詰将棋作品集の価格

フェアリー詰将棋作品集の『神詰大全』のPDF版が無料で公開されました。冊子の形で690円で頒布されていたものですが、これで全く同様のものが無料で入手できることになりました。この自選作品集を手がけた「神無一族」とはフェアリー詰将棋作家のグループで、詰将棋パラダイスで半年に一度の定期出題を行っています。その活動の様子は上記サイトにほぼ収録されていますので、ご覧になってみて下さい。

話は飛びます。詰将棋はお金になるかでシニカルに述べられているとおり、詰将棋でお金を儲けようと思う人は(一部のプロ棋士を除けば)いないでしょう。しかし、それでも詰将棋作品集は途切れることなく出版されています。それはなぜかといえば、自分の作品を多くの人に見てもらいたいという欲求があるからなのでしょう。となると、次のような発想に行き着くのはごく自然なことです。

最近、出版されたいくつかの作品集には、装丁に凝っているせいか、やたら値段が高いものが散見されますが、私が出版する(かもしれない)作品集、あるいは参加する合同作品集では、こういうことは避けたいと思っています。私の本を所有して欲しいのは、本の中味には興味のない「蔵書家」ではなく、詰将棋に飢えていて、あらゆる知識を吸収しようとしている人たちです。その中には、使える小遣いに限りがある貧乏学生も含まれるでしょうから、作品集は安価でなければいけません。

実際、橋本孝治 普通詰将棋作品集ではこれまで発表された作品が整然と陳列されており、無料で鑑賞することができます。『神詰大全』のように豊富な文章に彩られているわけではありませんが、これも一つの形と言えるでしょう。インターネットの利用が普通になったことで、それほど費用をかけることなく作品を公開することが可能になったわけです。

しかし、費用があまりかからないといっても、無料ではないことには注意する必要があるでしょう。(本来なら最も大きい)公開できる形にするための作業に関する手間を考慮しないとしても、WWW上に場所を確保するのには一定のお金がかかります。例えば、有名な詰将棋博物館にしても、月に数百円を払ってあのようなページが出来上がっているわけです。詰将棋は一般の関心が低いのでそれで済んでいますが、何かの拍子で多数のアクセスが殺到すると、運営元からアクセス制限を賭けられたり、出ていってくれといわれたりすることになり、結果としてより高価なサービスに移転せざるを得なくなったりします。「Slashdotted」とか言われたりするやつですね("スラッシュドット効果" って何ですか?)。

そういう意味では、お金を払っても見たいというくらいの作品集には自発的にお金を払ってもいいのではないかと思うこともあります。将棋タウン実戦の詰み手筋50のように支払い手段がきちんとあればやりやすいですが、そうでないとなかなか難しいかもしれません。

電子化されたデータは、単体としては意外に寿命が短いものです。CD-ROMやDVDのディスクの寿命は紙に比べると短いものですし、WWW上のデータも、恒久的に稼働しそうなサーバがあまりない状態では不安定です。本当にお金が必要なくて多くの人に見てもらいたいならば、クリエイティブ・コモンズか何かを適用して、著作財産権の一部を明示的に放棄してしまうのも一つの方法かもしれません。コピー可と宣言してしまえば、何らかの理由でサイトがなくなってしまっても他の人が公開を続けてくれる可能性があります。もちろん、そうなると回収することもできなくなるのでそれなりの覚悟が必要ではありますが。