先手の実質的勝率はどの程度か

プロ対局の先手勝率は将棋年鑑序盤四手チャートにまとめられている通りなのですが、この数字を鵜呑みにして良いものかどうかというお話。

トップ棋士同士の先手勝率

4月9日の記事のコメントで、shigezoさんから将棋の先手勝率が実質的にはもっと高いのではないかという趣旨のご指摘をいただきました。その中で棋士の対戦ごとの勝率を計算するというアイディアをいただいたので、主な組み合わせについてデータをとってみました。

下のリストに登場する棋士は、いずれもトップ棋士と呼んで全く差し支えない人たちばかりです。中には対戦成績が偏っている組み合わせもありますが、全体としては実力が拮抗していると見て差し支えないと考えられます。

個別に見ていくと、羽生-森内や谷川-丸山などのように先手勝率が非常に高い組み合わせもありますが、逆に羽生-谷川や丸山-屋敷のように後手が5割以上勝っている組み合わせも存在します。全体を単純に合計すると、先手の461勝373敗(勝率0.553)となり、総合的に見て「トップ棋士同士の対戦では通常に比べて先手勝率が高い」という仮説をこのデータから検証することはできないと思われます。

  • 日本将棋連盟サイトで対戦ごとの手数が掲載されているもののみ。
  • 対局数が15局以上の対戦に絞った。
  • 対戦成績が極端に偏っているものは除いた。
  • 千日手持将棋による指し直しの場合は、指し直し局の手番でカウント。
  • 対戦成績のデータは最新のものが含まれていないかもしれません。

「主な対局」の先手勝率

上のデータでは長期にわたる対局データが使われていたため、年ごとに勝率の変動があるとすると適切なデータとは言えない可能性もあります。そこで、今度は日本将棋連盟棋戦結果一覧にある「主な対局結果」のデータを見てみることにします。

「主な対局」の基準は明らかではありませんが、おおよそ各棋戦の最後の方とお考え下さい。ここに登場する棋士は必ずしもトップ棋士ばかりではありませんが、いずれにしても棋戦を勝ち抜かなければ出てこられないわけで、少なくともその時点での実力は十分と言えるでしょう。

データのある2003年11月から2005年4月までの期間で、先手の通算成績は197勝142敗(勝率0.581)でした。2004年度分を抜き出すと141勝89敗(勝率0.613)となります。2004年度の全体の先手勝率はまだ公表されていませんが、この数字よりもだいぶ下回ることは確実と思われます。確定的なことを言うにはまだデータ不足ですが、「『主な対局』の先手勝率はそうでない対局の先手勝率よりも高い」という説は相当に有力なようです。

  • 7勝10敗(2003年11月)
  • 4勝11敗(同12月)
  • 7勝10敗(2004年1月)
  • 12勝5敗(同2月)
  • 14勝12敗(同3月)
  • 10勝5敗(同4月)
  • 10勝8敗(同5月)
  • 13勝9敗(同6月)
  • 9勝7敗(同7月)
  • 7勝8敗(同8月)
  • 14勝5敗(同9月)
  • 17勝8敗(同10月)
  • 11勝9敗(同11月)
  • 11勝8敗(同12月)
  • 12勝6敗(2005年1月)
  • 14勝8敗(同2月)
  • 13勝8敗(同3月)
  • 12勝5敗(同4月)

JT将棋日本シリーズの先手勝率

先手勝率に関しては、「持ち時間の短い対局では先手の有利さを生かしにくく、結果として先手勝率が低くなる」という説もあります。これを検証するために、早指しでトップ棋士同士が対戦する棋戦であるJT将棋日本シリーズの先手勝率を算出してみました。

  • 1998年度:5勝6敗
  • 1999年度:7勝4敗
  • 2000年度:5勝6敗
  • 2001年度:4勝7敗
  • 2002年度:8勝3敗
  • 2003年度:4勝7敗
  • 2004年度:7勝4敗

合計40勝37敗(勝率0.519)。これだけでは何とも言えない感じです。銀河戦とかNHK杯戦のデータも調べられるといいですね。面倒なので今のところやる気が起きないのですが。あとは、棋譜データがあれば、タイトル戦に絞った勝率とか、順位戦に絞った勝率とかがあると面白そうです。

というわけで、これといった結論の出ないまま終わるのでした。