名人戦契約問題についていろいろ(18)
日本将棋連盟からも公式見解が公表されました。新聞社の記事などと合わせてリンクします。
- 名人戦についての新提案(日本将棋連盟)
- 名人戦問題:将棋連盟、毎朝共催を提案 通知書取り消さず(毎日新聞)
- 将棋:名人戦移管問題 連盟が朝日と共催を提案 通知書は取り消さず(同上)(上と同じ記事です)
- 将棋連盟会長、名人戦共催を提案 毎日新聞社と本社に(朝日新聞)
- 名人戦で将棋連盟「毎日と朝日の共催を」(産経新聞)
- 将棋名人戦、連盟理事会が毎日・朝日に共催案提示(読売新聞)
- ファンのために努力 名人戦の共催案で米長会長(共同通信)
- 毎日と朝日の共催提案・名人戦で将棋連盟(NIKKEI NET 将棋王国)
- 名人戦、共催提案を受け毎日・朝日が談話(同上)
- 毎日と朝日共催を提案 名人戦で将棋連盟(西日本新聞)
- 渡辺明ブログ:王座戦本戦1回戦対野月七段戦。
- 渡辺明ブログ:共催案提案。
- ナルゴンの英会話サロン経営日記:何ともいえぬ、脱力感。
- 大平の挑戦!: 補足
- ある棋士の日常 - 共催の提案についての心配
- ちゅう太のつぶやき お詫び
5月10日付で公表されたのは次のような内容です。これまでの2回は連盟理事会名義だったのですが、今回は広報部名義となっています。
弊社団は、5月9日付けで、毎日新聞社・朝日新聞社両社に対し新提案を提出させていただきました。内容は下記のとおりです。
- 名人戦は両社共催にする。
- 両社は、報道・観戦記等で競い合う。
- 契約期間5年間(第66期から第70期)。
「競い合う」というのが具体的にどういうことなのかわからないのですが、いくつか可能性が考えられます。
- 1つの対局を別々の観戦記として掲載する。
- 棋戦全体を2つに分けて、毎日と朝日が別々の対局の観戦記を掲載する。
- 1つの対局につき1つの観戦記を作り、同じ観戦記を両紙に掲載する。
どれなんでしょうね。それも含めてこれから決めるということかもしれませんけども。もし1つ目だとすると、何のために別々の棋戦が存在するのかわからなくなる気がします。この提案は「名人戦を一人でも多くの将棋ファンに楽しんでいただくため」
だそうですが、その論理をおし進めると他の棋戦も名人戦に統合しようということになりそうに思います。2つ目だと、どの対局をどちらが掲載するかでもめそうな気がします。サッカーのワールドカップでどこの放送局が日本戦を放送するかみたいなものでしょうか。3つ目は地方紙が主催となる王位戦や棋王戦ではすでにある形ですが、朝日新聞の記事では「観戦記などは両社で独自に掲載する
」と書かれているので違うようです。
さて、この文書によると「内容は下記のとおりです」となっていますが、新聞社の報道では上に書かれていないこともいくつか書かれています。まず「両社の関係は対等
」。これまでは毎日が主催してきたからとか、会社の規模は朝日が大きいからといった事情は全く考慮しないとあらかじめ宣言しているようですね。
2つ目は、契約金額について。読売新聞の記事によると「契約金については現行の名人戦(年間3億3400万円)と朝日オープン将棋選手権(同1億3480万円、推定)を足した額を上回る方向で提案した
」だそうです。朝日新聞にも同様の記述があります。対等である以上は契約金を両社で折半することになるのでしょう。毎日新聞社の拠出額は減額となるわけですが、合計では上回りたいということですね。そうでないと日本将棋連盟に利益がありません。ただ、毎日と朝日に利益があるかどうかはわかりません。それから、朝日が提案していた普及協力金や臨時棋戦はどうなるのでしょうね。
3つ目は、提案期限について。日本将棋連盟は両社に対して15日までの回答を求めているそうです。さわやか日記5月10日(水)17時51分43秒付によると、米長永世棋聖が両社に提案したのが9日午前なので、検討期間は土日を含めて7日弱ということになります。期限を切ることについて理解を得ているのならいいのですが。
この提案に対して、毎日と朝日はそれぞれ次のようなコメントを出しています。
毎日新聞社社長室広報担当の話 当社は当初より、第66期以降の名人戦について日本将棋連盟が一方的に契約解消を通告してきた3月28日付の通知書の取り消しを求めております。また、通知書が撤回されたならば、同連盟と誠実に話し合う用意があると繰り返し述べてきております。
〈朝日新聞社広報部の話〉 弊社は日本将棋連盟と毎日新聞社との交渉を第一と考え、推移を見守ってきました。名人戦は長年要望してきた棋戦であり、単独の主催を念頭に置いてきました。この考えに変わりはありませんが、米長会長の新たな提案については、真摯(しんし)に検討したいと考えています。
毎日新聞社は最初の段階で「『毎日の名人戦』守ります
」と宣言しています。「毎日・朝日の名人戦」では示しが付かないと考えるのではないでしょうか。百歩譲ってそれが可能だったとしても、提案に回答したら「交渉」していることになってしまうので、最初の通知書が撤回されていない以上は回答できないことになります。そういう点では、回答期限を切られても意味がないということになるのかもしれません。毎日新聞社はこれまで自ら退路を断ちまくってきているので、妥協の余地はほとんど残されていないように見えます。
他方、朝日新聞社は「検討したい」ということで含みを残しています。とはいっても、毎日が提案を受け入れないことは容易に予測できますので、「名人戦を主催するなら単独でないと」か「共催は自分はOKだけど相手が拒否するのでだめでした」かの二者択一ということになります。どちらにしてもあまり実のない選択肢に思えますが。ただ、言下に拒否されなかったということは、事前にある程度話が通っていた可能性はありそうです。あまりにもぐだぐだな展開になると棋士総会がどうのという前に朝日新聞社が自分の判断で降りてしまうのではないかと思っていましたが、記事からはまだ色気があるように感じられました。
それから、文藝春秋6月号に掲載された大崎善生氏のコラム「棋士済々」で「どうなる名人戦問題」と題して米長邦雄永世棋聖が取り上げられています。米長永世棋聖のホームページについてちらっと言及はありましたが、名人戦契約問題についていろいろ(10)で触れた批判記事については何も書かれていませんでした。