女流棋士独立問題 「独立か残留か」回答期限を延期など

日本将棋連盟理事会が回答期限を延期

日本将棋連盟理事会が女流棋士全員に「独立」か「残留」かを3月22日までに回答するよう求めていた問題で、多数の女流棋士が意志を明確にしなかったという理由で再回答を求める文書を女流棋士全員に送付したそうです。時事通信の記事によると、再回答の期限は3月末に設定されているそうです。

連盟理事会は全女流棋士に「独立か残留か」の意思を問う文書を送付。この日が回答期限だったが、迷っている棋士が多いため1週間、期限を延ばした。西村一義専務理事は「回答の内訳ははっきり言えないが、残留と独立は半々だと思う。残念だがこのままだと分裂もやむを得ない」と苦しい胸の内を明かした。

日本将棋連盟米長邦雄会長)に所属する女流棋士の独立問題で、同連盟は23日、残留か新組織移籍かを改めて問う確認文書を同日付で全女流棋士55人に送付した。22日が期限だった確認文書に対する回答の半数が、「分裂を望まない」などと独立についての意思が不明確だったためで、再回答の期限は今月末までとしている。

西村一義理事は「女流棋士の間には分裂を避けたい気持ちが強く、意思を明確にすることを迷っている人が多いが、もう一本化は難しい」と、分裂の可能性も示唆した。

女流棋士新法人設立準備委員会ブログ (再)要請書で文書の撤回が求められている件については特に何も触れられていませんが、同じ内容の文書を出すということは無視しているのか拒否しているのかということなのでしょう。

これに対して、独立を希望する女流棋士がどう反応したのかもわかりません。「独立」と回答したのか、「分裂を望まない」と回答したのか、何も回答しなかったのか。どれもあるのかもしれません。回答の総数はどの程度だったのでしょうね。いずれにしても、日本将棋連盟理事会は分裂を止める気がないまたは分裂を促進したいという構えのようで、16日の段階で日本将棋連盟理事会が話し合いを拒否しているという話になっていたところからは進展していないと推測されます。

ただ、日本将棋連盟理事会も、分裂を前提にするならするでその後のプランを示してほしいものだと思います。現在の女流棋士会がどうなるのかとか、女流育成会をどうするのかとか、決めなければならないことは山ほどあります。

ただし、分裂の場合でも独立した女流棋士には対局に参加できるそうです。

西村理事は分裂した場合、最大の懸案事項である対局権利については「残留派はもちろん、独立した女流にもスポンサーの意向を考えると対局を認めることになるだろう」と見通しを述べた。

2月21日付の文書で日本将棋連盟理事会が「将棋連盟から離れて独立された方々は一般論としては棋戦の参加は認められないと考えています」としていたところからは転換したようです。つまり、スポンサーの意向を考えない段階ではそういうことだったが、確認したら違っていたということなのでしょう。スポンサーが棋戦規模の縮小を認めるわけがないというのは、普通に考えれば当然のことだと思いますが。

関西での「事情説明会」

3月23日に関西で「事情説明会」がありました。この件に関するとは明記されていませんが、コメント欄を見るとそのようです。

午後から某所で事情説明会、人数が多い。 一昨日東京の先輩からの電話を聞いた時にかなり緊張した雰囲気を予想したが、実際は5分か10分に1度皆が爆笑する。 男女交え、真剣ながらも和気あいあいの楽しい雰囲気。知らない人が見たら宴会をやっていると間違ったかもしれず、ジョークを交えながらの意見はまさに大阪のノリ。

人の批判、中傷、行為のあら探しなど一切話題に出ず(そんな物は何も生み出さない) 真に前向きな意見ばかりの有意義な3時間を過ごせる、有難うございました。

今日のような和やかな雰囲気を作れる間柄であっても、悲しい事に第3者(煽る人、あら探しをする人等)が間に入って険悪になるケースもある。人間関係って本当に難しいですね。

