将棋世界8月号
7月3日に将棋世界8月号が発売になりました。先月号で連載がいろいろ終了したこともあり、大幅なリニューアル号という位置づけです。
目を引くのが、「羽生善治、将棋の《今》を語る」「棋聖戦第1局ダブル自戦解説」「トップ6棋士夢の競演!イメージと読みの将棋観」などのトップ棋士を起用した記事。こんなにトップ棋士を持ってくるのはある意味反則で、面白くならないわけがありません。
「羽生善治、将棋の《今》を語る」
「羽生善治、将棋の《今》を語る」は羽生善治三冠のインタビュー記事。インタビュアーは浅川書房の浅川浩氏。16ページとかなり長尺の記事になっています。私が印象に残ったのは次の部分でした。
――羽生さんは「今の若手は完成度が高い」とおっしゃっています。どのへんに完成度の高さを感じますか?
私が新四段のころは、だれがどう見ても、粗っぽい将棋を指しているんですよ。これは私に限らず、森内さんや佐藤さんの棋譜を見てもそう感じます。でも今の若手の人は、そういう粗い部分があったら、もう四段にはなれないんですよね。そういう部分も修練して、短所を克服していかないと、たぶん難しい……。そこが私たちの時代との決定的な違いです。ですから、若手の棋譜を見たとき、完成度がまるで違う。
――完成度が高いということは、よいことなのですね。
いいことだと思います。今の制度は絶対評価ではなく相対評価ですから、自分が上がっていても、周りも上がっているから、上がっているようには見えないだけです。
この記事の終わりの部分では、他のプロ棋士からの質問に羽生三冠が答えています。特筆するほどのものはありませんでしたが、いくつか面白いところもありました。
「棋聖戦第1局ダブル自戦解説 怖れと自身と」
佐藤康光棋聖と鈴木大介八段が対戦した棋聖戦第1局を、対局者の2人が誌面上で同時並行する形で解説する企画。ページ上段で佐藤棋聖が、下段で鈴木八段が同じ将棋を解説しています。始めてみましたが面白い形式だと思います。ただ、双方の解説と局面の進行具合がずれているためにやや読みにくく感じました。そのあたりは、今後編集でカバーできるように期待したいです。
この内容を踏まえて棋聖戦第3局の将棋になったと思われるので、なおさら興味深いですね。
「トップ6棋士夢の競演!イメージと読みの将棋観」
森内俊之名人・羽生善治三冠・佐藤康光棋聖・谷川浩司九段・藤井猛九段・渡辺明竜王というトップ中のトップ棋士6名が、共通のテーマについて意見を述べるという、たしかに夢のような企画です。要するに、『読みの技法』の拡大版という趣旨でしょうか。『読みの技法』は将棋史上に残る名著で、別の棋士も加えて再現してほしいと思っていた方が多かったと思います。ただ、テーマをどう選ぶかが難しいですね。『読みの技法』では島朗八段がその難しい仕事をこなしていました。
今回のテーマは、将棋の出だしの考え方、定跡形の優劣の見解、大山-升田戦終盤での読みの3種。ちょっとテーマの選び方がいまいちだったかなという気はしました。もっとも、これだけのメンバーなんだからという期待の大きさを抜きにすれば十分すぎるほど面白い内容です。
やや不満だったのは、定跡形ならば知識だけで答えてしまう話だったこと。本に書かれているようなことであればそれを踏まえた上でどうなのかという持っていきかたにしないと、通りいっぺんで終わってしまいそうです。右四間飛車の話では、一番研究しているであろう藤井九段の見解がやけに目立っていました。
大山-升田戦について尋ねたのは、昭和と平成の将棋の作りの違いがわずかに見えてくる感じで面白かったです。ただ、あれだけ終盤だと読み切るかどうかになってしまいそうで、それなら若手棋士に時間をかけて読ませればいいという話だと思います。読み比べで誰が正しいかという方向に興味が行きそうな局面ではなく、トップの中でもいろんな感覚がある、しかも大山升田の感覚とも違うという形になるともっと面白くなるだろうと感じました。
「勝又教授のこれならわかる!最新戦法講義」
今月はこれまでとは少し趣が違って、「序盤の駆け引きの楽しみ方」というテーマです。矢倉とか横歩取りとか相振り飛車とか将棋にはいろんな戦形がありますが、そういう戦形の中でどれになるのか決まる前の超序盤での指し手の話です。
例えば、振り飛車専門でない棋士が先手を持ったときの▲7六歩△3四歩▲6六歩という出だし。矢倉・相振り飛車という古参の定跡サイトがありますが、まさにそういうことなんですね。まだまだ将棋にはいろんな可能性があります。
「女流王将戦五番勝負第2〜5局観戦記」
千葉涼子女流王将の夫の千葉幸生五段を起用しての観戦記。「神吉宏充のワンダフル関西」もそうですが、人選から面白くしようという意欲を感じます。
それとは関係ありませんが、今月号は黄色いページがなくなりました。昇段コースのページが白いことに違和感を覚える自分に少し驚きました。
将棋大賞に「名局賞」創設
先月終了した「タカミチの実戦コーナー」にかわる企画なのでしょう。3名の棋士が1カ月の棋譜から「名局」を推薦して解説するコーナー「名局セレクション」が始まりました。これ以外の将棋も含め、読者からの推薦を受け付けるそうです。そして、最終的には将棋大賞で「名局賞」として表彰されるということです。
この調子で、ほりあてくんの考え方が進めようとしていた「ムーブ オブ ザ マンス」のようなことができるようになるといいですね。
「片山倫生 短編詰将棋集(究極の3手5手)」
片山倫生氏は主に短編を得意とする詰将棋作家で、特に一桁の短い手数の短編では第一人者と言える存在です。本名以外にもいくつかのペンネームで多数の作品をされており、この作品集ではそのような作品の中から3手・5手詰の傑作を集めています。短い手数なのに解けないと嘆く方も多いのではないかと思いますが、手数が短いから簡単だろうというのが誤った思いこみで、3手・5手でもこれだけすごいことができるのです。
読者アンケート
今月号からだったか確認していませんが、読者アンケートのはがきがはさまっています。料金受取人払いなところにおっと思いました。アンケートはウェブ上でも回答できます。
上のページのURLが http://www7a.biglobe.ne.jp/~shogi/ となっているので公式のものかどうかわかりにくいですが、日本将棋連盟サイトからリンクされているので間違いありません。どうして公式サイトから分離してしまったのでしょうね。