将棋世界12月号

11月2日に発売となった将棋世界2005年12月号を購入してきました。

奨励会退会の記」

今月号で最も注目を集めているのは、上記リンク先の目次には記載されていないほど扱いの小さい「奨励会退会の記」。今年9月まで5年半の間奨励会三段リーグで戦い、年齢制限のために退会した高野悟志氏の手記です。無事四段に昇段できたプロ棋士も、もしかしたら自分がこのようなことになるのではないかという思いが頭をよぎった経験があるのでしょう。多くの人の涙を誘う文章となっています。

久し振りに、泣きました。

理由は今日発売の「将棋世界12月号」P228、 高野君の「奨励会退会の記」。

僕も高野君と同じで昇級ペースが遅く、苦労した。 年齢制限の影に怯えていた。 だから、共感する部分が多い。 僕だって、棋士になれなかったかもしれない。

今月の見どころは、岩根さんのグラビアではなくて(笑)高野三段の手記だと思います。自分も長い間奨励会に居たので、涙なしでは読めませんでした。奨励会員として指した最後の将棋が高野三段で、いろんな形でドラマがあったことは今でも良く覚えてるし、いい経験だったと思っています。

高野三段の手記は良かったです。最後のほうの「御苦労様」のところは読んでるこっちも泣きそうになりました。

上記が高野氏の奨励会における全成績です。星の付き方を見ながら文を読むと、いっそうの感慨があるのではないかと思います。私は毎年の順位戦昇級者の手記を楽しみにしているのですが、逆の立場の人の書いたものはなかなか読む機会がありませんでした。次のように始まるこの文章、ぱらぱらめくっていると見落としそうですが読む価値があるはずです。

敗者は何も語らない――

将棋界のみならず勝負の世界の常識である。今回その禁を犯すことになったのは、12年間生きてきた将棋界に足跡を残したいという私の我儘と出版担当理事、森下先生の配慮の結果である。読者に奨励会退会者の声が届くことは殆どないだろう。これを読んで少しでも奨励会に興味をもって頂ければ幸いである。

11月9日追記:神戸ネット囲碁倶楽部 棋界ウィークリー11月5日付(藤本裕行記者)

プロ編入試験第4局観戦記

目次でトップに位置付けられたのが、先崎学八段によるプロ編入試験六番勝負第4局観戦記。将棋の内容は最後の「四転五転の終盤戦、ドタバタ劇の最後に瀬川さんに運があったとしかいいようがなく、それは、何か今の彼の運勢を象徴しているような気にもさせられたのだった。」という文に全てが言い尽くされているようです。

この観戦記の中で先崎八段はアマチュアからプロになる制度についての試案を述べています。

私の試案は単純である。

マチュアはもちろん女流棋士でも参加できる三段リーグの予選を作る。そして、毎期四人(この数字はもっと多くてもいいと思っている)の人間が三段リーグに一期単位で参加する。もちろん年齢宣言ナシ。

この提案は面白いですね。ただ、その前提として三段リーグを休日に開催することが必要となるでしょう。問題は付随しますが、このこととは無関係に、奨励会の休日開催はメリットが大きいと思います。

もう一つの問題は、異なる土壌の人が混ざることでリーグ戦で不公平感が出ることでしょう。現在でも三段の中での実力差はありますが、基本的には同じ昇段条件をクリアしてきた人同士ということで理屈は通っています。別のところから入ってきた人と当たるということになると、三段リーグは総当たりではありませんから、当たる人と当たらない人の間で運不運が分かれるような話になってくるかもしれません。渡辺明竜王順位戦について「当たり具合にばらつきがある。順位戦は総当りにしてほしい。」と述べているのと同種の不満が浮上する可能性があります。

個人的には、北海道将棋連盟道場日誌2005 11月3日付に書かれた「将棋天皇杯」のようなトーナメント戦を新設して、その優勝者がプロ入りということにしたらいいのではないかと思っています。

話題の将棋、本音で語ろう!

渡辺明竜王がホストとなって、毎回異なるゲストと語り合うこのコーナーは将棋世界の新たな人気ページとなりました。今回のゲストは、この10月にプロ入りしたばかりの高崎一生四段と遠山雄亮四段。最も奨励会員に近いプロ棋士です。基本的には奨励会での経験や新四段としての抱負などが中心で「話題の将棋」はこの2人の三段リーグでの対戦を並べているのですが、私はそれよりも奨励会などの制度に関する話を興味深く読みました。

瀬川晶司氏のプロ入り嘆願の話が明らかになったとき、2人は次のように思ったそうです。

遠山

非常にいいことだと思いました。将棋界が話題になることは。

高崎

最初はどうかなと思ったけど、よく考えると自分にデメリットは何もないんですよ。棋士の反対意見の中に奨励会員の反発を挙げる声がありましたが、奨励会員の反発は最初からそんなにないんですよ。あるのは棋士の反発で。そこで奨励会員を理由に使われるのはどうかなと思いました。

遠山

何人かの三段で話し合ったことがあるんですよ。もちろん反対の声もあったけど、それほど多くなかった。

週刊将棋2005年2月23日号で高野悟志三段(当時)のコメントでも、はじめは反対だったが考え直して持ち時間の長いテストで好成績なら仕方ないと思うとあるので、符合するところがあります。(ただ、「ただし、今回の件はあくまで瀬川さんだけの特例にしてほしい。制度として新たな道は作ってほしくない。」と話しているのを見ると、反対に色分けされるべきかもしれません。)いずれにしても全員と話し合ったわけではないでしょうから、特に関西の状況などは少し違っていた可能性はありますね。

そして、さらに三段リーグの「次点2回」についても話し合われています*1この制度は非常に中途半端で、問題が多いと私は考えています。ただ、見直すにはプロ入り制度全体を変革していくことが求められるでしょう。その意味で、この問題も前段の話と関わってきます。

最終回の連載

年末ということもあってか、いくつかの連載が最終回を迎えました。「加藤一二三名局選」や「さっちゃんの毎日が素敵!」を楽しみにしていた方も多いと思いますが、私が一番楽しみにしていたのは飯塚祐紀六段の「矢倉で強くなろう!」でした。内容の充実もそうですが、一番感心するのは毎回きちんと出だしにつかみを持ってくるところ。この連載は単行本化されると信じて疑いませんが、その部分も含めてほしいものだと思います。

*1:ご存じない方のために簡単に解説すると、奨励会三段リーグを抜けるためには上位2位に入ればいいわけですが、それ以外に通算2度3位を取るという方法もあります。ところが、この場合にはプロ入りしても順位戦には参加できないフリークラス棋士となってしまい、2位以内で四段になるのと比べて収入が激減します。順位戦以外の棋戦で高勝率を挙げればフリークラスを脱出できるのですが、その条件をみたすのは容易ではありません。これまでに「次点2回」でフリークラス入りした例は伊奈祐介現五段だけですが、伊奈五段が順位戦に参加できたのはプロ入り5年目のことでした。このほかに佐藤天彦三段は次点2回を獲得したにもかかわらずその権利を放棄し、2位以内に入ってのプロ入りを目指して現在も三段リーグを戦っています。