前向きな話ができて良かったと思います。それが今後の方針のどのように反映されるのかに注目しています。

女流棋士新法人設立準備委員会が「企画委員会」を設置

女流棋士新法人設立準備委員会が3月8日付で「企画委員会」を設置したそうです。現在の委員は中倉宏美女流初段、松尾香織女流初段、北尾まどか女流初段、野田澤彩乃女流1級の4名です。

こういう風に本気で普及について検討するのは重要なことです。日本将棋連盟でもこれまであまりなかったような視点もあるようですから、お手本になるような活動を期待したいと思います。

日本将棋連盟の外部から見た意見

この問題に関していろんな人がいろんな意見を書いているのですが、関係者以外の書いたものはほとんど紹介してきませんでした。ここ数日、とても興味深い記事を2つ読んだので紹介します。この問題に関心のある方にとって、2度3度と読み返す価値のある文章だと思います。

前者の記事はここまでの経緯などをまとめつつ、本質を突いた論考になっていると私は思います。それ以上私が言うべきことはほとんどないのですが、一箇所だけ蛇足を書いておきます。

  • 強い→お金をもらえる、権利が強い
  • 弱い→お金をあまりもらえない、権利が制限される

リンク先で全部読めばわかると思いますが、このような単純すぎる図式でものを考えてしまうことが問題の一つになっているというのが私の考えです。

「権利」については、男性のプロ棋士棋士総会で1人1票を持っており、そこには将棋の実力による差はついていません。それは制度上仕方のないことでどこかで線引きしなければならないわけですが、その線引きが強さによらなければならないという積極的な理由は現時点で存在していないと私は思います。

「お金」については、これが強さ(正確には成績)に基づいて配分されることは一定の正当性があると思います。ただ、その比率をどうするかはこれまできちんと検討されてこなかったのではないでしょうか。現役の男性棋士の年間対局料は平均で900万円ほどだったと思いますが、それに対して女流棋士は100万円ほどと言われています。男性棋士の収入はおおよそ順位戦のクラスに基づいており、収入順に並べたときの後ろ半分はかなり平坦な分布となっています。収入は推定ですが、C級2組なら400万円台、フリークラスでも平均で300万円程度と思われます。トップクラスのA級であればタイトルを持っているかどうかで収入が倍以上違ってきますが、それに比べると後ろの方では強さによってあまり収入が変化しないわけです。そう考えると、フリークラスよりも下の序列になったときの収入の減り方は非常に急激に見えます。強い→お金がもらえるというだけでなく、権利が強い→お金がもらえるという流れも現実にはあり、その2つの混合が実際の分配なのかなという見方をしています。

こういう話をするときに、そもそも「強い」って何だろうかということも問題になりそうです。普通は「強い」といったら強いことですが、奨励会の強い三段は弱いプロより強いと言われるような状態が恒常化しているようでは「強さこそ正義」といっても説得力が薄いと思います。とはいえ、瀬川晶司四段がその傾向に風穴を開けたことは特筆すべきことでした。

後者の記事は、今回の件についてというよりもさらに大きな視点で将棋界について考察しています。「こういう活動に携わっていけるプロ棋士がいるか、というといないですね。てか本職は対局なんだし。」という部分が最も印象に残りました。日本将棋連盟が普及をしなければならないのは法律上の義務なので当然のことですが、それをやるのはプロ棋士である必要はないわけです。最近は普及の重要性に関する認識が浸透してきて、例えば中村太地四段はプロ入りを決めた直後のコメントで「将棋の普及など色々な面で役に立てれば」と話したりしています。しかし、特に若い棋士には対局に専念してほしいという希望を私は持っていて、高崎一生四段のように「盤上で真理を追究していきたい」というような意気込みを頼もしく感じます。ただ、将棋の真理の追究は日本将棋連盟会員の職務ではないのが現実であるわけです。

こうした矛盾を克服するためには、やはり様々な人の力を借りることだと思います。短期的な話をしてしまえば、、普及協力金もそういう考えを持って使ってほしいところです。日本将棋連盟は将棋界全体のための組織であり、将棋界はプロ棋士だけではなくもっとたくさんの人によって支えられているのですから。