渡辺明竜王対Bonanza戦補遺

3月24日の大和証券杯特別対局で渡辺明竜王がBonanzaに勝利の続きです。

渡辺明ブログの更新され、渡辺竜王の入念な準備や対局中の印象などがよくわかります。

まず驚かされるのはその反響の大きさです。

すごいのは昨日のアクセス数です。

  • 20日 17685 pv  7977 ip
  • 21日 110415 pv  79013ip

7万ipの11万アクセスって・・・。いつもの10倍かなりの注目を集めていたことがここからもわかります。

「pv」はページビューの略で、同じところから何度もアクセスがあった場合でもその分だけ数字が増えます。「ip」はIPアドレスで、ごく大雑把には異なる端末の数です。この日に関しては、テレビに次ぐ影響力があったと言えそうです。この数うちかなりの割合は下のリンク先からのはずですが、それ以外もいろいろあったのではないかと思います。

Yahooのトップページに掲載されたニュースは、日本のインターネットの中では最大のアクセス数をもたらすことで知られています。私の経験した感じではだいたい1時間あたり10000アクセス程度でしたが、このように関心の高い話題の上に午後8時から10時というピーク時になるとさらに数倍のアクセスがあるのでしょう。

このように大きな話題になったということは、スポンサーの大和証券にとっても成功と認識されるのではないかと思います。だとすれば、今後もこのようなイベントが継続的に行われる見込みが大きそうです。その際、一つの大きな関心事は誰が対局者になるのかですね。人間の側は適当に調整が行われるのでしょうけども、コンピュータの方がどこが出てくるかも関心が高まることになりそうです。

今回のBonanzaが世界一とされたのは、2006年5月に行われた第16回世界コンピュータ将棋選手権で優勝したためです。しかし、激指やYSSといった上位のソフト間の実力差はほとんどなく、今年どこが優勝するかは全くわかりません。これまでもソフトを発売するときに「優勝」という宣伝文句が使えるメリットがあったのですが、それに加えてこのような露出の機会が増えることで、この大会の価値がさらに高まることになります。第17回世界コンピュータ将棋選手権は5月3日から5日に開催予定です。

さて、イベントとしての華々しさは良いことですが、これがいつまで続くのかという心配もあります。この対局の解説を担当した木村一基七段は、3月24日の囲碁将棋ジャーナルの中で「言われているような10年ではなく、3年、5年でトッププレイヤーに追いつくことがあるかもしれない」ということを述べています。実力が伯仲してからの方が本当に面白い将棋になるということは、将棋が好きな方にとっては自明なことだと思いますが、将棋に理解のない人によって伝えられると、たまたま人間側が1つの対局に負けたというだけでコンピュータが人間を超えた、さらには将棋は人間がコンピュータに勝てないのでつまらないとまで言われてしまう心配があります。そうならないためには、そうなる前に何とかしなければならないのですが、現在はまだ努力が不足している段階です。

そこで、「人間が負けた」と言われる準備が整わないうちは、そうならないように最大限の配慮をする必要があります。2005年10月4日の「その日」に向けてでも書きましたが、コンピュータと対戦するプロ棋士は絶対に負けてはいけないということです。しかし、片上大輔五段が指摘するように、現状でも連勝をずっと続けるのは不可能です。

負けても負けないようにする1つの方法は番勝負にすることです。局数を増やせば、たまたま1つを落としてしまっても取り返しが付きます。(ちなみに、カスパロフ対DeepBlueの対局は6番勝負でした。)もう一つの方法は、コンピュータに段階を踏んで勝ち進んでもらうことが考えられます。いきなりトップ棋士をあてるのではなく、以前の週将アマプロ平手戦のように下のクラスの棋士から順に対戦させる勝ち抜き方式にするとか、最初は香落ちにして指し込み制にするとか、とにかくできるだけリスクを避けるようにしないと大変なことになるかもしれません。(なお、持ち時間をこれ以上長くするのは、イベントの成立に影響があるので控えた方がいいと思います。)

そういう懸念はありますが、今回の対局でもコンピュータ将棋が将棋一般に新たな発想をもたらす可能性は見えてきました。

51手目▲6六角は見たことがない類の手ですがなかなかの手。僕らでは浮かばない手で、コンピュータが将棋の技術向上に一役買ったと言えると思います。今後も、このような斬新な手を見せてくれるのでしょうね。それによって新手法、新手筋が増えていく可能性もあるのではないでしょうか。

心配をなくすためにコンピュータ将棋の開発を打ちきるべきだという過激な主張をする人も少数ながらいましたが、それは無理というだけでなく優先順位を間違っていると思います。コンピュータと人間が共存しながら将棋に取り組んでいくのが未来の姿になるのでしょう。