将棋パイナップルでのやりとり (1)

今月4日から、将棋パイナップル 棋譜の「著作権」についてのスレッドで、さるさ氏とルール評論家氏との間でこの問題に関連するやりとりがなされていました。私にとって興味深い話題なのでここで少し何か書いてみたかったのですが、さるさ氏の主張がよくわからなかったため控えていました。今日になって一応終結したようなので、感想など書いてみます。

途中から、さるさ氏が話題をずらしていったように見えるので、要約が難しいのですが、さるさ氏の的はずれな主張に業を煮やしたルール評論家氏が自身の身分を明かすことで、決着がつくことになりました。

さるささん、ごめんなさい。 <(_ _)>

素人丸出しの人と法律論を戦わせる趣味はありませんので、さすがに今回で最後にさせてください。

言うまでもないですが、私は法曹資格持ってますし、経験年数も10年を超えてます。おまけに知的財産権を専門家に取り扱ってる者です。 私が言っていることの意味が分からないのであれば、それは、貴男又は貴女が不勉強なのだとしか言いようがありません。

知的財産権が専門かどうかまでは判断できませんでしたが、ルール評論家氏の文章を読んでいた人はだいたいそう思っていたのではないでしょうか。(もしかしたら、以前にも明言していたことがあったのでしょうか。将棋倶楽部24掲示板に書き込まれていた頃の文章は、私はあまり読んでいないので、そうなのかもしれません。)

同じ投稿で、ルール評論家氏は棋譜の著作物性に関する私見を述べています。

著作権は「創造的表現」について成立します。そして、だからこそ、棋譜著作権は成立しないのです。

棋譜には創造的表現がありません。

内心の思想ないし感情をそのまま正確に指し手に表せてしまうので、羽生先生が指そうと、私が指そうと、同じ思想ないし感情を完璧に再現できてしまう・・・それが言語の著作物との最大の差です。 言語であれば、同じ内心の思想ないし感情を持っていたとしても、表現は人によって千差万別です。

しかし、将棋の指し手の場合、角道を開けようと思えば、76歩と表現するしかない。飛車先を突こうと思えば26歩と表現するしかありません。違いますか?

これまでウェブ上で、棋譜の著作物性を否定する見解はいろいろありましたが、これが最も説得力あるものではないかと思います。

棋譜と著作権にまつわるMEMORANDUMの中で、私は著作権の範囲を広くとらえるなら棋譜の著作物性を肯定できるという議論を行いました。その議論に沿う形で反論するとすると、棋譜には同じものがほとんど存在しないという事実を挙げてくることになります。「たとえ同じ思想・感情を持っていたとしても、ほとんどの場合結果として異なる棋譜が生成されるということを、その事実は示唆している」という内容の主張です。(もちろん、同じ手順が他の対局でも再現されることがあるなら、その部分の手順については著作権が成立しません。)

上の主張の弱い点の一つは、棋譜に同じものが存在しないというのが経験的事実でしかないという部分にあります。将棋倶楽部24などで行われているアマチュアの膨大な数の棋譜を念頭に置くと、同じものが存在しないとは言えない可能性もあります。もし全く同じ棋譜が存在することが普通にあるのなら、それこそ議論の前提が失われることになります。

本題に戻ると、さるさ氏は、少なくとも当初は次のようなことを問題にしていました。

タイトル戦などでは、有料の大盤解説会やウェブ上の棋譜速報が行われることがあります。そのようなところで棋譜を入手した人が、直ちにウェブ上の別の場所に無断で棋譜を公表してしまうと、その時点で誰でも無料で棋譜を見られることになり、有料のサービスを提供している側が困るのではないかということがあります。棋譜の著作物性が認められなくても、このような行為は営業妨害として取り締まることができるのではないかという主張でした。

これについて、私は次のような観点があるのではないかと思っています。

果たして、棋譜そのものはそれほど価値のあるものなのでしょうか。例えば大盤解説会は、その名にあるとおり「解説」が主体のイベントです。たとえ棋譜が流出したとしても、解説が流出しなければ実質的な損害は受けないのではないでしょうか。ウェブ上の棋譜速報にしても、棋譜速報単体の有料サービスは少なくとも現在はありません。これも棋譜そのものに金銭的価値がほとんどないことを意味していないでしょうか。棋譜だけでなくそれに付随する情報があって初めて、商売として成り立つほどの利益を生むことができるのだと考えています。したがって、単体の棋譜はむしろ積極的に公開していくべきだと思います。

それでも、どうしても棋譜の流出を拒みたいならば、大盤解説会なり棋譜速報サービスなりの契約の中で、明示的に棋譜をよそで勝手に公開してはいけないという条項を作ればいいのではないかと思います。そうすれば、営業妨害という立証の難しい手段を使わなくても、契約違反という形で明確に違法行為にすることができます。コンサートで無断撮影禁止にするのと同じ論理ですね。現実には棋譜を公表した人物を特定することが難しいかもしれませんが、それはどのような場合でも同じことです。

私はそのように考えているので、棋譜と著作権にまつわるMEMORANDUMでは主に新聞などで公表されたあとに棋譜をどう取り扱うかを念頭に置いて書いています。さるさ氏が問題にしたような速報性の絡む状況については、著作権の議論ではなく、契約の問題として対処する方が現実的と思います。