将棋のプロとは

瀬川晶司氏が特例によるプロ入りを希望した問題は、将棋界に詳しくない方から見ると一体何が問題になっているのかわかりにくいと思います。そこで、将棋界の人にとっては言わずもがなのことも含めて、かいつまんだ説明を書いてみます。
将棋のプロ棋士になるには、原則として1つの道を進むしかありません。それは、奨励会*1に入会し、三段まで昇段し、三段リーグで2位以内に入ることです。三段リーグは半年に一度のペースで行われるので、1年で4名のプロ棋士が誕生することになります。新人プロが年間4名しか誕生しないというのは、基本的に少数精鋭主義を取っていると言えるでしょう。
奨励会三段ともなるとその実力は相当なもので、弱いプロより強いと言われる三段は珍しくありません。実際、奨励会員が参加できる唯一の公式棋戦の新人王戦では三段がプロに勝つ対局がしばしば見られます。1992年度には石飛英二三段が決勝戦まで進出して話題になったことがあるほどです*2。そのような強者が集まった三段リーグを勝ち抜くことは、プロになるために十分な実力を秘めている若者にとってさえ容易ではありません。しかも、奨励会には年齢制限があり、どんなにがんばっても29歳までにプロ入りを果たせなければ、奨励会を退会しプロへの道をあきらめなくてはなりません。その様子は、「将棋の子」を読んだ方ならよくおわかりと思います。 とはいえ、アマチュアであってもプロ棋戦に参加できないわけではありません。朝日オープン選手権竜王戦をはじめ、多くの棋戦でアマチュアの参加が認められています。その多くは同じ主催社が開催するアマ棋戦を勝ち抜いた人へのごほうびとして、トーナメント表の末席に参加させてもらえるという形を取っています。
ところが、実際にアマプロ戦が行われてみると、近年ではプロに勝つアマが珍しくないことがわかってきました。2002年6月に朝日オープン選手権1回戦のアマプロ戦が10局行われた際に、結果がアマの7勝3敗だったことは多くのファンに衝撃を与えました。
さて、奨励会三段リーグを勝ち抜くのが通常のプロへの道ですが、「特例」でプロ入りが認められるという道も極めて例外的な手段として残されているようです。お隣の囲碁界では、医師の国家資格を持つ坂井秀至氏が2001年に五段でプロ入りを認められた例があります*3。このような形で、瀬川氏がプロ入りすることができないだろうかというのが「盤上のトリビア」の問題提起でした。
この問題は、プロとは何かという根元的な疑問を改めて問いかけているのだろうと私は考えています。将棋ファンは、「強い」将棋を見たいのであって、「三段リーグを勝ち抜いた」将棋を見たいのではないということを指摘しておきます。