将棋世界9月号

8月3日に将棋世界9月号が発売になりました。

“康光先生”ってどんな棋士

まとまったインタビューで面白かったです。個人的には「棋聖戦防衛戦の開幕前は、毎回妻と新幹線に乗って、某所へお参りに行くんですよ。」という某所がどこなのか気になりました。

この屈辱を忘れない

その佐藤康光棋聖に敗れた鈴木大介八段のインタビュー。3連敗の対局中の心理を率直に語っています。内容が悪くない中での3連敗はこたえる結果だったようですね。逆に言うと、タイトル戦独特の緊張感に適応できれば十分互角に戦えると言うことではないかと思います。

百合色の風景 第47期王位戦七番勝負第1局

島朗八段の観戦記。島八段でなくては書けない独特の芸風が発揮されています。「やっぱり普通ではない、と羽生善治は思った。」という冒頭の一文だけでおなかいっぱいという感じです。

千駄ヶ谷市場

「新・対局日誌」の後釜となる先崎学八段による新連載です。将棋が生み出され値踏みされる、そういう空間を「市場」となぞらえているようです。今回は先崎八段の腕で手堅くまとまっていますが、こういう連載ものはずっと続いていくなかで評価されるもので、その意味で今後どういうスタイルを確立していくかが注目されます。

将棋世界ノンフィクション“元奨”の真実

奨励会に入ったもののプロの道をあきらめて退会した人を扱う新連載。ライターは上地隆蔵氏です。将棋世界に出てくる観戦記もインタビューもフィクションではありませんが、そこであえて「ノンフィクション」というタイトルを付けたところにこの連載の方向性が見えます。将棋そのものではなく人間もしくはその人生を扱うという意思表示かなと解釈しました。

今回の話はある種感動的な内容でよく仕上がっていると思います。ただ、これを質を維持しながら毎月続けるのは大変そうだとも思います。相手があっての話ですし、読者にとって受け入れられるような筋書きを見つける必要があるわけで、他の連載以上に豊富な取材をしなければなりません。その意味でライターの実力が問われる連載と言えると思います。

イメージと読みの将棋観

トップ棋士6名に将棋について質問するコーナー。今回の終盤戦の局面は面白かったです。これだけ見解が分かれるものなんですね。

勝又教授のこれならわかる!最新戦法講義

今回のテーマは相振り飛車。近年著しい発展を遂げているわりには体系化が進んでいない分野で、さすがに一刀両断とはいきませんでしたが、それでも勘所を押さえた解説になっています。私はこの連載を読むために将棋世界を買っているようなものです。

ドラえもん対決

宮田敦史五段と瀬川晶司四段がドラえもんに関するクイズで対決するという企画。欄外の「宮田敦史五段と瀬川晶司四段の『ドラえもん対決』が読めるのは将棋世界だけ!!」というあたりに楽しそうにやっているなという雰囲気が感じられます。

有名ですが、ドラえもんといえば遠足新報がすごいです。

毎日がオフタイム

今回は「先後の話」。統計として先手の方が勝率が高いという事実がありますが、だからといって後手不利と言ってしまっていいのかという趣旨。

個人的な感覚としては、先手も後手もミスをしなければ引き分けになるのではないかという気がしています。しかし、現実には人間はミスをします。先手の場合はミスをしても挽回のチャンスがあることが多いけれども、後手がミスをすると致命的になりやすいという理由で勝率に差が付くのかなという感覚です。例えば、振り飛車穴熊に対して居飛車が急戦を仕掛けるのはあまり良くないとされていますが、ミスをしなければそれも有力なのではないか、不利とされるのは薄い囲いで戦いを仕掛けたときには1つのミスが命取りになるために勝率が低くなるからではないかと考えても不自然ではないと思っています。

それとは別の話になりますが、片上大輔四段は「千日手後手勝ち」ルールについて次のような見解を持っているそうです。

たとえば、千日手後手勝ち、という変則ルールにしたらどうなるか?

感覚的には後手がけっこう有利だと思うのだが、実際のところはやってみなければわからない。研究相手がいれば、試しにやってみたい気もする。きっと千日手に持ち込む戦略や避ける戦略が向上するに違いない。

ちなみに、現在の千日手の発生率などは、このルールを考える上では全く参考にならない。千日手が後手勝ちという前提で指すのと、引き分けという全体で指すのとでは戦略が全く違ってくるからである。もはや違ったゲームなのだ。

もしもこのルールの後手勝率が現在の先手勝率より低ければ、先後の差が小さいという意味で、より公平なゲームであるということになりかねない。もっとも、有意な数の統計を取るには膨大な対局数が必要なので、残念ながら実際には確かめようもない。

プロ棋士千日手についてどのような考えながら指しているのかについて私は興味があります。片上四段の場合は千日手が引き分けか後手勝ちかで全く違ってくるということですので、千日手の可能性をある程度局面の評価に組み込んでいるということなのでしょう。

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増川宏一氏による木村義徳九段への謝罪広告。増川氏の著書『チェス』中で木村九段の著書『持駒使用の謎』を批判した部分に不適切な記述があったことを謝罪する内容です。『チェス』が出版されたのは2003年のことでその間に何があったのかはわかりませんが、どちらも将棋の歴史の研究をしてきた方ですので前向きな論争ができたらいいと思います。