名人戦契約問題についていろいろ(51)

名人戦朝日新聞社毎日新聞社との共催の方向で協議が行われることになりました。

将棋の名人戦問題で、毎日新聞社は19日、「朝日新聞社と対等な立場で、共催を前提に交渉を開始したい」と、朝日側に伝えた。

朝日もこれを了承した。朝日が8月4日、毎日に対して出した共催の意思を確認する文書に答えた。これにより名人戦は、来年に予選が始まる第66期から、ライバル紙の共催という前例のない形で運営されることになりそうだ。

時事通信の記事によると、「両社は今後、契約金の分担や運営方法などについて、日本将棋連盟米長邦雄会長)を交えて具体的な話し合いに入り、年内をめどに結論を出す」とのことです。

毎日新聞社内で朝日新聞社に対する反発が強かったようであることを考えると、毎日新聞社はよく決断できたなと思います。「対等の立場」といっても簡単ではありませんので、そのあたりはこれからの協議次第ということになるのでしょうか。しかし、単独主催を前提として提案されていた普及協力金がどうなるのかとか、朝日オープンや王将戦の扱いとか、他の棋戦との関わりとか、これから煮詰めていかなければならない事項が山積していますね。最終的な結論が出るまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

追記:

毎日と朝日からそれぞれ追加の記事が出ました。

5月になって米長会長は朝日、毎日両新聞社に名人戦の共催を提案。棋譜を使用する観戦記などは両社で独自に掲載する▽両社の関係は対等である▽契約期間は5年間との基本線を示したほか、共催する両社の拠出額の合計が、現在の名人戦の契約金と朝日オープン将棋選手権の契約金の合計(約4億7000万円)を上回るよう求めていた。

毎日新聞社が共催の協議入りを表明したことを受け、米長会長は「5月の(共催)提案をたたき台にして話し合っていきたい」と述べた。契約金の分担や棋譜使用などについて将棋連盟を交えた3者で協議するとともに、朝日新聞社が提示していた将棋普及協力金や朝日オープン将棋選手権に代わる棋戦についても、改めて話し合う。

一つのポイントは、「共催する両社の拠出額の合計が、現在の名人戦の契約金と朝日オープン将棋選手権の契約金の合計(約4億7000万円)を上回る」という条件です。両社の合計が5億円程度が落としどころになるのでしょうか。それから「普及協力金」などについては「改めて話し合う」とのことで、これからの協議は以前の提案内容に縛られない姿勢を示しているのかと思いました。

3月末に、日本将棋連盟理事会が「来年度(第66期)以降の契約解消」を一方的に通知してきたことに端を発した問題では、全国の皆様から温かい激励やアドバイスをいただきました。改めてお礼を申し上げます。

特に8月1日に、連盟の臨時棋士総会が、毎日新聞社の単独主催提案を否決してからは、多数のご意見をいただきました。共催を支持する意見のほか、潔く連盟と袂を分かち、名人戦から撤退せよ、という声も寄せられました。正直に書けば、私も当初は、そう考えた一人です。

朝日新聞社からの8月4日の共催提案を受け、私たちは悩み、議論を重ねました。棋戦の主催とは、毎年、数億円の金を払っていればすむものではありません。時間をかけて棋士の皆さんと信頼関係を築き、名人戦にふさわしい場所を選定し、裏方として盤面に集中できる静謐な環境を整える。観戦記を掲載し、勝負の醍醐味を紙面や関連メディアを通じ全国の皆様に味わっていただく。

このあたりからは、毎日新聞社側が真剣に悩んだ結果として今回の決定に至った様子がうかがわれます。社内には朝日新聞社との協同を否定する声もあっただろうと想像できますが、それにもかかわらず将棋と縁を切るという決断に向かわなかったことは、将棋界にとって幸運なことでした。

今月に入り、私は森内俊之名人、羽生善治王将と意見交換の場を持ちました。「永年にわたり将棋界を支えてきた毎日さんに、今後も名人戦に関わって欲しい」。熱い言葉をいただきました。このお二人ら7大棋戦の全タイトル保持者4人を含む多くの棋士の皆さんから、引き続き将棋界を支援して欲しい、との要望が寄せられています。

私たちは名人戦を通じ、将棋文化の興隆に寄与する道を選択しました。共催になれば、これまで棋譜や観戦記を読んでいただいたファンの皆様に、さらに充実した内容をお届けするつもりです。今後も名人戦をご支援いただけるよう、お願いいたします。

毎日新聞社がこのような姿勢を見せたことで、共催案を詰める具体的な協議に舞台が移ります。これも容易なことではありませんが、うまくいってほしいものだと思います。ここまでくると、それ以外に道はないでしょうから。