名人戦契約問題についていろいろ(16)

まずはじめに、これまでのエントリへのリンクから。ときどきこうしておいた方が便利かと思ったのですがどうでしょうか。

そして、紹介漏れのあった記事にリンクしておきます。

それから、5月4日付で名人戦の歴史の記事が出ました。これは単なる名人戦特集ですが、最後の部分に数行だけ問題について触れています。

今回新たに進展したこととしては、5月4日頃に毎日新聞社から全棋士への手紙が送られたことがあります。手紙について、毎日新聞ではまだ報道はないようです。

5月4日には、米長邦雄ホームページで珍しく土日以外に更新が行われました。そのほかの棋士のページにもリンクしておきます。

米長邦雄永世棋聖さわやか日記5月4日(木)16時12分32秒付で「ようやく全てにメドが立ちました」と述べていますが、一方でまじめな私では「両者の主張は平行線です」と述べています。私が特に気になるのは次の部分です。

平成の年号は「地平らかにして天成る」に由来する。5月の連休明けからは全ての情報がオープンになってくることと思います。

さて、これからどうなるのでしょうか。秘して語らず、いや語れずです。結局5月26日には決着がつきます。5月27日以降に勝った人、負けた人がはっきり分かれます。プロ棋士も今回の件では、悪い子になりたくない人、口先だけの人達は信用を失うことになると思います。

そう書いてあるからといって私は全てが本当にオープンになると期待したりはしません。ただ、勝ったとか負けたとかの問題ではないのではないかと思います。全員が勝つような決着ってないものでしょうか。

次に、神崎健二七段が個人的に意見募集を行っていることに触れておきます。言いたいことのある方はリンク先にあるメールアドレスへメールを送ってみましょう。

神崎七段の意見は2つ。1つは米長邦雄永世棋聖のホームページ・日記について。もう1つは毎日新聞社の報道について。この2点について述べた意見をどう思うかということです。

今回の件に限った話ではありませんが、情報管理を日本将棋連盟としてどう考えているのかは外から見ているとよくわかりません。外に出すべき情報とそうでない情報の区分がはっきりしていないのはわかりますが、自分にとって有利な情報とそうでない情報の区分もできていないのではないかと感じることがあります。

それから、書き忘れましたが、6日発売の週刊現代5月20日号になにやら記事が出ているようですが……。

これまでの経緯について

連休明けには何かあるという話なので、このタイミングでこれまでの経緯を振り返りながら考えてみたいと思います。

まず、時系列順で簡潔にまとめ。週刊将棋5月3日号を主に参考にしました。誤り・食い違い・漏れなどありましたらご指摘下さると助かります。(毎日新聞記事については、朝刊の場合はその日付としました。実際には前日夜にウェブ上に記事が出ていることがあります。)

このような経緯をふまえた上で、各々の主張を振り返ります。まず考えやすい毎日新聞社の方から。

毎日の主張は基本的に首尾一貫しています。自分なりにまとめると、次のようなもの。

  • 1. 連盟の3月28日付の通知書は、契約上無効。
  • 2. こういうやり方は信義に背く行為である。
  • 3. 通知書の撤回を求める。
  • 4. そうすれば協議に応じる。

2.→3.→4.の流れは納得できるのですが、私は1.は気になっています。もし無効ならば撤回とかは必要なく、何もしなくてもなかったことになるのではと思うのですが、法的な知識が不足しているためよくわかりません。毎日としては、有効の可能性を考えて万全を期すために求めているのか、信義に背く行為と認めさせる意味で求めているのか、それとも他の意味があるのかということです。社長の手紙では次のようにあります。

そして「第66期以降についても、本契約と同様の契約を継続する」と明記しているのです。ただし書きで、「著しい状況の変化などで変更の提案がある場合は、両者協議の上実施する」と付け加えていますが、「著しい状況の変化」とは、たとえば将棋連盟から棋士が大量脱退して経営が立ち行かなくなったとか、毎日新聞が契約金を払えなくなったような場合を意味しています。他社の新契約金提示がこれにあたらないのは明らかです。「変更の提案」とは、契約金の増減などに関する提案を意味したものです。

