名人戦契約問題についていろいろ(52)

いくつか記事が出ていますので分けて書きます。なお、9月25日発売の読売ウイークリー10月8日号に「朝毎共催これだけの『懸念』−将棋名人戦問題」という見出しの記事が掲載されるようです。それから21日発売の「フィナンシャルジャパン」11月号の記事については後日にします。

読売新聞の記事

19日付の記事では毎日・朝日の意向として「年内に」という話になっていましたが、日本将棋連盟は11月中旬までに妥結することを希望しているようです。ただ、5月25日に日本将棋連盟毎日新聞社と「速やかに協議に入」ることを要請したにもかかわらず、名人戦七番勝負後に開始という毎日新聞社の意向通りになったことを思い出すと、今回も似たような展開になるのかなと思います。

日本経済新聞の記事

22日付で日本経済新聞から記事が出ています。日経は今回の問題に関して主要紙の中で最も利害関係が薄い立場にあるので、視野の広い記事という意味では一番だと思います。

毎日新聞社名人戦共催を受け入れたことは多くの人にとって予想外でしたが、プロ棋士もそれは例外ではなかったようです。

8月1日に開かれた連盟の臨時棋士総会。棋士の表決で、毎日の単独主催案は小差で否決された。連盟と契約交渉することが決まった朝日は同月4日、共催を毎日に打診したが、毎日が共催協議に入ると予想した棋士はほとんどいなかった。「毎日のメンツが立たない」(中堅棋士)と思われていたからだ。また毎日が系列のスポーツニッポン新聞社と共催する王将戦からも手を引くとの予想が大勢だった。

実際、毎日の内部でも「将棋連盟とは袂(たもと)を分かつべきだ」という意見は根強かった。だが、名人戦のブランド力や将棋欄を廃止した場合の販売への影響、インターネット事業における有力コンテンツとしての将棋の将来性などを考慮し、最終的に連盟との関係断絶を避けたようだ。

この期間に毎日新聞社内部でどのようなやりとりがあったのか、後日談として聞きたいものです。特に、新聞販売における将棋欄の影響力を新聞社がどのように具体的に評価しているのかはかなり興味があります。個人的には、将棋欄がなくてもたいして影響がないのではないかと思っていたのですが、そうではないという意見が優勢になったのには何かはっきりした理由があるのでしょう。共催となると名人戦を独占するよりも販売を上向かせる力は減ってしまうわけですが、それでも名人戦を主催したいと決断したということは、将棋もまだまだ捨てたものではないのかもしれないと思うと、よかったという気持ちになります。

この記事では、名人戦竜王戦の関係に触れています。

「大・名人戦」の誕生で竜王戦が“格下げ”になれば、読売が反発して契約金を下げる可能性もある。連盟の米長邦雄会長は「竜王戦を第一位の棋戦とする考えに変わりはない」と強調、序列は契約金順という取り決めの変更も示唆した。それに対する読売の動向が焦点になる。

棋戦の格付けは契約金額の順になっているという建前があったのですが、朝日と毎日の2社合計と比較すると契約金額はもちろん発行部数でも読売は第2位となってしまいます。それでも竜王戦を1位とする理由付けはどうするのか。理由なんかなくても1位と強弁することも不可能ではありませんが、それでも契約金を上げる理由がなくなることに変わりありません。

この件に関する読売新聞社の姿勢は、25日発売の読売ウイークリーの記事に表れてくるのかなと思っています。

朝日オープンの今後

朝日新聞名人戦が掲載されることになると、朝日オープンはやはり終了の可能性が高くなります。その代替として、朝日新聞社は5年間の臨時棋戦を提案していました。その具体的な方式は明らかになっていませんが、朝日新聞9月19日付朝刊の朝日オープン展望記事中で、日本将棋連盟理事の島朗八段が次のように発言していました。

――名人戦のことも大きな話題でした。

島 どういう形になるにしろ、朝日新聞社にお世話になります。ファンを失望させない形にすることが将棋連盟の責任です。「朝日オープン」も形が変わる可能性がありますが、アマ枠10人は堅持し、プロもオープン参加にしてはどうでしょう。例えば出場希望のプロは5万円払って自費参加とする。1回戦の対局料はなしで、対局料は2回戦から。1回勝てば元が取れる。プロもアマも女流もみんな横一線でスタートする。

――どのくらいのプロが参加するでしょう。

島 選抜方式より自由参加方式の方が公平です。若手はみんな出るだろうし、上位も含め全体の半分は出るんじゃないですか。

現在、プロ棋士は対局規定によって原則として全ての棋戦に出場する義務を負っています。ここで提案された自由参加方式はこの義務を緩和するものです。将棋界の一つの問題に、トップ棋士の日程が過密になりがちなことがあります。ゴルフやテニスであれば、主要大会で好成績を挙げられるトッププレイヤーほど余裕ができるために狙いの大会に照準を絞りやすく、逆に中途半端な実力のプレイヤーは少しでもランクを上げるために優先度の低い大会にも出場しなければならないという構造になっています。それに対し、将棋界は実力が弱いほど対局が付かなくなって暇ができるという逆の仕組みができています。棋戦への自由参加が主流になると、人気棋士に参加してもらえるように待遇を良くしようという棋戦ごとの競争関係が生まれるのではないかと期待します。

名人戦の議論を見ていて、朝日オープンがなくなることに対しての言及が少ないのをときどき残念に思うことがあります。朝日新聞社名人戦を主催することでより良くなるという主張がありますが、そこには朝日オープンが名人戦に比べて著しく劣るという前提があるわけです。私は朝日オープンがそれほど悪いとは思いません。アマ枠の大きさは言うまでもないとして、持ち時間3時間の勝ち抜きトーナメント方式は、囲碁の世界戦でもよく導入されていますし、将来将棋で国際棋戦が作られることになれば最も参考にされるべき棋戦ではないかと思います。

共催になったため、朝日新聞社の臨時棋戦の提案もどうなるかわかりませんが、朝日オープンの精神は残してほしいものだと思っています。

10月8日追加

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