女流棋士独立問題についていろいろ

時間がないのですが、どんどん話が進みそうなのでがんばって更新します。

女流棋士の存在が将棋界に不可欠であるという認識はほとんどの人が共有しているものと思います。その女流棋士の価値をどのように高めていくかが一番の問題であり、そのために組織をどうするかとかいうのは本来は副次的な問題に過ぎないはずだと思っていたのですが……。

日本将棋連盟の発表(2月14日付)

2月14日に日本将棋連盟理事会が次のような見解を表明しました。

米長邦雄の家の2月10日更新分によると、これは「弁護士作成の正式文書」のようです。たしかに、普段の文書と比べると注意深く書かれている印象を持ちました。

この文書は女流棋士新法人設立準備委員会が募集している寄付(女流棋士新法人 女流将棋協会(仮称)設立にむけてご寄付のお願い)に関しての見解を表明しています。私の言葉でまとめると次のような感じでしょうか。

こういう話が出てくれば寄付をする人の意欲は鈍ることは避けられず、日本将棋連盟理事会はそうした効果も承知してこの文書を出したと考えるべきでしょう。

次に、日本将棋連盟理事会は女流棋士新法人設立準備委員会に、顧問弁護士が立ち会う話し合いの場の設置を求めているとうことです。その形態は3項目で、話し合いの参加者は次のようなものを求めているようです。

1つ目についてはこれまでも話し合いは行われていたはずですが、「仲間としての話し合い」ではなかったということのようです。まあ話し合いは必要でしょうからどんどんしたらよいのではないかと思います。ただ、3つ目については公式に話し合いを設定する必要性があるのかどうか疑問を感じなくもありません。

いずれにしても、重要なのはその場で何を話し合うかで、その点はこの文書には全く記されていません。

読売新聞の記事(2月14日朝刊)

読売新聞2月14日付朝刊に掲載された西条耕一記者による「記者ノート」は「女流棋士の独立 推進派が招いた混乱」という見出しでした。この記事は次のように始まります。

日本将棋連盟米長邦雄会長)に所属する女流プロ棋士の任意団体「女流棋士会」(会長・藤森奈津子女流三段)が独立を検討している問題で、同連盟に残ることを希望する女流棋士が多く現れ始め、独立に向けての動きは流動的になってきた。

2006年12月1日に女流棋士が新法人設立へ 臨時総会で決議でお伝えした決議内容は様々なことを検討・準備した上で改めて決議を行うものという解釈であって、独立を目指すのが既定路線のようになっているのはおかしいという意見が女流棋士の中にあるということです。

独立慎重派によると、女流棋士会に加入していない2人を含む全55人のうち、反対は現時点で十数人、さらに10人以上が賛否を決めていないという。

独立賛成が過半数なのは揺るがないにしても、そこからどれだけ上積みできるかに不安が残っているようです。慎重派とされる女流棋士の意見がほとんど表に出てこないためどのような点に懸念があるのかがはっきりしませんが、そういった心配をどのように取り除いていくのかが独立への課題となっているのでしょう。

混乱に拍車をかけたのが、同委員会が今月1日から、連盟側の了解なく、総額1億円を目標に独立のための寄付金を集め始めたことだ。連盟理事会は「独立が決定したとは聞いていない。この段階で寄付金を集めて、もし独立しなかったらどうするのか」と反発、顧問弁護士が委員会側の弁護士と協議する事態に発展している。

2月4日の女流棋士独立に関連していろいろでも少しだけ書きましたが、独立しない場合は返金があると私は解釈しています。寄付金の目的は新法人の設立準備および当初運営資金となっていますので、新法人が設立されない方針になる場合は前者の一部と後者の全部が不要となり、準備に使われた一部の資金を除いて寄付金が余ることになりますので。それについて記載がなかったのは突っ込まれても仕方ないと思います。

