名人戦契約問題についていろいろ(47)

少し間が空きましたが、いくつか記事などが出ています。

読売ウイークリーの記事

8月7日発売の読売ウイークリー8月27日号に「名人戦『朝日勝ち』でもなお混迷のワケ」という見出しの記事が出ています。この記事では、毎日新聞社の提案が否決された理由について次のように書いています。

しかし、勝敗を分けた決定的要因は、「将来性を考えれば朝日」と考えた棋士が多かったということのようだ。経営体力、新聞の発行部数では朝日が毎日を上回る。

何が問題かというと、この結果毎日新聞社を斬り捨てることになってしまったことなわけで、本来ならどちらかを選ぶのではなく両社との関係を維持していく必要があったと私は思います。

次にこの記事では、共催案について書いています。毎日新聞社の案が否決されれば朝日新聞社が単独で名人戦を主催することになるという認識で見られていたところ、日本将棋連盟理事会と朝日新聞社毎日新聞社との共催を模索する姿勢を見せています。5月15日の名人戦契約問題についていろいろ(20)でお伝えしたとおり、毎日新聞社は共催案を一度拒否しています。さらに今回の記事によると、「将棋界の事情通」の話として名人戦契約問題についていろいろ(39)でお伝えした7月19日の毎日新聞社訪問の際に、米長邦雄永世棋聖が再度共催を提案していたそうです。そのときも毎日新聞社側は拒否しました。したがって、今回の共催案は3度目の提案ということになるようです。

理事会がこのように共催案にこだわる理由としてこの記事は次のように指摘しています。

名人戦を望み通り朝日に移管しても、毎日に王将戦をやめられては元も子もなくなってしまう。

ただ、理事会にはこれとは別に“驚愕のもくろみ”もあると見られる。
「大幅な収入増を期待しているのです。理事会が考える共催とは、契約金の“割り勘”ではない。例えば、朝日が全額の3億5000万、毎日が半額1億7000万で、計5億超といった形を期待しているようです」(事情通)

日本将棋連盟が5月9日付で行った共催案には「両社の関係は対等」という項目がありました。両社の契約金額が異なるとすると「対等」とは言えないと思います。5月の提案と今回の提案は別ということかもしれませんが。ただ、別ということになると、毎日新聞社がお金を出す分、朝日新聞社は普及協力金を減らすということにならないでしょうか。増えた分だけ丸儲けというのは虫が良すぎる展開だと思います。

サンデー毎日中原誠永世十段の連載が打ち切り

8月8日発売のサンデー毎日8月20・27日号で中原誠永世十段の「自然流この一手」が打ち切りとなりました。「編集長後記」には次のように書かれています。

なお、長く愛読していただいた中原誠永世十段による「自然流この一手」は、打ち切りとさせていただきました。名人戦の主催問題に関する一連の経過に基づいたものです。ご了承ください。

縁切り第一弾でしょうか。

将棋ファンの感想

上で紹介した読売ウイークリーの記事には次のような記述があります。

ある棋士は、
「将棋界には失望した、ファンをやめるという手紙が寄せられるようになっている」

と、しきりに嘆いた。

たしかに、将棋について書かれたウェブログ棋士ウェブログに付くコメントなどでもそういった趣旨のものが見受けられます。ただ、将棋ファンとして純粋に見てみると、名人戦が毎日になろうが朝日になろうがそれほど変わりません。どうしても名人戦の観戦記を読みたいという人は読む新聞を変更すればいいだけの話です。そういう点で週刊・将棋タウン便り 第35号の「棋界ニュース雑感No.7」にもうなずけるものがあります。

私自身は今回の決定に批判的ではありますが、それによって将棋ファンに直接損失が降りかかってくることはないと思っています。直接損をするのはあくまでも日本将棋連盟です。ただ、その日本将棋連盟に所属する棋士のファンだったという人の中には、自分の思っていたようにその棋士が動いてくれなかったことに幻滅してファンであることをやめようと思うかもしれません。将棋ファンでも将棋そのものが好きな人と棋士という人間が好きな人がいて(実際にはその重なりは大きいでしょうけれども)、今回の問題により大きく反応するのは後者なのだろうと思います。

一般論として、ファンが不満に思ったとき声を挙げるのはそのファンの自由だと私は思います。そして、それの声を聞くかどうかも聞く側の自由です。もし不満が大きいのにそれを放置していればその業界は次第に衰退していくでしょうし、不満を持っているのがごく一部だけであれば目に見える影響は出ないでしょう。

今回の問題ではファンはずっとかやの外でした。そのことに私は不満はありますが、問題自体に関して言えば、私の気持ちは不満というよりも心配です。

新聞社同士の共催――マラソンの例

新聞社は様々なイベントの主催社となっています。その中で、マラソンや駅伝などのロードレースは将棋に状況が近いかなと思いました。マラソンでは男女合わせて6つの国内レースがオリンピックの代表選手選考対象として指定されており、他のレースに比べて高い注目度を持っているというあたり、将棋のタイトル戦の状況と似ています*1。(リンクはWikipedia

このように主な新聞社が主催社に名を連ねています。この中で東京国際マラソン読売新聞社産経新聞社となっているのが目を引きます。1981年に始まったこの男子マラソン大会は偶数年が読売、奇数年が産経
として隔年で主催社を交代する形で開催されてきました。どうしてこうなったのかは知らないのですが、持ち回り主催という形は比較的実現しやすいのかもしれません。

この東京国際マラソンですが、東京新聞社主催の市民マラソン大会「東京シティロードレース」と統合されて、2007年から東京マラソンとなることになりました。この大会では上記の3つの新聞社が共催として名を連ねることが予定されています。この大会が実現したのは石原慎太郎東京都知事の肝入りによるところが大きかったようですが、経緯については調べていないのでどのような狙いがあったのかはよくわかりません。

本当はこれに加えて、朝日新聞社主催の東京国際女子マラソンも統合する予定だったようです。しかし、今回それは実現しませんでした。共催もいろいろやっかいなことがあるのだなあという感想を持ちます。以下は、どのくらい参考になるかはわかりませんが、一応参考にしたページです。

*1:下に掲げたのはアテネ五輪のときの選考競技会。大会によって変わることがあるようです。