新聞社が朝日オープンの契約金額を減らす可能性に触れているようです。

毎日新聞社社長の北村正任氏が棋士にあてて送った7月10日付の手紙では、提案の中に「名人戦と併せて王将戦を継続する」という表現を含めたことについて次にように述べています。

名人戦が毎日主催で続くならば、私どもがスポーツニッポン新聞社と共催している王将戦を引き続き支援していくことをお約束するものです。

この書き方からは、「名人戦が毎日主催で続く」という前提がなくなった場合に王将戦にお金を出すことをやめる可能性があるように読めます。王将戦がなくなる可能性も、朝日オープンの契約金が減額する可能性もあると、そういうことなのでしょうか。名人戦契約問題についていろいろ(34)の中で6月29日に私が行った試算(正式提案前でしたので細かい数字は違います)ではそれらの可能性は考慮しませんでした。

ただ、朝日新聞のこれまでの記事では、朝日新聞社日本将棋連盟毎日新聞社の協議を見守る姿勢を当初から一貫して保ってきており、名人戦主催社になれなかった場合に朝日オープンに影響が及ぶとにおわせるような表現は、私の記憶ではなかったように思います。7月10日の記事でも、朝日新聞社広報部の話として「棋士の表決で主催社を決定するのならば、その結果に従います」というコメントが出るにとどまっています。

それから、前回書きませんでしたが、7月10日の朝日新聞の記事中に気になる表現がありました。

一方、朝日新聞社は非公式な内容として3月17日付で、(1)名人戦契約金は年3億5500万円で5年契約とする(2)将棋普及協力金として年1億5000万円を5年間支払う(3)朝日オープン将棋選手権にかえ、年4000万円の契約金の棋戦を5年間実施する――との条件を示していた。

まず、3月17日付の提案が非公式なものだったとしていること。このような話がこれまであったかどうか、記憶にありません。次に、普及協力金が5年限定であると明記されたこと。これも初めてのような気がします。そして、そもそも朝日新聞が自社の提案内容を明記したこと自体が初めてではないかと思います。

これはどのようなことを示しているのかわかりませんが、非公式な内容なのでそのままつぶれても問題ないということなのか、非公式な内容なので公式な内容はこれとは別に出てくる余地があるという意味なのか、いろいろ解釈できそうです。

それから、もう一つ。女流棋戦のレディースオープントーナメントの組み合わせが発表になりました。

5月2日の名人戦契約問題についていろいろ(15)でお伝えしたように、レディースオープントーナメントの主催を週刊将棋から毎日コミュニケーションズに格上げした上でタイトル化するという話が進んでいたそうなのですが、今週の週刊将棋7月12日号の開幕特集の記事でもそのような話は全く出ておらず、お流れとなってしまったようです。名人戦問題で投票権のない女流棋士が損をする結果になったとしたらひどい話だと思います。

最後に、毎日新聞社の正式提案が出た後に書かれたプロ棋士ウェブログなどのページにリンクを張っておきます。