なお、タイトル保持者は矢内理絵子女流名人が賛成派で、残りの3名は慎重派とのことです。

記事は「女流棋士の自立は歓迎すべき」とした上で次のように締めくくっています。

ただ、推進派が独走しても、独立後の運営が円滑に進められるかどうかは疑問だ。早ければ4月にも設立総会を開くという案もあるそうだが、まずは説明責任を果たすことが必要だろう。

説明責任を果たすことが必要だという点には賛成です。ただ、反対派とされる女流棋士が具体的にどのような意見を持っているのかも知りたかったと感じました。

女流棋士新法人設立準備委員会が読売新聞記事に反発

2月19日に女流棋士新法人設立準備委員会が次のような記事を掲載しました。

しかるに,読売新聞2007年2月14日朝刊掲載記事「記者ノート」(西條耕一記者)は,事実に反する記載が多く,「推進派が招いた混乱」「推進派が独走」など,余りに一方的に決めつけており,弊委員会としましては,誠に心外であり,大変遺憾に存じます。

特に2つの点で「重大な事実誤認」があるとしています。1点目は「推進派が独走」という表現が一方的であるということ。ただ、これはちょっと微妙かなと私は感じました。記事中の表現は「推進派が独走しても」というものであって、これは今後「独走」することがあると良くないと言っているだけで現状を表しているわけではないと読めなくもありません。全体の印象から言うと、現在独走していると解釈するのが自然だということならそうかなとは思いますが。米長邦雄の家2月10日更新分によると2月9日に日本将棋連盟で記者会があったそうですので、その際にそのような趣旨の発言が理事会側からあってそれが影響したのだろうかというようなことを思いました。

どちらかというと私は、同じ突っ込むなら見出しの「推進派が招いた混乱」の方だったのではないかと思いました。見出しの方が重大なのは言うまでもありませんし、混乱しているとしてその原因は特定の誰かというよりも全体の問題のように私は思っています。

これに関して、女流棋士新法人設立準備委員会が強調したいのは次の2つのようです。

後者については次のような書き方になっています。

更に,弊委員会の活動は,日本将棋連盟理事会からの要請に沿うものであります。すなわち,そもそも,私どもの独立に向けての活動開始の直接の端緒となった昨年4月14日の女流棋士会臨時総会決議は,その直前の3月8日の日本将棋連盟米長会長の独立に向けたご助言とご指導を受けてなされたものであります。準備委員会設置後は,弊委員会は日本将棋連盟理事会と,3度にわたる円満な正式協議を重ねております。その上,日本将棋連盟理事会からは,女流棋士全員に対し,正式文書にて「女流棋士会の独立問題につきましては、連盟理事会といたしまして、・・・可能な限り必要な協力を惜しまない考え方にたっております」というご声明を頂いております。

米長邦雄永世棋聖のくだりは、2006年12月5日の女流棋士会ファンクラブ「MINERVA」来年2月に会員募集開始の中で紹介した共同通信記事の中に出てくる米長邦雄永世棋聖の発言と符合するもので、公式ページや米長邦雄永世棋聖の個人的なページではこれまで明らかにされてこなかった話だと思います。

「事実誤認」の2点目は、2月1日の寄付金募集が連盟の了解を得ていなかったという部分についてです。これについては、1月30日の協議で了解を得ていたというのが女流棋士新法人設立準備委員会の主張です。米長邦雄の家2月10日更新分では、寄付金募集について「理事会へは何も事前に相談することなく通知のみありました」とありますので、事実関係に食い違いが見られます。

上記正式協議にて,準備委員から準備委員会による寄附金の募集について,ご説明を差し上げましたが,さらに,その場で,木村先生からも寄附金募集については法的に何らの問題がないとご説明を頂いております。その上で,弁護士錦織及び同宮坂より,法的には全く問題はなくても,将棋連盟の知らないところで準備委員会名義の寄附金公募の書類が多数出回るのは適当でないので,その場で将棋連盟理事会側に対し,下記書面を配布致しました。将棋連盟理事会側の出席者は,下記書面をお読みになり,特段の異議を述べられず,ご了解下さったところであります。また,実際の募集開始時にも,その旨準備委員から中島渉外部長にご連絡を差し上げました。

