王者の震え

週刊文春の今週号(10月30日号)の「先ちゃんの浮いたり沈んだり」は「王者の震え」という表題でした。王者というのはもちろん10月15日王座戦第5局での羽生善治四冠です。

次のNIKKEI NET 将棋王国の記事からも、その様子が伝わってきます。

今週の先崎学八段の文章は、後々まで記憶に残したいと思いました。あと一年か二年後に読むとさらに感慨深くなることでしょう。先崎八段はおちゃらけたことを書くことも多いのですが、このように物事を真正面から真剣にとらえる文章に本質が表れているように見えます。

私は大盤の横の大きなモニターテレビをくいいるように見ていた。彼の指は、はっきりと二回角を落としたのだった。その指はあきらかに震えていた。これは精神の張りがピークに達したときによくおこることで私も何回か経験がある。だが、あれほどまでに震えた指ははじめて見た。角を成ったのはまさに三度目の正直であった。

渡辺君は、ややかすれた声で、それでも気丈に敗戦の弁を悪びれずに語った。立派な姿だった。王者は震え、若者は堂々と負けた。ふたりに対する拍手は、しばらく鳴り止むことがなかった。