渡辺明五段

王座戦羽生善治四冠に挑戦することになった渡辺明五段(19歳)。十代でのタイトル挑戦は屋敷伸之八段、羽生四冠に続いて史上3人目の快挙です。渡辺五段がその二人のようなトップクラスの実力の持ち主であることは、これで証明されたと言えます。そうなると、次は屋敷になるのか羽生になるのかが分かれ目になってきますね。

下のページにあるように、屋敷八段はその後順位戦で思うように勝ち上がれず、いまだにC級1組にとどまっています。他方、羽生は将棋界のトップに君臨し続け、現在は通算4期目の名人位を保持しています。その意味では、今度の王座戦の勝敗にかかわらず、今期の順位戦で昇級できるかが重要かもしれません。

さて、今回の王座戦ですが、取材人@Sくんの怪異な日々の27日分によれば、渡辺五段も「ある意味負けて元々と思っているらしい。」ということです。大方の見方もそうだと思いますが、そのように本人の感想が表に出て来るというのは珍しいですね。

渡辺五段の特徴は、そのように思っていることを飾らずに口に出せるところだと思います。若手棋士の日記が面白いのもそれが理由ですよね。

日記にしても近代将棋での連載にしても、一人称が「僕」であるのは象徴的です。例えば、羽生四冠にしても、谷川浩司王位にしても、文章を書くときは一人称は「私」です*1。逆に親しさを演出しようとして「俺」を使うこともありますね*2。「僕」からは普段のままの姿が見えてきます。

一年前、渡辺五段(当時四段)がまだそれほど活躍していなかった頃は、その素朴さがなくなるまでは一流になれないだろうと思っていました。しかし現在、飾らないままトップに上り詰めようとしていることには驚かざるを得ません。羽生世代の面々と一線を画する新しい棋士像が生まれつつある。そんな予感がします。

*1:羽生四冠の場合、最初の著書の『ミラクル終盤術』だけは「僕」で書いています。

*2:将棋界ではあまり見かけませんが、中田英寿Hide's Mailとか。