名人戦契約問題についていろいろ(57)

11月9日にお伝えした名人戦契約問題についていろいろ(56)と同じ話題です。(下で、報知の記事は共同通信伝だと思います。)

10月20日に連盟、朝日、毎日が協議した席で連盟が提示したが、今月6日に行われた3者協議では両社から明確な回答がなかったという。

連盟は8日、米長邦雄会長名で両社の社長に対し、契約金の総額などを含めて早急に協議するよう求める文書を発送、「協議が不調の場合は、朝日単独主催案に戻さざるを得ない」としている。中原副会長は「提示額はあくまでたたき台。両新聞社から回答がないと話が進まない」。

このあたりが新しい情報です。依然としてわからないことの一つは、今回の提案で「普及協力金」と「名人戦振興金」は5年間限定なのかどうかです。それによって話は相当に違ってくるように思います。それから、「朝日オープンに代わる新棋戦」という表現が「臨時棋戦」という話に取って代わっていますが、これも5年限定と見られることを避けているつもりなのでしょうか。この棋戦をどこに掲載するのかという問題は全く解決していないので、どうせなら日刊スポーツ掲載の女流王将戦に上乗せしてしまうのはどうかと思ったりするのですが。

さて、もし「普及協力金」と「名人戦振興金」の恒久化を視野に入れているとすると、両社合計で8億1800万円という金額を毎年支払うという話になるわけですが、これを両社が飲む可能性があると日本将棋連盟理事会が思っていたのかどうかについて非常に疑問に感じます。とりあえず大きめの金額を始めに言っておくと交渉を有利に進められる的なノウハウはたしかにありますが、それならば「おおむね了承された」などというコメントを撤回しないのは、けんかを売っているようにしか見えないのでまずいのではないかという気がします。

こういうのを見ていて感じるのは、新聞社と日本将棋連盟の協力関係が変質したのかなという思いです。いろいろありながらも両者は共同体のような意識がこれまであったと思うのですが、今回の経緯では将棋の普及という建前を媒介として、自分の利益になる部分だけ相手を利用していこうという姿勢になってきているのではないでしょうか。国家間の外交のように利害調整が大変になるでしょうけども、大義名分がないときには、相手の足を蹴飛ばすのはちゃんとテーブルの下でやってくれとは思います。

実際のところどのあたりが落としどころなんでしょう。理事会の提案の出し方を見ると、ここから値下げできるのが「普及協力金年2億円」か「他の棋戦+名人戦振興金 合計年2億1800万円」かどちらか選んでくれという感じなのかなと思ったのですが、新聞社側から見ればもう少し値切りたいところなのではないかと想像しました。決裂すると「協議が不調の場合は、朝日単独主催案に戻さざるを得ない」とのことですが、実際にそんなことを言い出したらもう笑うしかない感じです。これまでの展開を考えるとありえないとは言えないのがまたあれですけれども、現実には朝日新聞社の単独主催案は一度ご破算になったという扱いではないでしょうか。