羽生善治二冠の対談

元日の日本経済新聞第三部に見開きで、羽生善治二冠の対談が掲載されました。羽生ファンにとっては必見の内容です。日経主催の王座のタイトル保持者とはいえ、囲碁将棋欄の特集とは別立てですから特別な扱いですね。

対談相手は指揮者の小林研一郎氏。その情熱的な指揮から「炎のコバケン」と呼ばれています。(将棋界で「コバケン」といえば小林健二九段ですが、親戚関係はないと思います。)小林氏はアマチュア四段の実力者で、かなりの将棋好きのようです。小林氏の方から対談相手として羽生二冠に指名があったのかもしれません。

対談はお互いに会話のかけあいするというよりも、それぞれの専門分野について含蓄のある言葉を述べ合う感じです。含蓄のある言葉というのはややもすると上滑りしてしまうものですが、しっかりと中身のつまった話になっているのはさすがです。小林氏の話も興味深いところですが、ここでは将棋関係に話を絞りましょう。

いろいろな話題が出てきた中で、近年の将棋の変化について述べた部分がもっとも私の印象に残りました。

今の将棋は、以前とはルールは全く変わっていないのに、決着がつくまでが短くなっていて、ヤマ場が少ない感じで終わる。短距離走と同じで、スタートでつまずいたらもう終わり。だから、気持ちの持ち様が以前とは違ってきたということもあります。

序盤の研究が進んだ上に、相手に選択の余地を与えない指し方が重要なものとして認識されるようになってきました。終盤では、相手の粘りを封じる技術の発達も見られます。このような変化は、将棋で実力差がもっとも生じやすい中盤を圧縮する役割を果たしていると言えます。

そして、その先頭に立っていたのが羽生二冠当人でしょう。誰の言葉か忘れてしまったのですが、羽生が強いのは他の棋士よりも早く終盤に入れる(つまり、寄せまで深く読む段階に入れる)からだという話を読んだことがあります。

ただ、お互いにミスがすごく少なくて、完璧に近い内容の将棋は見ていると意外にドラマチックではない。お互いに最短コースを間違いなく突っ走って決着がついているからです。完成度が高いとも言えるけれども、逆にお互いミスをして大混戦になった方が見ている側からすると面白い。

このあたりは、先の竜王戦七番勝負のありようを意識しているようにも読めます。将棋は最善を尽くすと面白くなくなるゲームだという可能性も、我々は念頭に置くべきなのかもしれません。

この対談の内容の一部は、梅田望夫氏のMy Life Between Silicon Valley and Japan羽生さんの日経元旦対談が深いなぁにメモされています。

(ところで、梅田望夫・英語で読むITトレンドの連載が終了するんですね。ためになる連載でした。)