対局のネット中継

駒音掲示板のNo.3035から始まる書き込みで、王将戦七番勝負の有料棋譜中継についての意見が書かれています。気持ちはわかるけど少し違うのではないか……と思いながら読んでいたのですが、No.3056からのかたつむりさんとかわさきのご意見には膝を打ちました。「有料サイトに僕がカネを払うのは、棋譜のために払うのではありません。」という文から始まる部分です。ここだけ抜き出すと誤解されそうなので、きちんと全体を読んでいただきたいと思います。考えている人はちゃんと考えているんだなあと感じました。

新聞社に棋譜を掲載してもらうかわりにお金をもらうというのが、現在の将棋界の主だった収益モデルです。しかし、新聞というメディアがまだ黎明期だったころならいざ知らず、現在では新聞全体で見て囲碁将棋欄の重みはかなり小さなものになっています。なくなったとしても気付かない人も多いことでしょう。そう考えると、新聞社の経営が苦しくなったときに日本将棋連盟との契約が打ちきられるリスクを、長期的には考慮する必要があると思われます。現在は再販制度があるために、新聞社の経営は他業界に比べて安定したものとなっていますが、将来的に新聞というメディアの姿がどうなるかはいまだ不透明ですから。

新聞社に依存する態勢を改めるために、インターネットを用いた中継を活用するのは大いに考えられる手段です。他の業界に目を向けると、今年からプロ野球に参入する楽天はネット中継を大規模に行うことを表明しています。しかし、他の球団の経験によると現状での収益性は厳しいとも言われ、先行きは不透明のようです。

両社によると、ネット放送による参入初年度の収入は、ライブドア1億円、楽天5200万円。ライブドアは本社からの広告収入で初年度のネット中継を無料化し、翌年から一試合当たりの視聴料を一人300円に設定する。楽天は最低でも2万人の視聴者獲得を目指す。

これに対し、球界で最も早い1996年にネット中継を試行した横浜は、採算が合わず2003年に休止した。営業部の担当者は「利用者は期待した10分の1にも満たなかった。制作面での設備投資もかさみ、大損だった」と振り返り、「ネット中継は絶対にペイできない」と言い切った。

また、サッカーのJリーグでは、昨年12月4日に公式戦初のネット中継が無料で行われましたが、殺到したアクセスをさばききれず多くの人が見られない事態が発生しました。

同カードでJリーグ初のインターネット中継を実施しましたが、アクセスが集中し、接続しづらい状況となったことをお詫びします。

このように、インターネット中継では多くの資金を注ぎ込んで充実した設備を整えなければ、採算をとれるほどの視聴者を集められないという現実があります。機材などの価格が下がるにはまだ時間が必要なようです。

しかし、将棋に関してはこのような制約は緩いと言えます。棋譜は基本的に文字情報だけで伝えることが可能であり、また対局室の模様を中継したとしてもずっと眺めている人は少ないでしょう。つまり、より少ない設備投資で中継を行えるわけです。ですから、対局のネット中継を推し進めるなら今のうちがチャンスだということになります。近い将来、インターネット上で動画がやりとりされるのが普通になってからでは、そのような優位性は生かすことができなくなるでしょう。

一般的にいって新聞社はあまり商売がうまくありません。将棋の棋譜には、もっと多くのものを生み出せるだけの価値があると私は思っています。