記録係一部廃止の提案

自分の将棋に限らず、女流棋士棋譜はあまりにもファンの方々に見ていただく機会がないので、何とか女流棋士会HPで取り上げられないかとずっと考えていました。去年から各棋戦担当者に、ネット中継や棋譜・図面の掲載などについて意向を確認してきましたが、タイトル戦以外は自由に使って盛り上げてください、と大変好意的な回答をくださった主催社も複数ありました。

これを受けて、対局中継や棋譜掲載について具体的に企画しようと考えていた矢先、連盟から「(経費負担が増す中で)対処的な見直しの具体案として、観戦記のつかない対局は記録係をつけず、棋譜は勝者が提出する」という提案があったそうです。

確かに以前書いたとおり、遠方者の増加により女流棋戦の運営費は年々厳しい状態になっています。しかし、棋譜は将棋指しにとってかけがえのない財産です。長手数の持将棋や複雑な組み合わせの千日手など、局後に正確に書ける自信がわたしはないですし、遅刻や反則の裁定も今よりもむずかしくなります。経費節減のためとはいえ、払う犠牲が大きすぎるのではないでしょうか。

現状ではうまく活用できていないだけで「女流棋士棋譜を見たい」というニーズは必ずあると思いますので、何とか前向きに発展させる方向で制度が変わっていくように、できるだけのことをしていきたいと思います。

棋譜掲載などを拡大するのはもちろん歓迎ですが、問題は後段の話ですね。棋譜を対局後にとるのだとしたら、中には並ばなくなる将棋も出てくるはずで、一部の対局の棋譜が残らないとしたら犠牲が大きいというのはうなずけます。

記録係を付けないという提案は、チェスの対局では記録係が通常付かないことを念頭に置いているのかなと思いました。チェスでは、対局者が対局中に棋譜をとることになっています。例えば、日本チェス規約(PDFファイル)の8.1には次のような記述があります。

ゲームの進行中に各対戦者は、規定された記録用紙に自分と相手の着手の記録を、一手一手の着手毎に座標式表記法を使って正しく明瞭に書き残さなければならない。

チェスでできるのなら将棋でもできるはずというのは説得力があります。特にプロの将棋対局では切れ負けはほとんどありませんから、手を記録している間に時間切れになることはなさそうです。しかし、導入のためにはいくつかの前提が必要です。

一つにはルールの整備が挙げられます。棋譜のとり方を対局者が棋譜を書き間違えたらどうするのかなど、きちんと決めておくべきことはいろいろあります。他にも、記録係の口が少なくなると奨励会員などの収入が少なくなったり、記録の場で学べる機会が減るという弊害があるのではないかと考えられます。奨励会員などへのサポートをこれまで以上に充実させていくことはそうでなくても必要でしょうけれども、そのようなことがあればより一層の対策が求められます。

経費を減らしていくことは基本的に避けられないことなので、そのような提案も妥当性があると思うのですが、準備なしに導入されると副作用も大きそうだと感じました。