幕が降り、次の舞台へ

昨日のプロ編入試験第5局、瀬川晶司氏が勝ってプロ入り決定にリンクを追加しました。

さて、瀬川晶司氏のプロ編入試験は瀬川氏の3勝2敗で幕が降りました。とても喜ばしいことで、瀬川四段にはおめでとうございますと申し上げたいと思います。そして、次の舞台の幕が上がります。

瀬川四段は、フリークラス棋士として四段になりました。フリークラス制度をご存じない方のために少しだけ解説します。

プロ棋士には原則として全ての棋戦に出場する権利と義務があります。その例外として設けられたのが、フリークラスです。フリークラス棋士は、将棋界でもっとも基本となっている順位戦に出場できません。そのため、収入も段違いに少なくなります。セミリタイアしたような棋士ならそれでもいいのですが、瀬川四段の場合はそれでは苦しい。できるだけ早く順位戦を指せるようになりたいということになります。

瀬川四段は上記ページにある「その他のフリークラス棋士」にあたります。「その他のフリークラス棋士」は一定の成績を収めることで、順位戦C級2組に参加できるようになります。ただし、その基準はかなり厳しいものです。

基準をクリアしてフリークラスからC級2組に上がった例は、これまでに2つだけ。伊藤博文六段と伊奈祐介五段です。この2人がクリアしたのは、いずれも「良い所取りで、30局以上の勝率が6割5分以上」という基準でした。瀬川四段がC2に上がるとすると、やはりこの基準を利用することになる可能性が高いでしょう。しかし、棋戦数の減少により勝ち星の稼ぎやすい予選が少なくなったことで、高い勝率を挙げることはより困難になりました。この壁を乗り越えることが瀬川四段にとっての課題となります。

もしその壁を超えられないと、引退規定が待っています。「その他のフリークラス棋士」でいられるのは10年間だけ。C2に上がれなければ、引退しなければなりません(正確には2016年3月までだと思われます)。瀬川四段も若くないですから、できるだけ早い時期に高勝率を挙げておきたいところでしょう。このように、プロ入りできてめでたしめでたしというだけではすまないわけですね。瀬川四段自身も話していたと思いますが、むしろ厳しいのはここから。これからが本当のスタートです。

double crownさんが2月に瀬川氏がプロになりたいという件についてで逆説的に述べていた通り、瀬川氏個人にとっては試験に受からなかった方が良かったのかもしれないと思ったこともありました。しかし、瀬川四段は決断し、将棋界の歴史に残る偉業を成し遂げました。最初にプロ入り希望を表明してから9ヶ月あまりこの話題を追ってきて、このような区切りを迎えたことに私も感慨深いものがあります。

そのように瀬川四段が次の舞台に上がる一方で、プロ編入という話題にも次の舞台が用意されています。再び瀬川四段のようにプロ相手に好成績をあげるアマチュアが登場したときにどうするのか。女流棋士からプロになる道を設けるのか。あるいは、奨励会以外からのプロ入りの道を新設するのか。こういった課題を話し合う場として、「プロ編入のための委員会」が用意されています。委員会についての公式発表はまだありませんが、日本将棋連盟理事の森下卓九段が10月初旬に行った発言によれば「委員会は10月に発足予定」とあり、大平武洋四段も次のように書いているので、近いうちに本格的な話し合いが始まるものと思われます。

来年の棋士総会に向けて、プロ試験を制度化するかどうか、委員会を作って話し合います。かなりいいメンバーが選ばれているので、期待したいと思います。

どのような制度が良いかということになると、将棋ファンの間でもまた議論百出の状態になると思いますが、基本的には才能のある人を漏らさずプロに引き上げるということを考えるべきでしょう。そして、奨励会員の待遇を改善する方向で考えてほしいものです(「心情に配慮」ではなく)。

この問題は将棋界のあらゆる部分と複雑に絡み合っていて、容易に解決できるものではありません。だからこそ、小手先の変更にとどまらず、はっきりとした筋に沿った制度を打ち出してほしいと思います。