長い観戦記の方が面白い

僕がこのコラムで書きたかったことは、シンプルに観戦記の長さの問題なのである。

新聞というのは発行部数が多い分、一文字あたりの価値(コスト)が高い。よって僕などが執筆依頼を受けるときでも、雑誌よりもさらに制限字数が短い。そういう制約を「当たり前」の前提にして新聞の将棋観戦記というものが書かれている。インターネットにはそういう制限字数のコスト的制約などないのに、その思考の枠が取り払われていないのである。

梅田望夫氏は以前からこういったことを書かれてきており*1、私も賛成です。金子金五郎九段の観戦記については、1月21日に河口俊彦七段による「解説の解説」で紹介した「国文学 解釈と鑑賞 平成18年1月号」に掲載された河口俊彦七段による「一局の解説―金子金五郎名解説を解説する」をおすすめします。

日本将棋連盟が将棋界をどのように支えていくのかとは別に、将棋に億単位の資金を費やしている新聞社がどのようにしてその投資を実のあるものにしていくのかということはこれまであまり重要視されていませんでした。今回のコラムが掲載された毎日新聞社に関して言うと、名人戦七番勝負の観戦記をまとめた『第64期将棋名人戦七番勝負』の単行本が象徴的だと私は感じています。この本は名人戦七番勝負の観戦記をまとめたという本当にそれだけと言ってもいいような内容です*2。出版時にはインターネットはもちろん月刊誌も含めて情報が出揃っているのですから、本当に売る気があるのならば、取材し直すなどしてさらに付加価値を付けてもらわないと、同サイズの将棋本の通常の値段を上回る1890円という定価に見合うものとは感じられません。

2003年9月29日に観戦記を電子ブックでで紹介したように、毎日新聞社は以前電子書店パピレス名人戦の観戦記を売っていたことがありました。これがほとんど話題にならなかったことからも明らかなように結局失敗に終わったわけですが、その原因の一端は観戦記1局あたり300円という高額な価格設定にあったのでしょう。しかし、観戦記をそのまま出しておけばいいという感覚にも問題があったと思います。

インターネットが普及する以前からこのような状況だったことを考えると、新聞社は将棋を活用して利益を出すという発想がそもそもないのかなと感じています。しかし、私は将棋は使いようでもっと価値が出ると信じていますので、新聞社の上の人を説得してもっと多くの魅力を伝えてほしいと思っています。そういうときに、インターネットだけではなく単行本とも連動させると言う方がやりやすいかもしれないと思いました。

*1:http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/archive?word=%2a%5b%be%ad%b4%fd%5d

*2:今期の名人戦は6局で終わったため、順位戦A級プレーオフの観戦記も収録されています。