NHK将棋講座でコスプレ

番組中ではコスプレとは言っていませんでしたがこれ以外の表題を思いつきませんでした。

28日に放送されたNHK将棋講座の1コーナー「谷川浩司のワンポイントクリニック」で、谷川浩司九段と島井咲緒里女流初段が医者とナースの白衣姿で登場しました。「クリニック」からの発想ということのようです。

谷川九段はスーツの上に白衣を着用し聴診器を首に下げた格好でした。島井女流初段は全身着替えていた感じです。この姿はたまたまチャンネルを替えていて目に入った人には特にインパクトがあったようです。何しろいままでなかった絵ですからね。場違いなのもたまにはいいと思います。

これは月1回のコーナーで、谷川九段がアマチュア棋譜を講評するというもの。先月は普通のスーツでした。谷川九段は一度こういう格好をしてみたかったがテレビとは思わなかったと話していましたけど、結構のりがいいんですね。

5月31日追記

コスプレからは離れて、講座そのものの内容について。

maro_chroniconさんからこの将棋講座の内容について「いささか否定的」というコメントをいただきました。ニュアンスは違うかもしれませんが、私もそのように考えていました。一言で言えばもったいないという感じでしょうか。これについて少し書いてみます。

将棋講座をご覧になっていない方のために、まず講座の内容を説明します。谷川浩司九段が2月18日に書いたところによれば、次のようなことを狙いにしているそうです。

4月から半年間、NHK講座の講師を務める事になった。テーマは「本筋を見極める」。聞き手は島井咲緒里女流初段である。

正しい考え方、正しい感覚を、初心者にも分かりやすく、有段者にも参考になるように進めてゆきたい。将棋の醍醐味は何といっても、自分の思い通りに駒を進めてゆけるところにあるのだから、こう指しなさい、ではなく、このような考え方をヒントに着手は自分で決めましょう、というスタイルがベストだと思っている。4・5月が序盤、6・7月が中盤、8・9月が終盤の予定である。

ということで、現在は序盤が終了したところです。例えば、5月28日放送分は相掛かりがテーマでした。

  • いきなり▲2四歩と突いてはいけない。
  • ▲2六飛型の作戦その1(中原流▲3七銀戦法)
  • ▲2六飛型の作戦その2(相腰掛け銀)
  • ▲2六飛型の作戦その3(ひねり飛車)
  • ▲2八飛型の作戦(▲3六銀型)

このような内容を正味十数分で解説します。あまり時間がないので、変化はほとんど並べられません。ともすれば狭く深くの方向へ傾きがちな現代将棋にあって、谷川九段は広く浅くを指向したのかなと解釈しています。

広さへの指向という点で思い出されるのが、1999年に発売された『将棋新理論』です。この本は8種類の駒それぞれについて、定跡や実戦でありがちな局面をもとにその性質を描いた上で最後に谷川九段の実戦例をつけて締めくくっています。ただ、1冊ですべての駒について解説するのは紙数が少なすぎた印象で、例えば本の目的は違いますが『羽生の法則』シリーズが4巻かけているのに比べると、薄さを感じることになるかと思います。その一言の裏には深い内容があることは感じ取れるのですがそれが十分に表面まで引き出されていない、そういう惜しい本だったというのが私の評価です。

講座の内容が私にとって不満な点は2つあります。1つは、浅いといっても浅すぎるのではないかということ。戦形の解説は見ている限り、駒を動かす方に忙しくどうしても通り一遍になってしまっているように感じられます。テキストを見ると若干違った印象もありますが、テレビで見ると『将棋新理論』に垣間見えたような深みを感じる暇もなく終わってしまいます。これであれば谷川九段の必要はないと思います。

もう1つは、講座の対象を絞り切れていないこと。上の谷川九段の考えでは初心者にも有段者にもということになっていますが、初心者は手順のスピードが速くて付いていけず、有段者には知っている手順ばかりで面白くないという現状になっていると思います。

こういった広く浅くの指向は谷川九段の意志でそうなったのだと思います。それ自体は面白い傾向で、『将棋新理論』もあのまま進化すれば将棋の歴史に残る本ができたのではないかと思っています。ただ、谷川九段はおそらく初心者と有段者の差を実感できていないはずで、そのあたりのレベル・スピードを周りの人が
うまく調整してあげないと、今回のように狙いが伝わりきらない中途半端なものになってしまうと思います。