羽生善治三冠が「Web2.0特集」で週刊東洋経済に登場

6月19日発売の週刊東洋経済6月24日号の「35歳以上のための『Web2.0』」特集で、羽生善治三冠(35歳)が取り上げられました。表紙にも顔が出ており、「将棋の世界もウェブで激変しました」というコメントとともに掲載されています。

この特集は下記ページでもご覧になれます。紙面に掲載された記事は、ウェブ上で見られる記事を短縮し編集したものとなっています。

内容についての感想は後編が出てからにします。

なぜ羽生三冠が起用されたかというと、この特集の筆頭にきた梅田望夫氏との関係があったからでしょう。このページでも何度か紹介したとおり、梅田氏と羽生三冠は親交があり、ベストセラーとなった梅田氏の著書の『ウェブ進化論』(ちくま新書)の帯に羽生三冠は推薦文を書いています。この本を読まずに「Web2.0」を語れない。そういう位置づけの本だからこその起用ということです。

ウェブ進化論』は私も読んだのですが、中身が濃いのでもう少し丹念に読みたいと思いながら日がたっている状況です。とにかく読んでみて下さいとしか現在は言えません。

Web2.0は最近のインターネットを巡る発展を表す単語として定着した感があります。このことばの含むものは何か、もしくはどのような意義があるのかについては議論の絶えないところで、私の見るところでは今回の週刊東洋経済の特集にもあまり適切でないものが含まれているような気もしますけれども、ある一定の方向性を示す概念であることは間違いありません。このような最先端のシーンに登場する将棋の棋士がいるという事実を、1人の将棋ファンとしてかみしめたいものです。

実際、羽生三冠の影響力は将棋界の枠から完全にはみ出しています。最近では、5月19日に紹介した羽生善治三冠と松原仁教授の対談の話もそうでした。

今回の記事に関しても、普段将棋に関心のない多数の人が触発されて記事を書いたりしています。その中で比較的将棋に関する記事の多いアンカテ(Uncategorizable Blog)*1の次の記事について書きます。(参考:猫蛙と編集犬のワンワンワールド - 羽生とか将棋とか

はじめに断っておくと、essaさんは普通の人よりも将棋への関心が高く、例えば404 Blog Not Found:No Rivails, No Games.が将棋をワンオブゼム的なとらえ方をしているのに比べて、将棋をわかっている人だと思っています。それを踏まえて書きますが、違和感というか現状認識の差のようなものは感じます。

この形を勉強するならこの人の棋譜を見ればいい、というのがある」という話をしています。その前を読むと「この形」というのは序盤における戦形のことを指していると思われます。現在将棋で序盤研究が重要なのは確かですが、それだけでは勝てません。少なくとも羽生三冠はそういう将棋を指す棋士ではありません。ではなぜ研究するかというと、どこかで羽生三冠が書くか話すかしていたと思いますが、負けないためということです。研究で勝つことを期待してはいけないが研究不足で負けるのは恥ずかしい、そういう話だったと思います。

羽生三冠が勝てるのは研究がすごいからという面ももちろんあるのですが、それよりも大きな要素が何かあるという見方の方が普通だと思います。研究以外の要素が何かをはっきり述べられる人はいないと思いますが、序盤ではなく中終盤での何かでしょう。序盤はいいのに中終盤での実力が不足していて上に行けないタイプの棋士もいるので、そういう棋士棋譜は羽生三冠に限らず当然チェックするものだと思います。「人を見抜く」という点については後編に続くようなので、そのあたりで何か出てくるかもしれませんね。

控え室の模様まで『だれだれ四段はこの手が有力だと言っている』とかまで入っている」という部分については、上位棋士ならネームバリューがあるので名前を出して書かれるのは当然としても下位の無名な棋士のコメントまできちんとフォローされているのはすごいというような含みではないかと私は感じました。ただ、「羽生さんには発言が気になる四段が何人かいるようです」という部分はおそらくその通りで、プロになる前の奨励会員でもチェック対象になっている人がいておかしくないと思います。

羽生さんくらい強かったら、B級以下の棋士の研究なんてチャチで全く参考にならないのではないかと思っていたのですが、そういうことではないようです」ということは全くなくて、部分部分では羽生三冠を上回る棋士は多数いるはずです。特に序盤研究という点では、一部の若手棋士の方が精力的ではないでしょうか。羽生三冠には研究に割く時間があまりないという事情もありますので。

最近の問題意識としては、対局棋譜に表れない情報をどう考えるかという点だと思います。対局とは別に行われる研究会で出た結論が広まったり広まらなかったりする。そういう情報をキャッチできるかどうかが対局結果に影響を与えたりする。そこにはプロ同士の個人的な関係が絡んでくるわけで、そういうものに結果が大きく左右されるとしたらどうなのか。そのあたりは今後議論になるかもしれません。

将棋の四段(若い人)は、今では大半が所属クラス以上の実力があるのは常識ですが」という部分については、最近はそうでもないという認識に変わりつつあるように思います。プロ入り後活躍が見込める新人とそうでない新人の二極化の傾向が感じられるというところでしょうか。実際、近年は新人が順位戦C級2組で降級点をもらうことが珍しくなくなりました。この理由としては、新人がカモにできるくらい実力の落ちた棋士が、1987年に創設されたフリークラスにあらかた降級してしまったために、C級2組の相対的地位が上がったことが指摘されますが、それ以外には、単に羽生世代が特別だっただけだとか、奨励会全体のレベルが落ちているとかいう可能性もあるかもしれません。

週刊東洋経済の記事からは、「他人に頼る」というような受動的な考えではなく、利用できるものは利用するというような積極的な姿勢を私は感じました。

いろいろ書いてみましたが、まだ隔靴掻痒的な何かを感じます。後編待ちですかねえ。

*1:何度か取り上げたり取り上げていただいたりしたことがあります。以前は「圏外からのひとこと」という名前でした。