『永久保存版 羽生vs佐藤全局集』など

羽生善治三冠と佐藤康光棋聖の対局が通算100局を越えたことを記念して、9月に出版されたのが『永久保存版 羽生vs佐藤全局集』です。現時点では117局まで増えており、これは現役棋士同士では羽生-谷川に次いで第2位です。この本では、そのうちの110局が解説付きで掲載されているほか、自戦記、インタビュー、谷川浩司九段の分析などの豪華版となっています。その分価格が2,940円と高めですが、普通の本2冊分くらいの価値はありそうです。

このシリーズ(とは少し違う気がしますが)には『谷川vs羽生100番勝負』も良いのですが、私は『村山聖名局譜』も好きです。棋譜そのものだけでなく、そこに付いてくる文章を楽しみにしているようです。

僕は趣味を聞かれると、意識してその一つとして「将棋鑑賞」(「将棋」ではなく)と書く。子供の頃は道場に通ったりして将棋を指すのが大好きだったが、あるときから、棋譜を並べて鑑賞することのほうが好きになったからだ。先日、羽生さんに頼まれて将棋連盟で講演したときに、米長さんから講演のテーマ(「将棋の魅力の伝播、将棋の普及のためにネットにどう積極的に関わっていくか」)以外で「何か一つだけと言われたら将棋界にどんなアドバイスをいただけますか」と質問されて僕が言ったのは、いまはほとんど存在していない「将棋を鑑賞する」という概念が新たに必要なんじゃないかということだった。たしかに将棋には勝ち負けがある。ある程度強くならないと将棋の面白さはわからない。だから「強さ」がすべての基準になる。でもいまの「将棋の普及」って「将棋を指すこと」「将棋が強くなること」に傾斜しすぎていて、「将棋を見てどう楽しむか」という視点が欠けているのではないか、と思うのである。どんなスポーツでも競技人口以上に大きな観戦人口というものがあって、それがそのスポーツの成立を下支えしている。そこを意識的に耕していかなければならないと強く思うのだ。そのことを短い時間で申し上げた。

じつは、僕の親友でさまざまな芸能の興行に携わっているプロ中のプロがいるのだが、彼は将棋タイトル戦のDVDが存在しないことに、大きな機会損失ではないかと驚いていた。僕も考えたことがなかったが、たしかに羽生VS佐藤のタイトル戦のDVDがあれば必ず買い揃えるだろう。DVDという素材の中に、その将棋の魅力をふんだんに盛り込む工夫は絶対にできるはずであり、それが「将棋鑑賞」というジャンルを耕すことになるだろうと思う。

最近デジタル教育3で放送しているNHK杯 名対局アンコールをときどき見るのですが、だらだらと昔の将棋を眺めているだけでも結構楽しかったりするんですよね。映像コンテンツに親しむ機会が増えれば、公開対局や大盤解説会のようなイベントに足を運ぶ人も増えるのではないかと思います。そう言った意味でも、将棋ニュースプラスの実験的な企画は今後の糧になるはずです。

NHK杯戦のDVDとか、本当に出ないですかね。