武者野vs米長裁判「ご報告」 将棋世界3月号に掲載

武者野勝巳六段の運営する株式会社棋泉が米長邦雄永世棋聖などを訴えて著作権侵害の損害賠償を求め、2006年12月22日に和解が成立した裁判に関連して、2月3日発売の将棋世界2007年3月号248ページに「米長邦雄及び株式会社サクセスからのお知らせ」と題する文書が掲載されています(2月3日に更新された米長邦雄の家によると、2月5日発売の週刊将棋2月7日号にも同一の文書が掲載されるそうです)。この文書では「米長邦雄の個人的な懸案事項は、昨年中に解決致しました。」と始まり、米長邦雄永世棋聖に関する記事を掲載した週刊誌・日刊紙等について出版者側(どこの会社かは不明)と「和解」に至ったことが書かれています。これは裁判とは直接関係なく、株式会社サクセスとも無関係の話で、ここに書かれたことの意味合いはよくわかりません。株式会社サクセスはこの文章をチェックしたのだろうかと疑問を感じさせるような文です。

その上で、「原告の希望通り報告文を掲載します」として、「関係各位の皆様に対するご報告」と題する文章が掲載されています。この中で合意内容に関しては次のように書かれています。

本件将棋ソフトについて、原告に権利の帰属する著作部分に関し、被告らの一部侵害行為があったことを認め、米長邦雄永世棋聖及びサクセス社は、武者野勝巳六段にお詫びをして、裁判所の提示した解決金を支払い、武者野六段は、これら全てを了とし、両者は合意に至った。

被告側(米長邦雄永世棋聖、株式会社米長企画、株式会社サクセス)による著作権侵害を認めること、米長永世棋聖とサクセス社が武者野勝巳六段に謝罪すること、東京地裁から提示された金額の解決金(報道によると万円)を支払うことの3点が、和解内容だったということです。

一般論として言えば、著作権に関する裁判では著作権の及ぶ範囲について微妙な判断が求められることが多く、裁判官にとっても判断が困難な事件が数多くあります。その意味で、紛争になったときにはっきりした基準がなく、裁判で白黒をつけるよりないという場面はありうるわけで、訴訟に敗れたから直ちに倫理的に悪いという話にはならないと考えられます。当初武者野六段が主張したように「盗作」という言い方ですと、著作権侵害を認識していながら故意に複製などを行ったという意味と捉えられます。その場合には倫理的な責任も生じてくる余地がありますが、今回の事実関係がどうだったのかは明らかになっておらず、和解内容が今回のようなものにとどまっている限り、お詫びしている部分については悪かったのだろうという異常は言えないというのが私の考えです。

この件に関連して米長邦雄永世棋聖は2月3日更新の米長邦雄の家で「和解(1)」と題する文章を掲載しています。表題からして続きがあるということですが、今回は上記の内容への解説めいたものを中心に記述されています。

和解条項のポイントは3つです。

  1. 原告と被告は、和解した後には互いに信頼関係を深め将棋界のために手をたずさえて尽力する。
  2. 著作権の一部侵害を認め、解決金を支払う。この金額提示は高須氏と新宿の高級バーのママの助言による額です。
  3. 報告文を将棋世界週刊将棋の二誌に掲載すること。和解ですから、勝った負けたとは違います。

1点目については、「原告と被告」ではなく「米長永世棋聖と武者野六段」が正確ですが、大筋では「ご報告」通りです。2点目については、「ご報告」で「裁判所の提示した解決金」となっているのとは食い違いが見られます。3点目の第1文は掲載されているとおり。第2文はそういう言い方も正しいというところでしょうか。一般的に合意内容というのは、合意が成立しなかったときの帰結に関する各当事者の予想がどうなっているかを反映したものであることは言うまでもありません。

米長永世棋聖の文章は次のように終わっています。

この3つの嵐の中で、私はじっと様子を見ていましたが、ごく特定の人達の自作自演に過ぎないこと氣がつきました。

  • 名人戦の落とし所をどうするか
  • 著作権裁判をどうするか、名誉毀損で相手を刑事で逆提訴するか
  • 週刊誌を刑事、民事双方で訴えるか

この3つには共通したことがあるのですね。そこで直接行動を起こしました。「高須基仁さん。お目にかかりたい」今週はここまでです。

事情がよくわかりませんが、翌週にはまた何か報告があるのでしょう。後ろの2つについては自由にしたらいいと思いますが、名人戦については特定の人がどうこうできるような小さな話ではなかったように思います。狭いところだけにこだわって木を見て森を見ずのようなことにならないか不安に感じました。