契約書の全文がわからないので言えることは限られますが、これまで上にある意味での「著しい状況の変化」はありませんでしたので、上にある意味での「変更の提案」もなかったことになります。これまでも記事に何度も出てきている契約金増加はどのような方法で達成されたのでしょうか。

こういうことが気になるのは、連盟が毎日との契約を切るためにどうすればよかったと毎日が主張しているのが明らかになっていないと思うためです。可能性は2つあると思います。1つの可能性は、「著しい状況の変化」がない限り契約はずっと続くという解釈です。「著しい状況の変化」を上のような意味で捉えるなら、毎日新聞社の経営が順調な限りは、毎日側が将棋に関心がなくなっても契約は続くことになります。私はそういう契約を結ぶとは考えにくいのではないかと思うのですが、この可能性を否定するわけではありません。

もう1つの可能性は、通知書がきちんと書いてあれば問題なく契約継続を止められたというものです。連盟の通知書には「第66期以降の契約に関しては、解消させていただきたく」と書かれており、この「解消」という文言を毎日は特に問題視しています。それが問題である意味は必ずしも明らかではありませんが、「第66期以降の契約はまだ結ばれていないのだから『解消』することはできない」という解釈はそれなりに妥当だと思います。次のようなコメントからも、「解消」ではなく「自動延長しない」と書いてあればよかったのかなという感じが伝わってきます。

日本将棋連盟から届いた「通知書」は第66期以降の契約の解消を通知しており、中原副会長が述べたような「白紙」や「自動延長しない」という内容ではありません。

ただ、通知書に「契約上、申し入れをする場合は、本年3月末までにご通知をしなければならない取り決めとなっているため、させていただきました。」と書かれているからわかるでしょと言われたら、そうかなあとも思います。加えて、中原永世十段が口頭でも説明していますから、実質的には意味をなしているという解釈もあってよさそうだと思います。

もう一つわからないのは、連盟が通知書を撤回したとして、その後の協議が何を対象としたものになるかです。それで契約継続は決まりとなり、あとは契約金の増減などを決めるということになるのでしょうか。そうなると、その交渉が決裂したらどうなるのかが重要になってきます。こういうことは契約書を見ないと何とも言えないですね。見てもわからない可能性も高いですが。

次に、日本将棋連盟側の主張を考えてみます。

上の毎日新聞社側の主張について、2.はある程度認めたものの、1.と3.は否定し続けています。4月14日付文書にあるように「契約の自動延長をしないという申し入れ」だったという主張はこの問題が明らかになってからずっと崩していません。その主張自体は直ちに否定されるものではないと私は考えています。ただ、1.のような突っ込みが入る余地を残したことをいつの時点で気付いたのかは、発言があまり残っていないため不明です。4月6日に中原永世十段が説明に出向いた際に、「将棋でいえば初手を指した感じ。将棋界の将来を考えて総合的に判断した。王将戦をビッグタイトルにしてもらってもいい」と発言したことを見ると、この時点では危機感がなかったように見受けられますので、4月9日の毎日からの通知書を受け取ったあたりでようやく事態の深刻さに気付いたというところかもしれません。

主張に変化が見られたのは、4月17日の記者会見の場でのことでした。

終了後に会見した中原副会長は「一方的に契約解消を毎日側に通達したという誤解があるようだが、毎日新聞社とはまだ話し合いを続けていく」と説明。

このような主張に毎日側の「誤解」ということばが加わったのが、米長永世棋聖が毎日に説明に出向いた4月21日のことです。米長永世棋聖のさわやか日記に「誤解があるようでお叱りを受けました」という記述が登場します。この「誤解」ということばは、5月2日のファンの皆様への文書でも使われたことで公式のものとなりました(意味合いは違うのかもしれませんが)。勝手に毎日側が「誤解」したんだと言わんばかりに見えてしまうのがあれですが、それはともかく、何が「誤解」なのか米長流らしく直接には触れてくれないのはやや困ったものです。私の解釈としては4月22日に更新された将棋の話の中の次の部分ではないかと思います(現在、この文書は「まじめな私」内に移動しています。)。

