将棋パイナップルでのやりとり (3)

将棋パイナップルでの棋譜の「著作権」についてのやりとりはまだ続いていて、やや錯綜気味になっています。ルール評論家氏とさるさ氏のやりとりは大筋で決着しているように見えますが、新たに塚本惠一氏も加わってどのような展開になるか先が読めません。

どの書き込みも長文なので、全部読んでいる人はあまりいないと思います。私も正直なところ追いつけていませんが、がんばって読んでいます。まとめるのは大変そうなので、もう少し落ち着いたら考えます。

とりあえず、さるさ氏の主張の次の部分には反論が必要だと思うので、手短に書いておきます(と、言っても長いですが)。

竜王戦倶楽部では

>>対局棋譜や写真等、本サイトに掲示された情報については読売新聞社にすべての権利がありますので、 転載等は固くお断りいたします。

と書いてありますし、他のタイトル戦のページや毎日のページでも同様でしょう。

これだけはっきり書いてあるにも関わらず「私は積極的債権侵害はない。勝手に棋譜の使用ができないことにつき故意や重過失はない」といえる権利がどこにあるのでしょうか。

竜王戦倶楽部のトップページに誰でもわかる大きな文字で対局棋譜や写真等…とでも書かないといけないでしょうか。

まず事実関係を確認しておきます。上で引用されている注意書きは、竜王戦倶樂部の「本サイトのご利用について」(http://ja.st76.arena.ne.jp/club_general/commment.html )にあるものです。(この文を見つけるのにだいぶ手間取ってしまいました。*1

ほかの新聞社のページを見てみると、例えば毎日新聞社Mainichi INTERACTIVE 将棋には次ような注意書きがあります。

Copyright 2002-2003 THE MAINICHI NEWSPAPERS.All rights reserved.

毎日インタラクティブに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。

著作権毎日新聞社またはその情報提供者に属します。

これは著作権に関する注意書きであることは明白なので、棋譜著作権を仮定しない議論では無関係です。ほかの新聞社でも同様で、読売新聞社のサイトでも「・YOLに掲載の記事、写真の無断転載を禁じます ・著作権、リンク、個人情報の取り扱いについてはこちら」と、著作権に関する注意にとどまっています。竜王戦倶樂部のように「すべての権利」という具体性に欠ける語が登場しているものはありません。このことから、竜王戦倶樂部が法律に詳しくないために、権利の詳細を検討しなかっただけではないかという印象を持ってしまいます。

すべての権利」と言っても、例えば所有権が含まれないことは明らかです。それでは、具体的にどのような権利を主張しようとしているのでしょうか。

対局棋譜や写真等、本サイトに掲示された情報については読売新聞社にすべての権利がありますので、転載等は固くお断りいたします。」という文章を善意に解釈すると、「法的に保護される権利についてはできるだけ主張します。転載はしないで下さい。」ということになるでしょうか。実際にどこまでが権利として保護されるのかは、読む側に判断を任せているわけです。ということは、読売新聞社に転載を禁ずる権利がないならば、転載しないことをお願いしているだけであり、転載しても法的に罰せられることはないという解釈も許されることになります。「お断りいたします」と言っているからといって、必ずしもそれが法律で認められた権限に基づいているとは限りません。実際には「できれば転載しないで下さい」という意味だということですね。(ちなみに、日本将棋連盟はこちらの「転載をしないようお願いする」立場です。)本当に転載してもらっては困るのなら、「権利」の内容をもっと具体的に書いてもらわないと伝わらないと思います。

ほかにも問題点はありますが、もう一つだけ指摘すると、注意書きのある場所がわかりにくいことがあります。棋譜を見たいと思っている人(ほとんどの人はそうでしょうが)は、特段の事情がない限り棋譜のページに一直線に向かいます。わざわざ「本サイトのご利用について」を見る人はほとんどいないでしょう。そういう状況では、閲覧者にとって注意書きはあってないようなものです。

対局の勝敗と同じように対局の棋譜も自由に利用できると考える人は多いですし、私も棋譜の転載が日本将棋連盟や新聞社に損失をもたらすとは思いません。もし棋譜の転載をなくしないのなら、もっと明確な形で書く必要があるでしょう。もっとも、私は棋譜の転載は奨励するくらいの方が、将棋界のためになると思いますし、日本将棋連盟もこの考え方をある程度は認めていると思っています。本来の場所とは別のところで棋譜を見て、もう新聞を買わなくてもいいと考える人もいるのかもしれませんが、棋譜を見てここはどうなんだろう、観戦記も読んでみようと考える人も多いはずです。長期的に考えれば、棋譜をオープンにすることが利益を生むと思うのですがいかがでしょうか。

つっこみどころはまだありますが、今日のところはこのくらいで。

*1:関係ありませんが、"commment"って何でしょうか。