名人戦契約問題についていろいろ(59)

読売新聞からしか記事が出ていませんが。

関係者によると、両社の提示額は、名人戦契約金が1社1億7000万円の計3億4000万円で、ほかに将棋普及協力金を朝日が2000万円、毎日が1000万円支払うという。この契約金額は現在の毎日単独主催の3億3400万円より600万円アップするものの、読売新聞社が主催する竜王戦の契約金3億4150万円を下回る。

11月9日の名人戦契約問題についていろいろ(56)および11月11日の名人戦契約問題についていろいろ(57)でお伝えしたとおり、日本将棋連盟からの提案額は契約金・普及協力金などを合計して6億6000万円でしたので、かなりの開きがある回答となっています。これに王将戦と朝日オープンの契約金が加わる可能性がありますが、今回の毎日新聞社朝日新聞社の回答でははっきりしていないらしく、読売新聞の記事では「朝日主催の朝日オープン選手権は8000万円、毎日がスポーツニッポン新聞社と共催している王将戦については現状維持の7800万円と、いずれも連盟の要望額で継続する方向で検討していると、連盟側はみている」となっています。これが正しいとしても、現状と比較して名人戦の増額で朝日オープンの減額を満たし切れません。

王将戦はいいとして、朝日オープン(もしくはそれにかわる臨時棋戦)については金額よりもどこに掲載されるのかの方が読者の立場からは気がかりです。系列の日刊スポーツには女流王将戦がありますし、週刊朝日には達人戦があります。そうすると夕刊か土曜版にするのか、ネット配信のみになるのか、そういった要素も交渉では詰めていく必要があります。

さて、今回の回答ですが、読売新聞社主催の竜王戦の契約金額を下回るという配慮が見られたのが注目されます。読売新聞記者のよみくま氏が将棋世界2007年1月号の名人戦問題特集に関して将棋パイナップルで次のような書き込みをしていました。

157: 名前:よみくま投稿日:2006/12/10(日) 08:51

名人戦の真実」というタイトルにはほど遠い内容ですね。
はっきり言って笑ってしまいました(笑)
共催問題に関して、読売新聞に事前通告をしなかったことなど契約違反を指摘された
連盟上層部が読売に謝罪したことなど、読売関係で理事会にとって不利益な話は一つも出てませんね。
朝日、毎日への取材もなく「真実」とは驚きますね。

将棋世界の特集については私の考えはまだ書いていませんが、近日中にと思っています。それはともかく、読売新聞社には竜王戦の契約金額を名人戦を上回るようにしたいという意思を持ってきたところ、共催によって契約金額がつり上がるならば対応を考えなければならないという立場から何らかのやりとりがあったようですね。今回の毎日・朝日両社の額ならばそうした問題は生じません。

ただ、普及協力金がこれまで言われていた億単位から桁が下がっていて、しかしゼロにはなっていないというあたりは、まだ上積みの余地があるということではないかなと私は感じています。前回は日本将棋連盟がめいっぱいの要求をしてきたので、それとバランスを取るためには新聞社側も下限の回答(よりは少し大きいですが)をせざるを得ない。そのように互いに離れたところから少しずつすりあわせていく作業がこれから行われるのだと思います。日本ではきちんとした信頼関係があるといきなり落としどころに持っていけたりするのですが、一度それが壊れると改めて構築し直すところから始めないといけないという感じでしょうか。野球のメジャーリーグで松坂投手の交渉が大詰めに入っていますが、それと似ているところがありますね。

一般的に、決裂したときにどれだけ広い選択肢を持っているかが交渉での立場の強さを決める要因になります。松坂投手の代理人が、契約交渉が決裂すれば日本に残留しても構わないと発言しているのもそのようなことを意識しているわけです。こう考えると、名人戦移籍という最大の切り札をすでに使ってしまい、「反発」といっても実質的に大した選択肢を残していない日本将棋連盟側は不利な立場に置かれていると言えます。とはいえ、毎日・朝日側も日本将棋連盟に損をさせるまではしないのではないかと私は予想しているのですが。

毎日・朝日両社は共催に合意したときは年内の契約を目指すとしていました。米長邦雄永世棋聖はそのときは11月中旬までにはとしていましたが、最近は年内にとしています。しかし、今回の開きを見ると年越しもあるのではないかと感じました。来期の順位戦開催に影響が出ないためのタイムリミットがいつなのか知りませんが、年が変わってもまだ少しの余裕はあるのではないかと思います。

ところで、田中寅彦九段と二宮清純氏との対談テキストの続きが二宮清純「BIZ-SPORTS」で掲載されていますので、リンクしておきます。