矛盾するように見える部分が多い中で可能性を探すと「特段の異議を述べられず,ご了解下さった」のあたりが特に問題になっているのかなと推測しました。この書き方は、了解したという言葉はなかったけれども異議もなかったので了解されたものとみなすということだと思いますが、何も発言がないことを肯定とみなすのは行きすぎの場合もあるのでそのあたりで食い違いがあるのかもしれません。実際のところはその場の状況次第ですね。米長邦雄永世棋聖はこの協議に出席していなかったようですが、だから米長永世棋聖が勘違いしているというような単純な話ではさすがにないと思います。

その協議で何らかの言質があればはっきりしていたのですが、組織構成がどうこうとは関係なしに、何というか、男性棋士女流棋士の関係が言質を意識しなければならないようなものだとしたら悲しいことです。

米長邦雄永世棋聖の更新

時系列が前後しますが、米長邦雄の家の2月17日更新分でも女流棋士に関する話題が書かれました。

12月1日の女流棋士総会の「独立」について、どのような法的解釈なのか興味があります。最も大きな衝撃は、2月吉日付で1億円の寄付金を公募されたことです。
女流棋士の大多数が心から賛同した寄付集めなのでしょうね。間違いありませんね。もっとも集めるのは日本将棋連盟とも女流棋士会とも全く別の団体なのですから法律的には何も言い出すことは出来ません。
大変遺憾に思いますが、法的にはイカンとはいえないとのこと。如何ともし難い。

改めて書く必要もありませんが、理事会は女流棋士全員の幸せを祈っております。ただ、現状は困り果てているというのが本音です。女流棋戦は日本将棋連盟とその契約者が決めることで、全く別の団体からとやかく言われる筋合いはありません。
女流の独立や自立は、親元の日本将棋連盟からにしてもらいたかった。全く別の団体を作って、私も何の意見も出せず、アドバイスも何も出来ない。してはならない。素人の常識と法律はかくも違うのでしょうか。
私の願いはひとつです。全員仲良く独立するか、全員残るかにして頂けませんでしょうか。
参ったなぁ。

このあたりの主張は私には理解しがたいのですが、ぎくしゃくしている様子は読みとれます。「女流棋戦は日本将棋連盟とその契約者が決めることで、全く別の団体からとやかく言われる筋合いはありません」というのはどうでしょうか。そもそも論を言えば日本将棋連盟公益法人ですから誰でも言う権利はあるでしょうし、それをおくとしても将棋界全体のことを考えればいろんな人の意見を聞くべきなのではないでしょうか。「素人の常識」というあたりにはあまり共感できません。

しかし、ここででてきた「契約者」の存在は重要です。実際のところ、スポンサーが離れてしまうなら明らかに失敗ですし、ちゃんと付いてくるなら独立に直接の支障はないわけですから。そのあたりはどうなっているのでしょうね。読売新聞の記事によると日本将棋連盟理事会は一部の女流棋士に対して「『連盟に残っても公式戦の対局ができるよう各スポンサーとも交渉する』と個別に説明している」そうですので、もしスポンサーとの交渉で難渋している部分があるのであれば、日本将棋連盟女流棋士新団体に二重に所属するような扱いが一時的にはあっても良いのではないかと思います。

やはり、日本将棋連盟の支援は少なくとも短期的には重要です。女流棋士の決断は独立した場合しなかった場合を比較するわけですが、日本将棋連盟がそれぞれの場合にどのような支援策を採るのかが明確になっていないために煮え切らないのではないかと想像します。女流棋士の自立に向けて、独立にしてもそうでないにしても、どのような道程で自立を促進する案を持っているのか明らかにしてもらいたいものだと思います。