プロ棋士の存在意義とは
(この文章は未定稿です。近い将来、大幅に書き直される可能性があります。)
普段は意識されることが少ない観点ですが、非常に重要な問題提起だと思います。現実には、プロ棋士*1になるためには奨励会三段リーグを勝ち抜かなければならない。そこで求められるのは純粋な「強さ」です。しかし、いざプロ棋士になると強ければ良いというわけではないと言われる。ここに将棋界の抱えるジレンマがあります。
現状を知るには、まず他のプロ競技と比較して将棋界がどのような状況におかれているのか、共通点・相違点を認識することが有効だと考えています。そこで、他の競技のプロ組織がどのように構成されているかを少しだけ調べてみました。(なお、比較対象は個人競技に限定します)
主要なプロ競技では、統括する組織が1つ存在します*2。ゴルフなら日本プロゴルフ協会、テニスなら日本テニス協会、相撲なら日本相撲協会といった具合です。これらの組織は文部科学省の所管する公益法人(社団法人もしくは財団法人)として活動しています。
公益法人とは民法34条*3に基づいて設立された法人であって、営利を目的とせずに公益に関する事業を行う団体です。その活動は、社団法人であれば「定款」、財団法人であれば「寄附行為」に内容が規定されています。
プロ競技がどのように公益につながるかぴんと来ない方もいらっしゃると思います。だいたいの場合は似た目的が出来上がっており、例えばテニスの場合は次のような目的となっています*4。ここでも「普及」は一つのキーワードです。
この法人はわが国におけるテニス界を統轄し、代表する団体として、テニス競技の普及、振興を図り、もって国民の心身の健全な発達に寄与することを目的とする。
そしてそれに続く項目で、この目的のために行う事業が記されています。このように、プロ競技というのは公益のために行われる事業だったわけです。
この法人は前条の目的を達成するために次の事業を行う。
- テニスの普及及び指導
- 全日本テニス選手権大会及びその他のテニス競技会の開催並びに国内で開催されるテニス競技会の後援、公認。
- テニスに関する国際競技会を開催し、又は国際競技会への代表者の選考及び派遣並びに外国からの選手等の招聘
- (後略)
さて、ここまでプロ競技の成り立ちを見てきましたが、「強さ」という話は全く出てきませんでした。テニスにしてもゴルフにしても強いプレイヤーは優遇されますが、これは「強い方が普及につながる」というやや遠回りな理屈に基づかなければ、建前上は説明できないのです。
このあたりの事情は将棋界にもそのままあてはまります。日本将棋連盟は社団法人で、その目的は「将棋道の普及・発展を図り。併せて国際親善の一翼を担い、人類文化の向上に寄与すること
」です。定款がウェブ上で公開されていないので断言はできませんが、名人戦も竜王戦もこの目的を達成する事業の一環として行われているわけですね*5。このことは『将棋ガイドブック』に掲載されている対局規定からもわかります。
第1章 目的
本規定は、社団法人日本将棋連盟に所属する棋士の公式棋戦における対局行為に関するものである。将棋道の普及と愛棋家の模範たるをもってこの目的とする。
第2章 総則 第1条 棋士の公務
公式棋戦の対局が、現役棋士の第一の公務であり、定められた公式棋戦にはすべて出場しなければならない。
現役棋士の仕事はまず対局であり、プロ棋士はそのために活動しているのだというわけです。支部・教室棋士派遣キャンペーンみたいな活動は非常に良いことだと思うのですけれども、それは第二第三です。
これについても、他の競技と事情はほぼ同じです。しかし、一つ大きな違いがあります。テニスやゴルフなどでは、プロ選手は「登録」とか「公認」という形で大会に参加する資格を認められるだけなのに対して、将棋ではプロ棋士が社団法人の社員として直接関わることです。
普通の競技であれば、選手はプレーすることが唯一の仕事です。もちろんファンサービスは行いますが、それは何らかの規約に基づいて行うものではなく、義務ではありません。しかし、将棋のプロ棋士は普及を行うことを第一に考えなければなりません。日本将棋連盟の社員は現役棋士と引退棋士だけなのですから、対局だけやっていればいいなどと思うと、ほかの普及活動を行う人がいなくなる可能性があるわけです。現役棋士の第一が対局であるとしても、それ以外のことを疎かにしてはなりません。公益法人の一員として活動する者は自らの利益を優先して行動してはいけないのです。
中途半端ですが、長くなったのでとりあえずこの辺で。