武者野勝巳六段が米長邦雄永世棋聖の答弁書を公開

例の裁判に関連して、武者野勝巳六段が米長邦雄永世棋聖側の準備書面を本日公開しました。原告側の準備書面が公開されていないので確実なことは言えませんが、感想をいくつか書きます。

ある局面およびそれに付随する解説文について著作権侵害を主張した原告に対して、被告側は多くについて類似性は認めた上で、例えば次のように主張したようです。

格言「終盤は駒得よりも速度」を表す典型的な表現であり、そこには独創性或いは創造性はない。

普通は「創作性」ということばを使うところだとは思いますが、それはともかく、「典型的な表現」ということばが繰り返し使われています。これは「著作権法は『表現』を保護するものであって『アイデア』を保護するものではない」という基本的な考え方に基づいています。「終盤は駒得よりも速度」というのは将棋における一つの考え方、つまりアイデアであり、これを表現するのに可能な表現方法がほとんど限られているならば、その表現を著作権法で保護すると、実質的に「終盤は駒得よりも速度」という考え方を説明することを禁止する結果になってしまいます。「典型的」というのはそのようなことを言いたいのだろうと思います。

問題は、「終盤は駒得よりも速度」を表すのに取りうる方法がそれほど限られているかという点にあり、そこがこれからの争点になるのでしょう。原告から「典型的」という主張を補強するような資料の提出があるかどうか気になります。

それとは別に、武者野六段は次のように書いています。

米長被告自身は1度も出廷したことがないし、ご自身のHPでわざわざ『著作権』と銘打ってコーナーを設けた反論(とも言えないが)内容とまったく違うものを提出するのは、裁判所に対して失礼なのではないだろうか。

どの部分を指して「まったく違う」と書いているのかは不明ですが、推測すると次の部分でしょうか。

裁判で争われている局面は、私のホームページ上の下記の16図です。これ以外のものはありません。

これが書かれたのは10月30日なので、武者野六段の記述を信じるならば、その時点では10月中旬にあったらしい第4回弁論準備会は終わっており、原告の16局面のみという主張は取り下げられているということになります。ただ、米長邦雄永世棋聖自身は出席していなかったそうなので、弁護士との連絡が遅れた可能性もあります。

いずれにしても、両者からもっと情報が出ないと判断しがたいところです。もっとも、どちらもサイト上で情報を公開する義務はないのですけども。