席上私は、先の通知書はあくまで来年夏以降の契約自動延長のストップの申し入れに過ぎないことをはっきりとお伝えしました。あくまでも毎日新聞社との契約が円満裡に成立することを望んでいます。

第1文はそれまでの主張に沿ったものですが、第2文はここまで語られてこなかった主張です。善意に解釈すると「契約の自動延長を止めるべく通知書を出したのは毎日との契約を切って朝日に向かうためではなく、決裂の場合の保険をかけられるようにすることで、毎日との交渉において連盟の立場を強めることが目的だった」ということになるでしょうか。この第2文に相当する主張はほかにもあります。

さわやか日記4月24日(月)10時15分21秒付

日本将棋連盟毎日新聞社さんの誤解を解き、真意を伝え、契約継続を前提とした話し合いを願っています。

第66期以降も貴社と契約を続けることを前提として、これから交渉するつもりでおります

つまり、自動「延長」はしないけれども「継続」はするということなのかなと思います。「契約延長」の場合はそのまま続くのに対して、「契約継続」なら契約主体が同じというだけで契約内容は別でもいいという解釈なのかもしれません。法律用語でそんな違いがあるのかどうかは知りませんが。

ただ、連盟は3月28日付の通知書の中で「継続」ということばを使っているんですよね。

さて、弊社団は御社との間で、名人戦の契約を継続しておりましたが、この度、平成19年度・第66期以降の契約に関しては、解消させていただきたく、ご通知申し上げます。

法律文書は一語一語意味を確認しながら使う必要があり、異なることばは異なる意味であると解釈するのが普通だと思います。そのあたりの言葉選びが雑だったことが、こういう事態を招いた一因であると言えると思います。

さらに言うと、4月14日の読売新聞の記事で中原永世十段の「理事会は厳しい財政事情の連盟の将来を考えて朝日へ移すと決めた」というコメントがあります。これは完全に矛盾してしまっていますね。米長永世棋聖については、今のところ矛盾するコメントは見つけていませんが、いずれにしても苦しい主張だと言えます。

最後に、朝日新聞社についてですが、朝日は主張らしい主張をほとんどしていません。4月12日に出された荒木高伸広報担当・社長室長によるコメントの中で「現時点では、日本将棋連盟毎日新聞社との話し合いの行方を見守りたいと考えております。」とあるのが、現在のところ全てと言えそうです。逆に言うと、朝日はこれから態度を明らかにする余地を多く残しているわけで、その動きによって情勢が変わることは有り得ると思います。

ということで、今後の予想などしようかと思ったのですが、だいぶ疲れたのでこの辺で終わります。

(アップロード後に何カ所か記述を加えて修正しました。)

金銭的な話

次に、金銭勘定についてまとめておきます。

現在の状況は次のような感じ。

以上、合計5億4680万円。

もし朝日に移ると朝日オープンが廃止になるのは、誰も否定しないのでそうなんでしょうね。そうすると、5年限定でこんな風になるようです。

以上、合計6億2300万円(現状比:プラス7620万円)。

ただし、臨時棋戦は臨時ですからおそらく5年でなくなります。普及協力金は5年限定とは朝日も連盟も明言していませんが、毎日はそのように示唆しており、それを誰も否定していないのでやはりそうなのかなと思っています。そうすると、6年目からはこうなります。

以上、合計4億3300万円(現状比:マイナス1億1380万円)。

ただし、スポニチと毎日が共催する王将戦がどうなるかによってさらに損得は変わってきます。連盟理事会は王将戦の契約金額を増やそうというもくろみだったようですが、毎日はむしろこれがなくなったらという示唆をしています(スポニチの意向はどうなのかと気になっているのですが、全く出てこないということは完全に毎日に追随ということなのでしょうか。)。それから、この変更が他棋戦に与える影響は考慮していません。それはプラスかもしれませんしマイナスかもしれません。