名人戦契約問題についていろいろ(39)

ちょっと間が空きましたが、その間にもぽつぽつと記事が出てきますので順に紹介していきます。

7月17日の読売新聞朝刊で「“名人戦”毎・朝が王手」という見出しの記事が出てきます。毎日新聞社朝日新聞社の提案内容について解説し、それぞれについて金額の合計を試算した上で、「現時点では、態度を決めかねている棋士が多く、形勢は不明」としています。

勝負師である棋士は、損得だけでは動かない。毎日社員が棋士宅を戸別訪問して説明したり、新しい契約金額を事前に提示したりしたことが「やり過ぎ」として反発を招き、毎日離れが起きた面もある。

逆に、一部の理事が、棋士会などで毎日を擁護する発言をした棋士に対し「君は毎日の社員なのか」「朝日移管に反対するなら連盟を立て直す対案を出してみろ」などと高圧的な態度を取ったことは朝日離れを招いた。

自分を信じ、とことん考え抜いて指した手に人生をかける棋士を強引に説得しようとすれば、逆に離れてしまうのだ。

以前の読売ウイークリーの記事にも似たような話がありました。こういう要素は現実にはどの程度の重みを持っているのでしょうね。考え抜くのはいいことですが、ファンや後世の人々にその結論を合理的に説明できるようにする義務を負っている点が将棋の対局とは違います。基本的にその理由は契約内容の違いに求めるのが私は自然なので、上記のような話だけで賛否が決まってしまうようなことがあるというのは理解できないと感じます。

この記事では最後に次のように書かれています。

どちらを選んでも一方の新聞社は棋士に対して不信感を募らせ、将棋連盟は深い傷を負うだろう。連盟が発足して80年余り。経営難を打開するために名人戦移管問題が浮上したとはいえ、スポンサーである新聞社を両天秤にかけるという前代未聞の事態を招いた8人の理事はどう責任を取るのだろうか。

名人戦を主催できる方の新聞社は不信感を持たなくなるのかとか、ファンはどうなのとか他にも思うことはいろいろありますが、読売新聞社の不信感については触れていないのがせめてもの配慮というところでしょうか。棋戦の主催社が変わってはいけないということはないと私は思いますけれども、今回のそのやり方がまずかったということを否定する人はいないでしょう。「恩義」というような話をすればもちろんそれは肯定されますが、そうではなくあえて金銭的な価値観で書くとしても、理事会は数少ない切り札を無駄に使ってしまったという言い方になると思います。

次に、7月20日毎日新聞の記事が出ています。

日本将棋連盟米長邦雄会長と西村一義専務理事、森内俊之名人、羽生善治王将の4人が19日、毎日新聞東京本社を訪れ、毎日新聞社朝比奈豊主筆らと懇談した。

どのような話があったのかはあまり書かれていません。

これについて朝比奈主筆は「毎日新聞社を第一交渉相手と認め、棋士の総意で決める形を作ってもらい、感謝しています」とあいさつ。「名人戦王将戦をますます盛り上げるため、毎日新聞社はグループ一丸となって、誠心誠意頑張っていきます」と理解を求めた。米長会長は「名人戦問題については、理事会はもう口をさしはさめる立場ではなく、棋士の総意を厳粛に受け止めていただきたい」と答えた。

最後の米長永世棋聖のコメントの「棋士の総意を厳粛に受け止めていただきたい」という部分は、何だか他人事っぽいですね。棋士総会は日本将棋連盟の最高意思決定機関ですから、その決定は日本将棋連盟の意志にほかならず、会長である米長永世棋聖はまさにその当事者のはずです。理事会と棋士全体で意思に開きがあるという認識が無意識に表れたのかと思いました。そういう解釈のできる記事の作りになっているということですね。米長永世棋聖が強調したかったのは、おそらく「理事会はもう口をさしはさめる立場ではなく」の方だったのでしょう。

7月21日は関西で棋士会が行われました。以下はそれに関する記事です。

7月12日の名人戦契約問題についていろいろ(37)で紹介した「臨時総会での表決方法はまだ固まっていない」という中原誠永世十段の発言に関連して、毎日新聞の記事は西村一義九段の発言として次のように伝えています。

また、8月1日の臨時総会での表決方法については、「5月26日の棋士総会での決定通り、毎日新聞社の案に対する表決を行う」と語った。

今月12日に東京で行われた棋士会終了後、記者会見した中原誠副会長は「8月1日の臨時総会での表決方法はまだ固まっていない。それは理事会の判断で決めること」と発言。これに対して毎日新聞社は14日、棋士総会での決定通りに表決を求める申し入れ書を提出していた。

これを読むと判断が完全に覆ったように見えます。共同通信では次のようになっています。

同専務理事はこの日、大阪市関西将棋会館で開かれた棋士会に出席、棋士20人に主催問題の経緯を説明。その後、「投票方法の細部は次の理事会で詰めるが、基本的に毎日単独案の賛否を問う形になる」と語った。

「基本的に」のあたりがまだ微妙な感じです。また、スポニチ関西の記事では次のようになっています。

閉会後記者会見に臨んだ西村一義専務理事は「7月10日に毎日側から提示された契約案を8月1日の臨時棋士総会で表決する方針に変わりない」とした上で「具体的な表決の方法はまだ決めていない」と語った。(1)毎日案そのものへの賛否(2)毎日案か朝日案のいずれかへの支持、のいずれの方法になるかは定かでないものの「いずれにしろ二者択一の表決になる」ときっぱり。長引いた名人戦問題は実質的には8月1日に決着する見通しだ。

これを読むとどういう迷い方をしているのかわからなくなります。総会報告の補足説明を読むと上の(1)としか解釈できない気がします。まあ、毎日新聞社の案が否決されたらその直後に朝日新聞社の案を採決することにするなら、事実上ほとんど(2)と同じになりますが。

それから、22日の毎日新聞には次のような記事も出ています。

この「盤樹の森」のイベントの中で、名人戦に関する提案に登場した「東日本都市対抗将棋大会」が開催されます。この記事の中で次のように書かれています。

東日本都市対抗将棋大会は、さいたま市が連覇をめざし、バランスのとれた布陣。特に松本誠選手は第17期アマ王将戦の優勝者で、チームをけん引する。さいたま市を脅かす存在となりそうなのは東京23区と仙台市の2チーム。東京23区は第52回箱根名人戦で優勝した山田洋次選手と第14回アマ竜王戦で準優勝の細川大市郎選手をそろえた。仙台市は第38期女流アマ名人戦で準優勝した成田弥穂選手がいる。しかし、大方の将棋関係者は「各代表都市は昨年に比べ戦力が向上しており、混戦模様」と予想している。

この大会は来年、全国大会に格上げし、全国都市対抗将棋大会へとスケールアップする。

最後の一文におやっと思いました。「来年も名人戦主催が続いたら」という前提を省略してしまったのでしょうか。この部分の筆者がどんな人なのかわからなかったのですが、あまり事情に明るくなかったのかもしれません。