武者野六段の見解

武者野勝巳六段が自身の掲示板で、棋譜の取り扱いについて興味深い見解を表明していたので、引用しておきます。(下記の文中で「マリオ」というのは武者野六段の愛称です。)

[2734] Re[2726]: 著作権 投稿者:マリオ 投稿日:2003/05/31(Sat) 12:23

> 大変素朴な考えで恐縮ですが、棋譜と普通の著作物とは性質が違うんじゃないでしょうか?

まったくそのとおりですね。そこで「現行法制上、将棋囲碁棋譜著作権の対象範囲には入らない」と声高に主張する方もいるようです。現行法制上というのがポイントなんですが、例えばコンピュータソフトに関する権利などは、立法が遅れるのが常で、権利譲渡や転用に関わる取引例。そして判例の方が先行しています。

マリオも総務担当理事だったときに文化庁に判断を仰いだり、多くの法律家に相談したりしましたが、おおむね「棋譜の権利については立法済みの条文には該当しないが、多額の対価を伴って権利譲渡がなされている現状に鑑みれば、何らかの無形財産権があると判断するのが至当」というアドバイスが大勢でした。

(社)日本将棋連盟と新聞社は、棋戦開催期間中の一年間「棋譜の初出掲載権」や「独占掲載権」というような表現の契約を結び、多額の契約金を頂戴しています。そこで、この期間内に契約と関係のない第三者が無秩序に棋譜を公開するのは、この契約を無力にするという意味でかなりの問題があると考えていますが、一方で将棋技術の進歩という面から考えると、本来の著作権者であるプロ棋士は上記契約に著しい悪影響を及ぼさない限り、棋譜を公開しファンの参考として頂くのは喜ばしいことだと思っていると思います。

ですから、実力制名人戦や段位廃止戦(現行順位戦)の初期の頃の棋譜を瘋癲老人さんが公開されるのは、考えようもないほど小さなマイナスより、考え得るプラスの方が大きいと判断し、掲載続行を判断しました。なお以上はあくまでマリオ個人の判断でありますので、(社)日本将棋連盟の公式見解とは受け取らないでください。

私の知る限りでは、日本将棋連盟棋譜著作権について調査したことがあるということが明らかになったのはこれが初めてのことです。それが正しいとすると、将棋メーリングリスト利用についてのお願いに書かれている、「日本将棋連盟からのお願い」の文章は法的なことを調べた上での回答ということになりそうです。おそらくそのように書かれているとおりなのでしょう。

武者野六段の言う「何らかの無形財産権があると判断するのが至当」というのは、「何らかの無形財産権」をどのように位置づけるかが問題になってくると思われます。これについては私自身の理解が足りないので、さらに調べてみる必要があると考えています。

基本的に棋譜を公開し参考にするのは歓迎されるべきことであるというのは、私の考えとも一致します。どのような条件があれば棋譜公開が許されるのかを、早急に明確にしていただきたいものです。なお上記の見解を素直に読むと、「棋戦開催期間中の一年間」を経過した棋譜については公開しても差し支えないと読めますが、どうなのでしょう。よくわかりませんが。