バトン
6月28日にいただいたバトンに関していろいろ書いていたのですが、今ひとつぴったりくるように書けませんでした。そこで音楽について書くのはやめにします。せっかくいただいたのにすみません。
かわりになりませんが、将棋の本に関してなら違和感ないので長めに書いてみます。
所有している将棋本の冊数(雑誌除く)
どのくらいだろう。私の本棚で318冊分入力してあったのが、2年以上前の時点。400冊は超えていそうですが、500冊には達していないと思います。
最後に買った将棋本
渡辺明竜王の率直な筆致と浅川書房の編集方針がうまく噛み合っていると思います。実際のアマの対局ではこの通りになることは少ないわけですが、1冊にまとめるという制約の中で実戦で使える本に仕上がっています。
よく読む、または思い入れのある5冊
azuman氏の『将棋書籍ベスト』と似た嗜好になっていますが、良い本は良いので仕方ありません。
- 『山田道美将棋著作集』(全8巻、大修館書店、1980-81)
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故山田道美九段の著作をまとめた全集。36歳の若さで急逝しなければ、現在の将棋界は少し違うものになっていたのではないかという気がします。執筆期間が短かったことがこのような著作集の刊行を可能にしたと考えるのが唯一の慰めと言えましょうか。
山田道美九段は四間飛車対居飛車急戦の「山田定跡」に名を残していますが、当時新しかったのは共同研究というやり方を導入したことでしょう。1〜3巻目の「近代戦法の実戦研究」ではその成果を隠さずに書いています。もちろん定跡としてはすでに古いものとなっていますけれども、考え方の軌跡は現在でも通用するものではないでしょうか。近年、自分の研究を隠さずに手際よくまとめられた定跡書が多数刊行され好評を博していますが、これはそのはしりだったという見方ができるでしょう。
このシリーズの中でも異色なのが第7巻の「日記」でしょう。山田九段が15歳から26歳の時期に当たる、1948年から59年までの日記が収められています。将棋界だけでなく日本全体が困窮する時代にあって、自己を見つめ、行く先を模索する。その精神性は山田九段独自のものでもあり、普遍的なものでもあるように思われます。決して読ませる文ではないにもかかわらず、感動的ですらあります。
この全集はすでに絶版なので古書で入手するしかありません。とはいえ、古書としては比較的手に入りやすい方ではないかと思います。定価は全部でおよそ15,000円ですが、古本の全巻セットの価格ではそんなにしないはずですので、購入されるならセット買いをおすすめします。ばらで買おうとすると後半の巻を入手するのに苦労するかもしれません。
- 『極光II』(上田吉一、2003年)
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上田吉一氏のフェアリー作品集。Paradise Booksによれば、残り少ないようです。上田氏の『極光21』など、詰将棋関係で入れたい本はたくさんあるのですが今回はこれだけにしておきます。
詰将棋には江戸時代から続く400年以上の歴史があります。この作品集はその伝統的な枠を超えて新たな一歩を踏み出した歴史的な一冊です。それ以上書くと長くなりそうなのでこの辺で。
- 『読みの技法』(河出書房新社、1999年)
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タイトルの多くを独占する羽生善治四冠・森内俊之名人・佐藤康光棋聖の3名が、指定された局面で読み筋を披露し、それを島朗八段がまとめるという夢のような本。そこまで読むものかという驚き。そういう風に考えるものかという驚き。意外に読みが食い違うものだなという驚き。多様な驚きがありました。
私のレベルでは一緒に読んで自分の考えと比較するということはできませんでしたが、目を通しているだけでも十分に面白い内容でした。同様の企画を望む声も多く聞かれていましたが、この組み合わせだから成立した企画だったのだと思います。
- 『現代矢倉の思想』(河出書房新社、1999年)
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森下卓九段の定跡書。あえて「思想」という言葉を使ったところに、変化を羅列しただけの定跡書ではないというこだわりが見えます。
何となく指してしまいがちな矢倉の駒組み手順にどのような意味が込められているかを解説した部分は、「思想」という言葉にふさわしい内容になっています。違う手には違う意味がある。当然のことですが、それを伝えられる本は多くありません。定跡手順としての鮮度が失われても、矢倉を指す私にとってのバイブルと言える一冊です。
- 『消えた戦法の謎』(毎日コミュニケーションズ、1995年・2003年)
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定跡通として有名な勝又清和五段の著書。原著が出版されたのは1995年ですが、上のISBNは2003年にMYCOM将棋文庫として復刊されたときのものです。(現在は再び絶版。)
この本のすごいところは、取材をしている点にあると思います。普通の定跡書は、著者の研究と棋譜検索との組み合わせで作られています。最近は研究会で知られるようになった手順や、知り合いの棋士に聞いた結果なども含まれるようになりましたが、この本のように取材をメインに据えて本にしたのは非常に珍しいと言えます。
勝又五段は『新手年鑑Vol.2』や将棋世界付録の「新手ポカ妙手選」など似た方向性で多くのものを書いており、今後の執筆活動に期待する棋士の一人です。