将棋世界7月号 「新・対局日誌」が最終回に

6月3日に将棋世界7月号が発売になりました。将棋世界を今年1冊だけ買うなら今月かなと思います。

まず、今月のトップ記事として山岸浩史氏による「徹底解剖!佐藤新手の謎」がカラー欄に掲載されています。昨年度のタイトル戦で相次いで実現した佐藤-羽生の対戦で採用された新手について、佐藤康光棋聖の考え方に深く切り込んでいます。奇策とか悪形に見られがちな手順も、佐藤棋聖の中できちんとしたステップを踏んで生まれてきた作戦であることがよくわかります。従来の手順を踏襲しながら微修正を繰り返して定跡を構築する手法が中心となっているように見える中で、次々と独創的な構想を生み出す佐藤将棋のファンは、この記事によってさらに増加するのではないでしょうか。非常に良い記事だったと思います。それから、名人戦第2・3局を扱った「テーマの質」もいい記事です。

次に、今月はいくつもの連載が終了し区切りの号になりました。中でも河口俊彦七段の「新・対局日誌」は将棋史に残る連載でした。1977年に当時の「将棋マガジン」で始まった「対局日誌」は、それまでなかなか書かれなかった対局室・控え室の雰囲気を活写し、独特の切り口で棋士の感性を伝えるものでした。現在は時代も変わり河口七段も年をとったということでそろそろ潮時だったのかなとは思いますが、これまでの活躍を思えば最終回という事実がごく小さくしか扱われていないのを寂しく感じるのは私だけではないはずです。今後同様の企画が出たとしても「対局日誌」は河口七段のものであり、これで一つの歴史が終わったのだと感じます。

今月の「新・対局日誌」はスペースも普段通りで、文章もそれほど変わるところはなく淡々と終了したという印象です。最後に河口七段が指摘するのは、若い四段の淡泊さ、覇気のなさ、それはすなわち実力のなさだということです。これが正しい指摘なのかそれとも別の何かがあるのかは私にはわかりませんが、最近の若手の成績が伸びていないのは事実であり、問題があるとすればそれは奨励会にあるのだろうと思います。

さらに、終了となった連載は、渡辺明竜王の「話題の将棋、本音で語ろう!」。これはそれほど続くものでもないでしょうから予定通りでしょうか。ゲストは山崎隆之六段、阿久津主税五段。この3名が羽生世代に続いていくという意気込みで、表題は「21世紀はオレたちの時代だ」となっています。ただ、中身を読んでみると、渡辺竜王はタイトルを取ったという実績があるので少し違いますが、ほかはむしろ弱音の方が多い印象です。勝ちたい、けど相手も強いというだけで、そこから先へ行くための方法論を他人に説明できるところまで確立できていないように思います。結局、進むためにはもがくしかないのかもしれませんが。

それから、「タカミチの実戦コーナー」が終了したのも特筆すべきですね。ちょうど600の棋譜を紹介したという区切りがついたということかもしれません。この連載は各回4つずつの棋譜を簡潔なコメント付きで紹介するコーナーで、そのときそのときで時流を捉えた棋譜のチョイスが秀逸な連載でした。棋譜を眺めるだけではあまり意味がなく、役立てるためにはきちんと盤に並べる必要があるという点で読む人を選びましたが、少ないページ数で勉強になる誌面の上での効率性はばかにできないものがありました。比較的負担の少ない連載だと思いますので、もっと続いても良かったと思います。

こんな風に長期連載が終了すると、長期購読していた人が読むのを辞める契機になり得ます。それをくい止めるのは替わりに登場する新連載ということになります。次号予告によると、新連載は「伊緒の振り飛車レッスン」。室田伊緒女流1級が師匠の杉本昌隆七段に教わる講座のようです。杉本七段の定跡本は良書が多いので講座の内容には期待が持てそうですが、長期連載にとってかわるにはまだ不足かなという気がします。渡辺明ブログ:佐藤棋聖が先勝。によれば、「「対局日誌」は筆者が代わって再スタートと聞いています」とのことです。このあたりをもっとアピールした方が良かったのではないでしょうか。

そして、先月まで矢内理絵子女流名人が担当していた「将棋カウンセリング」のコーナーがなくなったようです。かわりに新連載として、瀬川晶司四段の「連盟の瀬川さん」が始まりました。新連載宣伝 瀬川晶司のシャララ日記によると「生協の白石さん」を参考にした企画だそうです。読んだ感想としては、まだ方向性が定まっていないのかなと思いました。「白石さん」は生協という組織への質問・要望を取り次ぐ役割ですが、「連盟の瀬川さん」は瀬川四段個人への質問になっている点が大きく違います。本当に真似るなら、質問の段階でうまくボケないと返しが面白くならないので、今回の質問のように今ひとつ普通の範疇に入ってしまうと普通のQ&Aになるような気がします。そういうコーナーでも別に構わないといえばそうですけども。

こうしていろいろな連載が終わったのを見ると、現在の将棋世界を支えるのは「勝又教授の『これならわかる!最新戦法講義』」ということになるでしょう。私はこの連載を読むために毎月買っていますが、この連載が終わったらまた買わなくなるかもしれません。これだけ高いレベルの連載はなかなか読めるものではありませんので、もしまとまって単行本が出るなら必ず購入する予定です。

最後になりましたが、来月付録の「片山倫生短編詰将棋集」は楽しみです。超短編詰将棋の第一人者による「究極の3手5手」は、詰将棋に不慣れな方でも楽しめるはずです。

ただ、将棋世界を見ていて心配なのは、いまだに誰に売ろうとしているのかが見えてこない部分にあります。方針がどうなっているのか、将来的にどういう方向に進めていこうとしているのか、将棋世界をどんな人が読んでいるのか。個々のがんばりとは別に、全体的なビジョンがあるといいのですけども。