『四間飛車の急所』

四間飛車の急所』(藤井猛著、浅川書房)を購入しました。いつもなら、初めにざっと読んでしまうのですが、内容が濃すぎてなかなかページが進みません。とりあえず、途中まで読んだ段階ですが感想を書きます。

この本は、「使える」とか「読むと棋力が上がる」といったちっぽけな目的(あえてこう書きます)のために書かれたものではありません。最近の将棋の戦形の変遷をまとめるという壮大なプロジェクトの一環です。例えば、四間飛車の△1二香はどのような経緯で指されるようになったのか、そして居飛車はそれにどう対抗したのかがわかりやすくまとめられています。個々の変化は他の定跡書を読めばわかるものが多いですが、この本ではあえて細かな枝葉を取り去って戦法の根幹を露わにしようと努力しているのです。

本の構成に目を向けると、一頁あたりの文字数は手順を除くと平均で200字ほどと少な目です。しかし、それを補う形で図面の下にコメントが付いており、それを含めるとボリュームを感じさせるできばえとなっています。このようにキャプションで本文の補足を行うやり方は『最前線物語』でも見られた手法で、より洗練された印象を受けました。

さて、この本を戦法史を記述したものと受け止めるとすると不満なのは具体的な対局・年代が書かれていない部分が多いことです。『消えた戦法の謎』のように、いつ誰が新しい戦法のきっかけを作ったのかまで知りたかったのですが、さすがに過大な期待だったかもしれません。

この本は「使える」ためのものではないと書きましたが、それでもこの本は「使える」と思います。確かにこの本には「東大将棋ブックス」のような詳細な変化は記載されていません。新規の変化も多くありません。しかし、それ以上にこの本には定跡の考え方が書かれています。まえがきにある「四間飛車の急所を、その定跡の進化を追いながら自然と身につける」という狙いは、本書の中で見事に具体化されていると感じました。