日本経済新聞に武市三郎六段の記事

1月10日付の日本経済新聞夕刊で「気張らず焦らず(2)将棋棋士武市三郎氏――『底辺』で24年」という見出しの記事が掲載されました。武市三郎六段は順位戦C級2組から上がりも下がりもせずにずっとぎりぎりで残留し続けていることで知られています。

もちろん、望んだC2暮らしではない。十五歳で上京した徳島の天才少年はプロ養成所ともいえる奨励会で腕を磨き、プロ一年目、二十八歳のとき好機を迎えた。C2で七勝(十戦)を挙げ、C1をうかがう。だが翌年は四勝どまり。最大の勝負どころだった。

出世で占められた頭の中が微妙に変わったのはこのころだ。折から伴侶も得た。将棋で勝負というより「将棋で生活する」。急に所帯じみたようだが、勝敗にとらわれると重圧でつぶれる。楽に指せれば手も自由になる。それには生活を安定させること。

たしかにそれが最も大切なことです。将棋界で注目を集めるのがトップ棋士であることは当然ですが、実際に中で生きていく段になるとそれで生活できるかできないかが最大の関心事になることは自然な話で、順位戦に参加し続けるという最低限のノルマを達成し続けてきた武市六段は、一人のプロ棋士のモデル的存在とも言えます。通算勝率が高くなくても、目指すべき目標を達成し続けると決めてそれを実際にできるのは、やはりプロの仕事として高く評価されるべきだろうと思います。

これからの将棋界が、生活できるできないの分水嶺をどこにおくようになるのかはわかりませんが、与えられたルールの中で最善を尽くしてみせるのがプロというものだとすれば、武市六段はプロ中のプロだという言い方もできるかもしれません。武市六段の今期順位戦の成績は8戦を終えて4勝4敗と、残留が濃厚となっています。