プロ編入試験制度について

5月26日に棋士総会でプロ編入制度案を可決 女流棋士も対象にでお伝えしたとおり、将棋界にプロ編入制度が導入されました。奨励会以外からの道ができたという点で歴史的な第一歩でした。ただ、10勝以上かつ勝率6割5分以上という基準はかなり厳しいもので、アマチュアからプロ編入試験への門という意味では、ほぼゼロ回答だったというのが私の認識です。試験そのものよりも足切り基準の方が厳しいですね。

週刊将棋7月5日号では、日本将棋連盟理事の森下卓九段がインタビューを受けています。この内容の一部はプロ編入試験制度@将棋パイナップルに書かれています。上にも書いたとおり、アマチュアがプロ編入試験を受験できる見込みは現状ではほとんどないと思っているので試験制度の詳細を詰めて考える意欲が湧かないのですが、規定の成績を達成した後に仕事が多忙などの理由で編入試験受験の権利を一時保留することが可能かどうかは気になっています。それから「受験者に試験官の対局料や諸経費(の大半?)を負担させるのが本当に妥当なのかどうか」という部分は、私も疑問を感じます。公式戦に参加するアマチュアと同じ扱いでいいと思うのですが。

女流棋士については、アマチュアよりも参加できる棋戦数が多いこともあり、アマチュアよりも現実味があります。女流棋士がフリークラス編入した場合、女流棋士との兼業が可能なのかどうかは気になります。囲碁界と同じように考えれば、可能なんでしょうけども。

そのほかに、興味深い部分を引用します。

――公式戦出場枠が変動した場合などは、受験資格も再考されるのですか。

「運用については柔軟な姿勢でやっていくつもりですから、環境や前提が変われば、当然そういうことになるでしょう」

――委員会の答申段階では「特例案として、全棋士参加による棋戦の優勝者は、即プロ棋士とする」とうものがありました。これはどうなったのでしょう。

「もしそれが現実になったら、無条件で編入を認めるしかありませんので、あえて議論するようなことでもないと。その人にはむしろ、プロになっていただかないと困ります(笑)。これは条文化する必要すらないかもしれませんね」

1つ目の質問は、名人戦問題を背景にして、朝日オープン(アマ8枠・女流2枠)がなくなったときに基準が緩和される可能性を示唆しているのかなと思います。2つ目については、どういう経緯で明文化が消えたのかの話をしてもらいたかったです。一度出てきたはずのものがいつのまにかなくなるとか、決まりがないことでも適当にできるような姿勢を見ると不安になります。

次に、将棋世界8月号で片上大輔四段が「毎日がオフタイム」でプロ編入について感想を書いています。

昨年春、嘆願書が出された頃。私は瀬川さんの成績がどんなに突出しているとしても、ことプロ入りとなると、はっきり言って大反対だった。感情的なことだけ言えば、奨励会と何の関係もないところで、ちょっと(この部分が実に感情的だ)勝ったからって、プロになられたんじゃたまらないと思った。

理屈もないではなかった。唯一のプロ養成機関であるはずの奨励会に入ったせいで、プロになれるチャンスが狭まったとしたら、それはおかしいのではないか……?すなわち、奨励会員は出場すらできない数多くのアマ大会で、プロ棋戦ひいてはプロ入りの切符がつかめるのはどう考えても不条理だ。本当に門戸を開くというなら、奨励会員も参加できないとおかしいのではないか。奨励会は挑戦する機会を奪う場なのか……。

この後に「こうした理屈が正当なのかはともかくとしても、」と続いているとおり、プロ編入制度ができたからといって奨励会員のチャンスが減るわけでないことは言うまでもありません(三段リーグから入る人がいると減りますが)。それはそれとして、片上四段はそうは書いていませんが、後半部分から自然に続く結論は奨励会員がプロ棋戦に参加する機会を増やし、奨励会員もプロ編入制度の対象とすべきだということになるのではないでしょうか。どこで読んだか失念しましたが、読売新聞社竜王戦奨励会三段の参加を要望しているという話を見た記憶があります。現在、奨励会員が参加できる公式棋戦は新人王戦だけですが、私は奨励会員の将棋をもっと見てみたいです。

さて、このような制度ですが、次のような記事がありました。

十四歳から二十六歳まで、プロ棋士養成機関・奨励会に在籍した。上位二人がプロ棋士になれる三段リーグで二回、次点(三位)に。現在の規定ならプロ棋士・四段に昇段する成績だが、当時の規定では四段に手が届かず、年齢制限のため奨励会を退会した。

だが、プロ棋士になる夢はあきらめなかった。瀬川晶司さん(現四段)が昨年、プロ棋士編入試験でプロ入りを果たしたのを機に、三年半勤めた会社を退職。アルバイトをしながら、将棋に打ち込む生活を再開した。

日本将棋連盟は今年五月、新たなプロ棋士編入制度を発表。対プロ戦で一定以上の成績を上げた者を対象にした編入試験、アマの全国大会優勝者を対象に行う奨励会三段編入試験-という二つの道を開いた。

「どちらを選択するか、迷っている」

そこまで本気で取り組むような人が出てくるのであれば、制度ができたことは無駄ではなかったなと思いました。

ところでやや話は変わりますが、アマチュアからプロになるために厳しい基準を課すことにしたのに、現役のプロ棋士はその基準をクリアできていないのではという疑問は当然生じてきます。これに関して、森下九段はインタビューで次のように答えています。

――これだけ高いハードルを設定して、ではプロはどうなのだ、という見方も出てくると思いますが。

「当然でしょうね。すでにそういう声は内外から上がっています。例えば、ある棋戦で何年も初戦負けが続いたら翌年は出場を見合わせてほしいという要望もきています。この編入試験委員会とは別に、制度改革委員会でそちらの検討が進められています」

これと符合する形で、よみくま氏は次のような書き込みをしています。

13: 名前:よみくま投稿日:2006/07/06(木) 07:56

いずれにしても、8月1日に予定されている臨時総会が終わってからでしょうね。
プロ試験受験のハードルが高すぎるとは思いますが、スポンサーの立場から見れば、その規定に何年も該当しない棋士のトーナメント参加資格は大幅に制限されるはずですから連盟の運営がスリム化するというメリットもあります。
すでに複数の社が非公式にそれぞれの棋戦でフリークラスのような制度を導入するよう申し入れています。
それにしても、今の連盟の状況を見ていて、プロ棋士になりたいという社会人アマトップがいるんですかねえ?

せんすぶろぐ - 石田章「囲碁界の真相」/順位戦にあるいくつかの提案も関連しそうです。

ファンの立場から見ると、主催社がお金を節約したいなら対局数が減るよりも対局料の減少で対処してもらいたいです。例えば、一部の下位棋士向けに予備予選のような制度を作り、そこを勝ち抜かないと対局料がゼロになるというような形ではどうでしょうか。

具体的な形態はともかく、全棋士が現在のような形で棋戦に参加してお金を稼ぐという制度は近い将来存続しない可能性が高いように思います。これは良い悪い以前の問題で、内部で覚悟を固めている人も多いのではないかと感じます。対局以外の部分に生活の基盤を持つことができるような人が、これからのプロ棋士として重要になってくるでしょう。