優勝劣敗の法則

囲碁界の真相』を読みました。ところどころ疑問を呈したい主張もありますが、将棋界のお隣の囲碁界での危機的状況が描写されていて、似たような制度を持っている将棋界でも参考になる部分が多いと思われます。

この本で著者の書きたかったことは第一章の「日本碁界凋落の構図」でほぼ尽くされています。ここでいう「凋落」とは日本が韓国・中国に勝てなくなっていることを指しています。例えば、世界囲碁選手権・富士通杯では、次のページに見られる通り日本から韓国へ覇権が移ったことが明確に見て取れます。この以降が起きたのはおよそ10年前のことでした。10年以上前は日本の棋士が勝って当たり前だったのに、現在では日本の棋士が勝ち進むことが快挙と言われる状況です。

どうしてこうなってしまったのか。著者は結局「お金の問題に行き着く」と書いています。上位棋士の獲得賞金額は10月31日に表を作りました。この表を見てどう感じるでしょうか。著者はこれは寂しい金額と述べています。韓国や中国では(普通のサラリーマンと比べて)多額の賞金を手にすることができるのに対し、これではハングリー精神を育てるべくもない。プロになるのは東大に入るより難しいのに、プロになっても稼ぎが少ないのではハイリスク・ローリターンでしかない。また、周囲のサポートも薄いので一日中囲碁をやりたくてもできない。

これは囲碁の認知度が低いところから来ていると著者は言います。たしかに、囲碁のプロ棋士の名前を一人でも言える人は日本では少ないですね。例えば、現在の本因坊は誰?と尋ねられて答えられる人はどのくらいいるでしょうか。そう考えると、追い越されるべくして追い越されたと言えるのかもしれませんね。

さて、将棋界は囲碁界のお隣としてほぼ同じような位置にいます。幸いにというか不幸にもというか、将棋が遊ばれているのは国内だけのため、その地位が外国に脅かされることはあと数十年はなさそうですが、囲碁界の危機から将棋界が学ぶことは多くあるでしょう。この本では「将棋界との比較」という節があるので、そこを見てみます。

著者は、囲碁界は将棋界と比較してある意味では公平であると言います。囲碁界では全ての棋士が横一線でスタートして、勝てば次の対局があり手合料が入る、負ければ入らないというようにわかりやすい仕組みになっています。それに対し将棋界では、順位戦の制度が形骸化していて矛盾点だらけになっていると言います。(順位戦制度について詳しくは11月6日の文章をご覧下さい。)この「古参に厚く、新人に厳しい」制度は現在の将棋界の特徴です。

将棋界は囲碁界と似た仕組みを持っていますが、金額としての規模は囲碁界に劣ります。そのため、将棋界では迎え入れる新人の数を厳しく制限し、新人が稼げる賞金額がすぐには増えないようにして、現在いる棋士の収入が簡単には減らないように工夫してきました。10月31日の表によると、囲碁界と将棋界の収入を比較すると12位以降では将棋界が上回っています。これは将棋界の方が中位棋士への賞金を分配する割合が高いことを示しており、実力の差ほどは賞金の差が付いていないと言えます。著者の言葉を借りれば「優勝劣敗の法則が働いていない」と言えるでしょう。

囲碁界では韓国・中国という目に見える敵によって問題点があぶり出されました。そのような外敵を持たない将棋界では、誰が問題点を指摘し改善するのか。難しいですが、ずるずると引き延ばすのは誰の得にもなりません。ある意味、現在の日本が抱えている課題とも共通する部分があります。