女流棋界の抱える問題

今月の将棋世界2006年1月号は読むところが多かったですが、最近の注目の一つは渡辺明竜王がホスト役になってゲストと話す「話題の将棋、本音で語ろう!」でしょう。今回のゲストは千葉涼子女流王将矢内理絵子女流四段、石橋幸緒女流四段の3人。清水市代女流三冠と中井広恵女流六段の二強を追いかける存在ですが、対戦成績では全員が負け越しで壁が厚いという状況。今期は千葉女流王将女流王将位獲得、矢内女流四段は倉敷藤花獲得がならなかったものの女流名人位挑戦権獲得、石橋女流四段は鹿島杯とレディースオープンで優勝と、それぞれが実績を残しているだけに今後の活躍が期待されます。

話題はどうやって二強に追いつき追い越すかという部分が中心になっているのですが、個人的に関心があるのが最後に1ページに書かれた女流棋士の待遇問題。これに関していつも思うのが、現状がどうなっているのかわからなければ議論にならないということです。例えば、囲碁のタイトルの賞金額は下記ページで公開されていますが、これと比べてどうなのか。

話はそれますが、以前女流棋士の降級点制度が公表されていないという話がありました。

某所でそれらしきものが書き込まれていたりしてますが、それはそれとして現にある制度を公表しないというのはほめられたことではありません。そんな中で少しでも情報を表に出そうという努力はこれからも継続してほしいと思います。

しかし、ここ数年、女流棋戦の契約金はほぼ横ばい。単純に人数で割ると、ひとりあたりの年間対局料は遠く100万円に届きません。加えて深刻なのは、新女流に地方在住者が続いているため旅費交通費が増加しつづけ、そのしわ寄せが対局料や優勝賞金に及んでいる点です。地方への将棋普及という面では歓迎すべきことですが、独立採算制で運営されている女流棋戦にとっては非常に深刻な事態なのです。

私は女流棋戦が独立採算で運営されていることも知りませんでした。囲碁女流棋士は全参加棋戦に出場し、それに加えて女流棋戦に参加できます。つまり、女流棋戦というプラスアルファの分だけ、同じ実力の男性棋士よりも大きな収入を得られる構造になっています。ところが、将棋の女流棋士は原則として女流棋戦にしか参加できませんから、プラスアルファだけしかもらえないということになっているわけですね。

女流棋士が自らの立場を改善したいと考えるとき、瀬川氏のプロ入りのときにあったようなファンの声の後押しが不可欠になると思います。しかし、現状がどうなっているかわからなければどうしたらいいのかを考えることすらできません。そうならないためには、いいところも悪いところもさらけ出す覚悟が求められるでしょう。

将棋世界の記事に戻ると、女流棋士の待遇と、女流棋士日本将棋連盟の正会員にするべきかどうかが話題となっています。前者については千葉女流王将は現状に肯定的、矢内女流四段と石橋女流四段はトップの女流棋士の待遇を良くしないと夢がなくなるということのようです。一方、後者については次のようにはっきりと具体的な要望を述べています。

――女流棋士も正会員にするべきという意見についてはどう思われますか。

千葉 棋士総会や棋士会、理事会の傍聴権がほしいです。正会員なんて、ぜいたくはいいません。

矢内 私もそう思います。女流棋士の制度や規定の変更にしても、私たちの何も知らないところで決まるんです。経緯などの説明を聞くこともできない。

石橋 年に1回の女流棋士総会でもいろいろ提案することがあるんです。でも結局、最後に物事を決めるのは理事会や棋士総会で、私たちはその経過を聞くこともできない。それが本当に話し合われているかどうかすら分からないんです。

女流棋士の引退制度とか降級点制度とか、何の前触れもなく、突然天から降ってくる。少なくとも女流棋士の制度や規定に関する話し合いは女流棋士にも聞かせてほしい。それが一番の希望です。

ここで2つに議論を分けました。待遇と権利です。これらはごっちゃにされることが多いように思うのですが、女流棋士の収入がどうかという話と、女流棋士の決定権をどうするかという話は別々に議論すべきだと考えます。

収入については、女流棋戦が独立採算だということからすると、ある程度は現状で仕方ないのかなと思います。独立採算ということは、新しいスポンサーを見つけてくればそのまま女流棋士の利益になるということだと思います(推測で書いているので違うかもしれませんが)。だとすれば、これから女流棋士は新しい収入源を見つけるべく努力しましょうということになります。女流棋士の収入が低いということは、逆に言えばスポンサーにとって値頃感があるということ。将棋の棋戦を作りたいと思う人がいるとすると、女流棋戦を作った方がコストパフォーマンスが良さそうですよというところを認識してもらいたいですね。あとは、対局以外の収入源を作っていく努力が必要ですが、それは女流棋士に限ったことではありませんので別の機会に書きたいと思います。

女流棋士の権利については、上で引用したコメントの通り、というよりももっと主張しても問題ないと思います。こういう話でよく出てくるのが弱いからだめだという意見なのですが、男性棋士でも強さにかかわらず1人1票なわけです。引退しても投票権はなくなりません。そう考えれば、女流棋士が男性棋士に比べて弱いからといって棋士総会に参加できない理由にはなりません。

それでは日本将棋連盟の会員になるための条件とは何かというと、それは日本将棋連盟の活動目的に添ったことをしているかどうかです。つまり将棋の普及です。その点についていえば、女流棋士はかなりがんばっていると評価できるではないでしょうか。個々の活動を見てもそうですし、棋士派遣のご案内での金額の比較を見ても女流棋士の貢献が男性棋士に著しく劣るとは思えません。女流棋士棋士総会に参加できないのはそうなっているからという以上の理由を思いつかないというのが私の感想です。

少なくとも、女流棋戦に関することは自分たちで決められるような仕組みにする必要があると思います。独立採算という現状との整合性からも、女流棋士に決定権がない制度は不自然に感じます。わからないこともいろいろあるのですが、全体として活動しやすい方向に向かえばいいなと思いました。